第8章

08-01 魔法の呪文

 みんなは、蒼白した顔で、目を床に落としている。

 しかし、いつまでも、ここでうずくまっている訳にはいかない。


 私は顔を上げ、声をかけようとした時、CMさんが立ち上がった。

「さあ、みなさん。おそらくみなさんが考えている事は一緒です。しかし、何の確証もない。ここは楽観的に考えて、無事を信じませんか?」


 BMさんも、顔を上げて言った

「ええ、皆さん無事ですよ」


 C子さんも言った。

「ええ、悲観的に捉えるよりも、前を向きましょう」


 B子さんも顔を上げ、詩織も頷いた。


 私は、この部屋に設置されたモニター画面のスイッチを入れた。

 しかし、何も映らなかった。

 おそらく地上の庭園の木々は、全てなぎ倒され、監視カメラなども破壊されたのだろう。


 次に、ホットラインで127さんへの通話を試みた。

 しかし、なんの反応もない。


 この状況から、あまり楽観視出来ない事は伺える。

 しかし、C子さんが言われたとおり、悲観的な可能性に捕らわれては、その先が無い事、頭の中では理解できる。


 C子さんは、魔法の呪文を唱えた。

『みんな無事。避難している。みんな何処かで生活している!』


 そして、みんなもその呪文を復唱した。

 自分に言い聞かせるように。


 そして私は、明るく話しをした。

「さて、これから皆さんと一緒に、知恵を合わせて、この現状を乗り越えて行きましょう」


 私に向けるみんなの目に、力が宿っているのを感じた。


 BMさんが言った。

「まずは、現状の把握」


 まったくそのとおりである。

 私は壁に取り付けられた工具ボックスを外し、M1非常用開閉ハンドルをまわした。

 M1扉が開いていく。

 その先の照明をつけた。


 この核シェルターを、みんなで確認する。

 非常用発電機が動いている。

 既に外部からの電力が絶たれ、自力での電力供給モードに移行したのだろう。


 会議室のような部屋があった。

 そこには大型のディスプレイとパソコンがあり、起動するとさまざまな情報が入っていた。


 以前BMさんが、このシェルターのざっくりとした規模を言われた。

 発電システムの大きさから収容人数は100人程度、食料庫の大きさから3ヵ月程度と言われた。


 パソコンで確認したところ、収容人数は120人、滞在日数は3ヵ月間との事だ。

 となれば、連れて来た襲撃者の女性を加えても、私たちは7人。

 つまり、単純に計算すると、このシェルターで4年以上、過ごす事が可能だ。


 次に、このシェルターの全体図を見つけた。

 かなり大きい。

 さまざまな部屋がある。


 その中に、リザーブと書かれた部屋があった。

 注釈では、精神に異常をきたしてしまった人を、一時的に収容する部屋と書かれている。


 実際の部屋を確認すると、その部屋は外からカギを掛ける事が出来る部屋で、室内にはベッド、トイレ、洗面台とプラスチック製のコップが用意され、天井には監視カメラとマイクが取り付けられている。


 今回、連れて来た襲撃者の女性、意識はあるが、目がうつろである。

 見た感じ、日本人ではない。

 年齢は20代後半から30代といった感じか。


 全員での話し合いで、彼女をその部屋へ運び、女性3人によって武装した服を脱がせ、ベッドに寝せて外からカギを掛けた。


 彼女の存在は、極めて重要である。

 この世界で何が起きたのか、そして、何故こうなったのか。

 その情報を彼女から、得る事が出来るかもしれない。


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 次回:初めての規則

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