07-04 ただごとではない
それからの私と詩織は、ここからの逃亡に向けて準備を進めた。
ハシゴは材料だけを用意し、ハシゴである事がバレないように組み立てない。
組み立ては当日で良い。
詩織は毎回、食事を大目に作る。
私はそれを、今日のお夜食と言って、部屋に持ち帰る。
逃亡時に持っていく食料だ。
しかし、私と詩織が進めている逃亡計画が、この先、意味をなさなくなる事を、その時はまだ、知らなかった。
私と詩織に与えられた1ヵ月間の解放期間は、残り1週間となった。
そして逃亡は、今から3日後を予定した。
私は、いつもの日常を過ごしていた。
その時、ヘリが上空で静止している。
まさか!
私と詩織をむかえにくるのは1週間後。
何か、状況が変わったのか?
それとも、急用の何かが……?
いや、まて。
もしもそうなら、ホットラインで連絡が来るはず。
ヘリは、いつもの発着地とは異なる場所に着陸しようとしている。
やはりおかしい!
彼らはアリーナの人間じゃない!
ヘリは着陸し、武装した人間が6人降りて来た。
マスクをしている為、顔は見えない。
しかし、以前ここへ襲撃に来た彼らとも違う。
近くにいたB子さんも、驚いたようすで見ていた。
私はB子さんに訊いた。
「A子は?」
「たぶんこの時間だとビニールハウスだと思います」
「至急、センタールームに集まるよう、皆に伝えて下さい」
「わかりました!」
私は屋外に出て、詩織が作ったビニールハウスに向かった。
すると、ビニールハウスの前で、ヘリから降りて来た武装した2人と、その先に詩織がいた。
武装した1人は、銃口を詩織に向けている。
私は我を忘れて飛び込み、銃を握った手を掴んで銃口を詩織から外した。
もみ合っている内に銃の引き金が引かれ、それは武装したもう1人に当たった。
……これは、即効性麻酔銃?
その時、武装した2人の腰に付けている物が、一斉にアラームを鳴らした。
襲撃者は、当ててしまった仲間を一目見た後、乗って来たヘリに向かって全速力で走って行った。
他の武装した彼らもヘリに向かって走って行く。
私の直感が伝える。
ただごとではない。
私は撃たれて眠っている襲撃者を担いだ。
その時、その襲撃者が女性である事に気付いた。
私は詩織に向かって言った。
「センタールームに集まっているみんなと、先に降りていてくれ!」
詩織は私を見て、動かない。
私は怒鳴りつけた。
「早く!」
詩織はセンタールームに向かって走った。
私は、この襲撃者を担いでセンタールームに向かった。
武装した彼らのヘリは、飛び立っていった。
すると、詩織が戻って来た。
「なんで!」
「みなさんには先に降りるよう、伝えました!」
私は襲撃者を担いだまま、無言でセンタールームに向かった。
詩織は私の前を進み、扉を開けてくれる。
私がセンタールームに着いた時、彼らは地下へ降りずに私たちを待っていた。
BMさんは、カバーを開けたホットラインの赤ボタンに指を当てている。
私と詩織がセンタールームの床に乗ったと同時に、赤ボタンが押された。
『ドスン』という音とともに、床が降りて行く。
頑丈な隔壁によって、天井が塞がれた。
そして3mおきに、隔壁がスライドし、天井を塞ぐ。
そして7枚目の隔壁が天井を塞いだ時、降下していた床が止まり照明が消えた。
……何も見えない。
その後、何とも言えない嫌な揺れを感じた。
しばらくすると、非常灯がつき、再び床が降下し始めた。
やがて降下していた床は止まり、非常灯が消えて部屋の照明がついた。
私たちは何も言わず、ただ、この床に目を落とし、膝をついている。
みんな考えている事は同じである。
おそらく、核が投下された。
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次回:(第8章1話)魔法の呪文
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