06-04 起動

「目的は、破壊するだけの電磁波が、目標に届く事です」


 私は、その為の方法を説明した。

 実を言うと、単純な方法である。


 電磁パルス砲……1基で届かないのであれば、10基造れば良い。

 10基で届かないのであれば、100基造れば良い。


 しかし、実はそれほど簡単ではない。

 考慮しなければならない制御が2項目ある。


 1つめは、100基の電磁パルスを平行に打ち出しては意味が無い。

 全ての砲門が目標の1点に照射するよう、個別の角度制御が必要となる。


 そして2つめは、100基の電磁パルス砲は、縦10列、横10列の、巨大な砲門となる。

 中心の砲門と端の砲門では、目標の1点との距離に差が生じてしまう。

 距離の差は、電磁パルスの位相にズレが生じる事で打ち消し合ってしまう。

 つまり、100門の電磁パルスは、ターゲットの1点に向けて位相を合わせなければならない。

 その為には、各砲門が出力する電磁パルスの波長を制御する必要がある。


 この2項目の制御を行う為には、目標との距離を正確に測定するシステムの開発が必要となる。


 この内容を理解した112さんと311さんは、直ぐにアリーナ本部に出向き、議会の承認を得て莫大な予算を確保してきた。


 この組織……動きがはやい。


 100基の電磁パルス砲の製造が、急ピッチで進められていく。

 既存の1基と同じものを100基造る。

 特に難しい作業ではない為、311さんの部下である315主任が担当される事となった。


 詩織には静かな一室が与えられ、そこで3番目の論文の理解に取り組んでもらっている。

 1日1回、詩織の部屋へようすを見に行くが、盗聴されている可能性から、めったな会話は出来ない。

 詩織は寝食を忘れて、論文と向き合っているようだ。

 詩織の健康状態が心配である。


 私と311さんは、目標との距離を正確に捉えるシステムの開発に取り組んだ。


 それは、私の研究である、電磁波線の応用である。

 レーダーで捉えた目標に対して電磁波線を照射し、反射してきた電磁波から、距離を正確に割り出す。


 100門の電磁パルス砲が独立して目標の1点に照準を合わせ、目標との距離から波長を制御し、位相を合わせる。


 電磁パルス砲は、1基完成するごとに、砲台に取り付け、制御試験を行った。


 そして、73基目を取り付けている時、監視衛星が捉えた情報から、基地内でアラートが鳴った。

 飛翔体が打ち上げられた。


 私は制御室に駆け付けた。

 アラートを聞きつけ、詩織も駆け付けて来た。


 飛翔体の打ち上げられた角度と速度から、やはりロフテッド軌道であるようだ。

 制御室では、電波望遠カメラで捉えた飛翔体が映し出されている。


 打ち上げから5分経過。

 現在、某国上空2000kmを上昇している。


 私は言った。

「試してみましょう」

 311さんは返した。

「しかし、まだ73基しか……」


「どのような結果が得られるか、確認したいです」

「了解しました」


 311さんは、電磁パルス砲の起動を指示した。

 私は、制御室の窓から電磁パルス砲に目を向けた。


 目標に対する制御シーケンスが作動し始めた。

 建物のような巨大な砲台の上に、長さ18mの電磁パルス砲が73門乗っている。

 その砲台が水平方向に回り、飛翔体に向けた。

 次に垂直方向の角度を合わせる為、巨大な砲門の束を持ち上げている。


 私の頭の中で、音楽が鳴り始めた。

 『ドーン、ドーン、ドーン、ドーン、ダンダン、ドーン、ドーン・・・』


 そして飛翔体の1点に向けて、73門の電磁パルス砲が角度調整を行っている。


 311さんが言った。

「照射、開始します」

 モニター画面上で、上昇し続ける飛翔体に、私たちは注目した。


 照射しながら目標との誤差を修正し、照射を続ける。

 オペレーターが言った。

「誤差修正、完了しました」


 電磁パルス砲は、飛翔体の上昇に追従しながら、照射を続けている。

 しかし、飛翔体に変化は無い。

 やはり破壊するには……この距離では届かないのか……?


 その時、飛翔体が爆発した。

 制御室は静まり返った。


 そして、歓声があがった。

 拍手がわいた。


 しかし、その時私は、取り返しのつかない事態に、一歩踏み込んでしまったような気がした。


 詩織は、爆破した飛翔体をモニターで見ていた。

 私が詩織に声を掛けようとした時、詩織は床に崩れるように倒れた。


 私はすぐさま、詩織を抱き起こした。

 詩織はもうろうとした表情で、過呼吸を起こしている。


 311さんは、即座に救急班を呼んだ。

 詩織を担架に乗せ、医療室へ運びベッドに寝せた。


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 次回:(第7章1話)何処で過ごす?

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