第6章

06-01 別れ

 ホットラインを通して127さんから連絡があった。

 今からヘリで向かう為、庭園の芝生エリアで待機していて欲しいとの事だ。


 ……ヘリで来るとは、ただ事では無い。

 私と詩織は、打ち合わせをした。


 私が代表として話しをする。

 詩織は相手の反応、及び表情を読み取る事に専念する。


 私と詩織との間でサインを決めた。

 『まばたきをゆっくり1回行ったら、それは肯定のサイン。まばたきを続けて2回行ったら、それは否定のサイン』


 それから10分後、ヘリの音が聞こえて来た。

 私と詩織が庭園に出ると、上空ではヘリが空中で停止している。

 そして、ゆっくりと降りて来た。


 私と詩織は砂ほこりを浴びないよう、離れた所で見ていた。

 しかし、あまり砂ホコリは舞い上がらない。

 このエリアは、ヘリポートとして造られていた?


 ヘリは着陸した。

 そして、中から127さんと、スーツを着た2人の日本人男性が降りて来た。

 1人は初老の男性で、もう1人は若い男性。

 若い男性は、初老の男性の部下のようだ。


 127さんが言った。

「これより、このヘリで我々と共に、ある所へ行って頂きます」


 私は詩織を見た。

 詩織は2回、まばたきをした。

 ……否定のサインだ。


 私は127さんに向かって言った。

「なんですかいきなり。ある所って何処ですか? 目的は何ですか?」

 127さんは、答えない。


「そこで、私と詩織に何をさせるつもりですか? 無理やり連れて行っても、私と詩織はあなた方に従いません!」


 すると、初老の男性が口を開いた。

「いえ、来て頂きたいのは貴方ではありません。浅野詩織さん、貴女です」

「……」

 緊張が走った。


 私は震える声で言った。

「詩織に……なにをするつもりですか?」


 初老の男性と127さんは、お互いに目を合わせている。

 私は詩織を見た。

 詩織は、まぶたを動かさない。


 初老の男性が言った。

「浅野博士から、メッセージが届いています」


「えっ」

 私と詩織は驚いた。


 詩織が訊いた。

「父は……父は生きているのですが?」

 私も訊いた。

「先生は、そちらにおられるのですか?」


 127さんが答えた。

「いえ、残念ながら……ただ、浅野教授が生きておられる事だけは確かです」


 詩織は両手を口に当て、涙を溜めている。

 私は詩織の目を見た。

 詩織は私に向けて、ゆっくり1回まばたきをした。

 ……肯定のサインだ。


 私は127さんと初老の男性に向かって言った。

「わかりました。その……従います。ただし条件があります。私も同行させて下さい。詩織1人を連れて行くなど、絶対にさせません」


 初老の男性は答えた。

「了解しました。里中令さんにも、ご同行願います」


 詩織は私に体を寄せた。

 私は詩織の肩を抱いた。


 もう1人の若い方の男性が、私と詩織に向かって言った。

「では、早速ですが、ヘリへご案内します」


 私と詩織は、施設の建物を振り返って見た。

 その窓から、BMさん達、CMさん達が、私と詩織を見ている。


 詩織が呟いた。

「もっと皆さんと……お話ししたかったです」

 私が言った。

「せっかく皆さんと、親しくなれたのに……ね」


 私と詩織は、彼らに向かって深く頭を下げた。

 すると彼らは驚いたようすで、窓から離れた。


 私と詩織は、案内されるまま、ヘリに乗り込んだ。

 その時、施設からBMさん達4人が、飛び出してきた。

 彼らは、ヘリに向かって走ってくる。


 しかし、彼らがヘリに着く前に、ヘリは離陸した。

 彼らは茫然と、舞い上がるヘリを見ている。


 私と詩織は、彼らに向かって手を振った。

 しかし彼らからは……おそらく私と詩織は見えていないだろう。


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 次回:エリア3

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