05-04 この国の価値

 私は話しを続けた。

「世界には、恵まれた国があります。例えば、石油等のエネルギー資源が豊富に湧き出る国。また、莫大な鉱物資源を所有する国。自然の恵みによって大量の果実が実る国。大規模な農地によって大量の穀物が育つ国。そのような豊な国に対しては、手に入れたい。等と考える国が、あるのかもしれません。しかし、この国には何もありません。広大な農地も無ければ、貴重な鉱物資源もありません。莫大なエネルギー資源もありません。この国が、これだけの経済大国になれたのは、国民一人一人の汗によるものだと思います。その、何の資源も無いこの国を侵略して、どうするのでしょう。この国の国力とは、国民一人一人の労働力です。国民をムチで叩いて働かすのですか? そのような事、出来る訳ありません。国土として何も無いこの国です。しかし、この国を侵略すれば、この国際社会の中で、世界中を敵に回す事となるでしょう。この国を侵略するメリットとデメリットを天秤に掛けた時、私には、とてもメリットが大きいとは思えません」


 みんなは、私の話しを真剣に聞いていた。


 その時、C子さんが発言した。

「AMさんのお話し、とても興味深いです。しかしながら今のお話しは、この国には資源が無い事が前提とされています」

 私は答えた。

「……はい」


「しかし、この国の領海・排他的経済水域の海底で、莫大なエネルギー資源が眠っているとしたら?」

「えっ……」


『ぱん!ぱん!ぱん!』

 手を叩いてCMさんが言った。

「さて皆さん、ディスプレイを見て下さい」


 ……いま、CMさんがC子さんの話しを止めた?

 なるほど、どうやらCMさんとC子さんは、エネルギー資源に関わる仕事をしていて、この施設へ保護されたようだ。

 ここへ連れて来られた人たちは、自分の素性を明かさない。

 それは、明かした相手に危険が及ぶからだ。

 

 ……外のようすを映し出しているディスプレイを見ると、正体不明の黒マスク6人が、ヘリに乗り込もうとしている。

 何だかの調整が付いたのだろうか?


 私は、皆に言った。

「何か、動きがあったようです、おそらく127さんから連絡が来るでしょう、その前にこの扉を閉めます。どうでしょう、私たちがこの扉の先を見てしまった事、なかった事にするというのは」


 C子さんが訊いた。

「でも、扉を開けた記録が伝わるのでは?」


 BMさんが答えた。

「いや、ここは、127さんの基地よりも、上位のベースと言われてました。127さん側からは解らない可能性があります」


「そうですね、まあ、ばれた時は、その時で」

 全員が頷いた。


 私はM1扉を手動で閉じた。

 次に、そのハンドルを塞ぐ工具ボックスを壁に取り付け、工具類を元に戻した。


 しばらくして、ディスプレイから『バリバリバリ』といった音と共に、ヘリが飛び立っていった。


 そして、『オフライン』と表示されていたホットラインに、127さんが映った。

「皆さん、大丈夫ですか」


 C子さんが割り込んだ。

「もーこんな所に閉じ込めてぇ、ここにはトイレも無いし、最悪です」

 ……C子さん、私たちが扉を開けて、その先へ行った事を誤魔化してる。


「ごめんなさい。相手との交渉に時間が掛かりました。黒マスクの人達は、現在、どのような動きをされているでしょう」

「今さっき、ヘリに乗って、帰っていきました」

「そうですか」

 127さんは、安堵の表情を浮べていた。


 ……しかし、その交渉で、撤退してもらう代償として、何を差し出したのか、その時の私たちは知らなかった。


 127さんが私たちに伝えた。

「今、私どもの組織の人間が、そちらに向かっています。今しばらくお待ちください」


 ……なんだろう。

 モニター画面を見ていると、大型トレーラーが2台入って来た。

 そして、そこから20人ぐらい降りて来た。

 アンテナを立てた機材で、何かを探しているようだ。


 BMさんが言った。

「盗聴器等、何か仕込まれていないか、チェックしているのでしょう」

 ……なるほど。


 30分ほどでその作業を終え、彼らは帰って行った。


「AMさん」

 127さんが私を呼んだ。

「はい」


「全員、元の床に集まって下さい」

「はい、6人全員、元の床の上に居ます」


「そのホットラインの基板右上に、青ボタン確認出来ますか?」

「はい。確認しました」


「では、青ボタン押して下さい」

 青ボタンを押すと『ドスン』という音とともに、床が上がっていく。


 天井の隔壁が開かれ、どんどん上がっていく。

 そして、元のセンタールームに到着した。


 127さんに報告した。

「到着しました」

「はい。本日は、お疲れ様でした」

「……はい」


 C子さんが言った。

「あーおなかすいたぁ」

 そして私たちは、皆でリビングに向かった。


 私は提案した。

「どうでしょう。今日は皆で食事を作って、一緒に夕食を頂きませんか」


 そして、にぎやかな夕食が始まった。


 M1と書かれた扉の奥。

 今日、この施設の秘密をみんなと共有した。

 それによって、なんとなく皆との距離が縮まったように感じた。


 ……しかし、あの論文から生み出されるもの。

 照射実験を行っていると言っていた。

 そして、今回の襲撃者。

 この事実、世界中が監視している?

 既に世界が、動いているのか!


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 次回:(第6章1話)別れ

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