05-03 既に出来上がってる?

 BMさんの話しに、皆は言葉を失った。


 C子さんが言った。

「ちょっと待って! 今、この国が核戦争を想定して、その準備を進めている?」


 その後、再び沈黙が続いた。

 それぞれ、思う所があるようだ。


 その沈黙を破ったのは、CMさんだった。

「この扉、開けましょう」


 私は、改めて皆に確認した。

「この扉を開ける事に賛成の人」


 6人中6人が、手をあげた。


「では、全員一致という事で」

 私は、非常用開閉ハンドルをまわした。

 M1と書かれた扉が、ゆっくりと開いていく。

 そして、最後まで開いた。


 BMさんが言った。

「では、行きますか」

 全員、BMさんの後に続いて、扉の先へ向かった。


 スイッチを入れると照明がついた。

 そこは、巨大な避難施設である事が解る。

 トイレを確認し、それぞれ用を済ませた。


 BMさんが言われたとおり、巨大な食料庫。

 そして、非常用発電システムが備わっている。

 今は、外から電力を供給しているようだ。


 この地下に作られた巨大な避難施設、位置的には、あの広大な庭園の地下に作られているようだ。


 短時間で全部を回る事は出来ない広さである。

 その一部を見た後、私たちは速やかに、センタールームから降りて来た最初の場所へ戻った。

 それは、M1扉の先へ行った事を、127さんに知られない為。

 

 ホットラインには『オフライン』の文字が表示されたままである。

 私たちが、この部屋から出ている間、127さんからの連絡は無かったようだ。


 みんな、沈黙している。

 CMさんが、BMさんに訊いた。

「たしかに、ここは核シェルターのようです。ここの規模は、どの程度でしょう」


 BMさんは答えた。

「発電システムの大きさから、100人程度でしょう。食料庫の大きさから、3ヵ月と言った所でしょうか」


 C子さんが言った

「たった100人の為に、これほど大掛かりなものを……この100人の中に入れる人って、誰なんですか?」


 BMさんが答えた。

「おそらく、このような非常事態が起きた時、この国の中枢で指揮を取る位置付けにいる人の……ご家族……親族の方でしょう」

「……はぁ?」

 みんな驚いた顔を向けた。


 BMさんは、話を続けた。

「このような非常事態が起きてしまった時、この国をどのように舵を取るか? それは間違いの無い判断をしなければなりません。重大な決断に迫られます。その時、家族の心配を抱えていたら、判断に誤りが生じてしまう。そこで、家族の方には、いち早く安全な場所へ避難して頂き、舵取りに専念してもらう為のものです」


「……では、舵取りをする、彼ら自身は?」

「彼らの職場の地下には、既に核シェルターが秘密裏に作られています。彼らはそこで情報の収集と、今後についての対策を検討します」


 C子さんは、呆れるように言った。

「私たち一般国民を置き去りにして、彼らだけ生き残る準備を進めている?」


 それに対して、BMさんが答えた。

「一般国民用の核シェルターは、既に出来上がってます」

「いやいや、そんな話、聞いた事ないです」


 BMさんは、言葉を選びながら話しを続けた。

「現在、国際条約の中で、核兵器禁止条約があります。この条約に反対、または棄権する国においても、核兵器は使ってはならないという、国際社会での認識は持っています。しかしながら、それでも核兵器が使われるという時は、もう最後の段階です。その時は、相手に対しての牽制、等と言ったレベルではありません。よって、核を落とす目標は、地方ではなく、政治、経済の司令塔が集まる都心です」


 BMさんの話に、みな固まった。

 そしてBMさんは、話しを続けた。

「そこで、都心には、いち早く核シェルターを作っています。それは、地下鉄です」

「……地下鉄?」


「はい。〇〇線のような、地表から浅い路線でも、通常の空爆であれば耐えられます。そして、最深の〇〇線については、核攻撃にも耐えられるように作られています。核シェルターには、主に2種類あります。ここのような滞在型のシェルター。そしてもう一つは避難型のシェルターです。東京であれば、約1000万人。さすがにこの規模ですと、滞在型のシェルターは造れません。そこで用意したのは、避難型のシェルターです。地下鉄は、交通機関としての目的で作られていますが、非常時における避難通路としての役割も持たせています。つまり、地下へ避難するだけでなく、路線の通路を通って、より深い路線に移動する。そして更に安全なエリアへ避難する」


 みんな、深刻な表情を浮べている。

 それは、この国が、核戦争を想定しているとの事である。


 私はここで、疑問を投げかけた。

「しかし……この国が侵略される事って、あるのでしょうか?」


 その発言に、平和ボケした若者を見るような目を、みんなは私に向けた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※ この小説は、フィクションです。

もっともらしい事が書かれていますが、全てデタラメです。

 例えば地下鉄の話しですが、核シェルターを想定した造りには、なっていないようです。

 逆に、地下鉄の構内に逃げ込む行為は、熱や煙等によって、むしろ危険との見解もあります。

 どうか、真に受けないで下さい。

 どうか、どうか、よろしくお願い致します。


 次回:(第5章 最終話)この国の価値

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