04-03 魔法使いと星の王女さま

 ある日、定例の女子会から帰ってきた詩織が、とんでもない話を聞いてきた。

「C子さんから『AMさん(私)って魔法使い?』って訊かれて……そしたらB子さんが『やめなさいよ!』ってC子さんを叱って、するとC子さんが笑いながら私に『ごめんなさい』って謝って……」


 私は固まった。

 ……なんという事を詩織に!


 詩織は私の表情を見ている。

 しまった!

 私は詩織の話を訊いた時、『魔法使い?』と、意味不明な顔を作るべきであった。


 まずい、まずいぞぉ……これは、まずいぞぉ……。


 ちまたでは、DT君が30才を過ぎると、魔法が使えるようになるらしい。

 さて、私が魔法使いかと聞かれれば、その答えは否である。

 私は、まだ30才に届いていない。


 しかし、C子さんの質問の狙いは、もう1つの方だろう。

 否定するか、それとも肯定するか。


 しかし、否定すれば、詩織はどのように感じるだろうか。

 何といっても中学生の女子だ。


 かと言って肯定すれば、間違いなくB子さんC子さんから揶揄される。

 やはりこの件、無視するに限る。


 ・・・・・・


 しかし、私がこの件を無視する事で、私は魔法使いである事を黙認した事になってしまった。


 それからは、やたらC子さんが、私に絡んでくる。

 そして最近はB子さんまで、私を見てニマニマしている。


 オトナのお姉さま方にとって、私は可愛らしいようだ。

 まったくもって、けしからん!


 ちらっと詩織を見ると、なんと目が泳いでいるではないか……

 やばい……どうする!


・・・・・・


 ある日、夕食の後、B子さんとC子さんが一緒に飲みませんかと誘ってきた。

 どうやら私以外の男性、BMさん、CMさんは、お酒を飲まないらしい。


 私もここへ来て、一緒に飲む相手が欲しかった。

 そして何よりも、一緒に飲む事で色々な情報が得られる。


 しかし、飲み始めると、これはこれで楽しい。

 談笑が絶えない。

 飲み会は夕食後、毎日のように行われた。


 最初のうちは、詩織も飲み会に参加していた。

 未成年の詩織はオレンジジュース。

 詩織は、色々なオードブルを作ってくれた。


 しかし、C子さんも色々作ってくれるので、自分は、あまり必要無いと感じたのか、今ではこの飲み会に参加せず、挨拶をして自分の部屋へ戻って行く。


 B子さんもC子さんも、お酒が強い。

 そして最近、C子さんは、やたら挑発的な装いで、私に絡んでくる。

 ……やばい。


 今日は飲みすぎてしまった。

 飲み会を終えて、私は詩織の部屋へ寄った。


 扉のインターフォンを押したが返事が無い。

 ……詩織が……いない?


 私は探しまわった。

 窓から庭を見ると、屋外用の椅子に人影を感じた。

 私は庭に出て近づいた。


 詩織は椅子に浅く腰かけ、背もたれに寄りかかって真上を向いている。

 満点の星空をボーっと見ている。

 詩織の頬に乾いた涙の後があった。


 私は声を掛けた。

「姫」

 詩織は私に気付き、姿勢を起こした。


 私は詩織の前でひざまずき、詩織の手を取って言った。

「どうか私めに、姫のお心をお預け下さい」

 そして詩織の手の甲にキスをした。


 詩織は私に飛びついて大泣きした。

 こんな泣き方、今までなかっただろう。

 私は詩織の髪を撫でた。


 詩織は顔を上げて言った。

「あと4年、あと4年待って下さい」

「……はい」


「私が18になったら、私に令さんのお相手をさせて下さい」

 私は詩織を抱きしめて言った。

「ありがとう」


 その時の私と詩織のようすを、施設のメンバーは窓から見ていた。

 それ以降、B子さんとC子さんは、私に絡んでくる事はなくなった。


 ……しかし、お酒を飲めるのは20才から。

 詩織にとって6年後。

 では、詩織の言った4年後とは、どんなお相手を意味しているのか。

 ……いや、考えない事にしよう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 レイさんは、まだ見習い魔法使いのようです。

 しかし4年後には、立派な魔法使いになれているでしょう。


 次回:(第5章1話)襲撃

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