03-03 オリの中の楽園

 大きな宿泊施設と広大な庭園。

 ここは、どのような目的でつくられたのだろう。

 私と詩織は、この施設の内部を確認する事にした。


 最初に、このセンタールームに設置されたホットラインを確認した。

 ビデオ通話機のようだ。

 操作は単純で、通話ボタンと終了ボタンしか付いていない。


 そして次に、リビングルームを確認した。

 広いリビングだ。

 正方形のテーブルが6台置かれている。

 各テーブルには椅子が4脚備わっている為、全部で24人分の席が用意されている事になる。


 リビングに面して、広いキッチンが作られている。

 電気、水道は使えるようだが、ガスは引かれていない。

 電気湯沸かし器によってお湯は使えるようだ。


 電子レンジ、電気コンロ、マルチホットプレート、食器洗浄機。

 それと大きな冷蔵庫が6台。

 開けると、その1台の冷蔵庫に1週間分の食料が入っていた。


 その他、プライベートルームが12部屋。

 それと、広い和室が1部屋あった。


 そして、建物の外に出た。

 そこは広大な庭園が広がっている。

  

 この庭園の果てが、この敷地を囲んだ鉄格子に行きつくのだろう。

 1日で回れる広さでは無い大きさである。

 日を改めて散策する事にした。


・・・・・・


 ここでの生活を始めて3日が過ぎた。


 12部屋あるプライベートルームは、ホテルで言うスイートルームのような部屋だ。


 私と詩織は、それを2部屋専有した。

 さすがに同じ部屋で寝る訳にはいかない。


 1日の始め、私と詩織はリビングで会う。

 そして一緒に朝食の準備を行い、一緒に朝食を頂く。

 

 毎日、定時連絡を入れているが、私と詩織が待っている回答が来ない。

 それは、あの論文から生まれる兵器の実現性についてである。


 秒速7,000mで落下する核弾頭ミサイルを撃ち落とす構想。

 その結果、実現不可との結論が出れば、私と詩織の保護は解かれ、ここから解放される話となっている。


 私と詩織は、電磁砲の実現性を計算した。

 計算に掛かった時間は約4時間。

 その結果、実現不可との結論に至った。


 しかし、この組織は、電磁パルス砲と言っていた。

 私と詩織がイメージしていたのと、若干違う。

 彼らが検証を始めてから、既に3日過ぎた。

 まったく、どんな計算をしているのか。


 定時連絡時、127さんにその事を訊くと、実際に作って実験を行うとの事だ。

 どこまで電磁パルスの出力を上げられるか、確認するらしい。


 電磁パルス砲は、真上に向けて照射実験するとの事。

 航空機に当たらないよう、航空管制室からの情報入手。

 人工衛星に当たらないよう、各衛星の軌道計算。


 安全面から専用の実験棟を建設しているとの事。

 なるほど、それでは時間が掛かる。


 国家プロジェクトの中でも極秘プロジェクトの位置付けという事で、これ以上の詳細は、お伝え出来ないとの事だ。


 ここでの生活、少々長くなりそうだ。


 冷蔵庫を開けると、ビールと日本酒が入っていた。

 これはもう、開き直るしかない。


 庭に出て、木陰になる所にテーブルと椅子を置いた。

 詩織と一緒にオードブルを作った。


 優しい陽射しと穏やかな風。

 私は昼間から飲み始めた。


 夜になった。

 このあたりに繁殖しているハーブのお陰だろう。

 ほとんど虫は飛んでこない。


 そこで、庭でバーベキューをする事にした。

 キッチンで準備して、それを庭へ運ぶ。

 火は使えないので、ホットプレートで焼いた。

 時間は掛かるが、ゆったりと寛ぐ。


 満点の星空を見ながら、ゆっくりと冷酒を飲んだ。

 誰も居ない、2人だけの世界。

 これほどの贅沢、なかなか味わう事は出来ない。


 そのように考えると、ここでの生活も悪くない。

 詩織も、なんか楽しそうだ。

 これはこれで、いいかな。


・・・・・・


 次の日、雨が降った。

 日は射しているのに穏やかな雨。

 いわゆる天気雨である。


 私と詩織は傘をさして庭園を散歩した。

 雨に濡れた緑の葉が輝いている。

 降り注ぐ雨も、太陽の光でキラキラしている。


 これは綺麗だ。

 そして気持ちいい。


 今日は雨天の為、庭での食事は出来ない。

 気分を変えて、和室で夕食を頂く事にした。


 雨で衣類が濡れてしまった為、先に入浴を済ませる事にした。

 用意されている着替えの中に、浴衣があった。

 詩織は浴衣を着て、夕食の準備を進めている。


 私は配膳と自分が飲む日本酒を暖めた。

 準備が整い、食事を始めた。


 私が熱燗を飲み始めると、詩織は私の隣にくっついてお酌してくれる。

 詩織の体から漂う湯上り後のシャンプーと石鹸の香り。

 こんな美少女に体を寄せてお酌されると、そのまま傾れ込みそうになる。


 いかん、いかん。

 相手は中学生だ!


 ……ちっくしょー、壁でも殴らないと気が収まらない! 〔←どしたぁー〕


 その時の私は、少し険しい表情をしていたようだ。

 そんな私に、詩織は不思議そうな目を向けていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 次回:(第3章 最終話)ある夏の日

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