03-02 保護による拘束

 私と詩織は、その建物へ案内された。


 建物の中の廊下を歩いていく。

 打ち合わせ室のような部屋に案内された。


 長方形のテーブルと椅子が8脚置かれている。

 その椅子に座って待つように伝えられた。

 私と詩織は、隣り合わせに座って待った。


 その部屋を見まわした。

 部屋の隅に小さなラックが置かれている。

 そしてその上に、ディスプレイ付の端末機のようなものが置かれている。

 それ以外、特に何もない部屋だ。


 しばらくすると、先ほどの女性が現れた。

 私と詩織は、立ち上がった。

 その女性は頭を下げて話し始めた。

「本日は、大変失礼な対応となってしまいました。深くお詫び申し上げます」


 私と詩織は、無言のままである。

 相手の正体が解らない状態で、うかつに気を許す事は出来ない。


 その女性は、私たちに言った。

「どうぞ、お掛け下さい」

 私と詩織は着席した。

 その女性も、私たちの向かい合わせに座った。


 詩織はボールペンを握り絞めている。

 その女性は話し始めた。

「詳しいお話しは出来ませんが、私どもは、この国を裏側から支えている組織です」


 私は質問した。

「この国を裏側から支えていると言いましたが、あなた方は、政府側の人間ですか?それとも反政府側の人間ですか?」


「私どもは、公にされない政府側の組織です。この事に偽りのない事を誓います」

 私と詩織は、沈黙した。


 その女性は、話しを続けた。

「私どものネットワークに、浅野教授が行方不明になった情報が入りました」


 私はとっさに訊き返した。

「その事について、何かご存じですか?」


「私どもは、以前から浅野教授の研究をマークしていました。この世界を揺るがしかねない研究です。研究発表の当日、浅野教授は私どもの監視からロストしました。最初、ある組織によって拉致された可能性で調査しました。しかし、その組織も浅野教授を探しています。ここで考えられるのは、別の組織によって拉致された。そしてもう1つは、浅野教授が自ら身を隠した」


「……ある組織とは?」

「残念ながら、お答えできません」

「……」


「そして我々は、浅野詩織さん、里中令さんの身柄を保護する事が急務と判断し、今回の事に至った次第です」

「いや、保護と言いましたが、私と詩織から、研究内容が流出しない為でしょう」

「それもあります」

「……」


 詩織が訊いた。

「父は無事なのでしょうか?」

「わかりません。現在、浅野教授の行方を追いかけているのですが、今のところ手がかりはありません」

「……」


「それと、浅野詩織さん。そのボールペンを握り絞める必要は、もうありません」

「……」


「私どもには、2つの目的がありました。1つは、例の研究内容が、あなた方から外へ流出しない事。少なくとも、あなた方をここへ保護する事が出来ましたので、この目的は達成出来ました。そして2つめは、その最新の研究データを入手する事です。私どもは、浅野教授の自宅から、ノートパソコンを持ち出しました」


「研究室と詩織さんの家に入った空き巣は、あなた方でしたか」

「はい。事の重大性から、いささか乱暴な手立てを取らせて頂きました」

「しかし、空き巣に入った部屋の散らかりようから、プロの仕業には見えません」

「はい。空き巣に入った犯人は、あえて素人のように見せかけました」

「……」


「当然の事ながら、浅野教授のパソコンにはパスワードが掛けられている為、内容を見る事が出来ません。しかし、最新の研究データを納めたメモリーカードが、そのボールペンの中に仕込まれているとの事で、私どもはそのカードが破壊される事を恐れました」

「……」


「しかし、先ほど浅野教授のパソコンから、研究データのサルベージに成功した連絡を受けました。ファイルの日付は、研究発表会へ行かれる前日の日付でしたので、最新のものであると考えています」


「……わかりました」

 そう言って、詩織はボールペンを上着の内ポケットにしまった。


 私は訊いた。

「それで、私たちは、この先どのようになるのでしょう?」


 女性は答えた。

「しばらく、ここで身を隠して頂きます」

「……しばらくとは?」

「あの研究から生まれる物の可能性次第です」


「私と詩織は、あの2つの研究から、超高出力の電磁波を電磁波線にして飛ばした時、兵器として利用される可能性を心配しました。しかしながら、私と詩織の計算では、兵器としての破壊力には至らないとの結論です」


「……さすがです。ただ、私どもは、貴方がたとは別の角度から、電磁パルス砲の実現性を検証しています」

 ……電磁砲?

 ちょっとまて、私と詩織がイメージしたものと、少し違う。


「……別の角度から?」

「はい。その結果、実現不可の結論に至りましたら、あなたがたの保護は解かれるでしょう」


「……もしもその検証によって、実現性が認められたら?」

「もう少し、長いお付き合いをお願いする事となります」

「……」


「尚、中央行政機関の役人が、学校、及び、お2人のご両親様へ、身柄を預からせて頂いた事の説明に伺っていますので、ご心配はいりません」

「……どのような説明を?」

「超法規的処置と、ご理解下さい」

「……」


 そして、その女性は私たちに伝えた。

「お2人の今後についてですが、ここで自由にお過ごし下さい」

「はぁ?」


「ここには、監視カメラやマイク等、一切ありません。監視員もいません。精神衛生上の観点からとご理解下さい」

「いや、さすがに女子中学生と二人で……なにかあったら」


「詩織さんのお母様から、お二人は婚約されて、お母様も承諾されていると伺っておりますので、」

「婚約はしていますが、詩織はまだ14歳ですので結婚出来ません」

「婚姻届けは出せませんが、内縁として事を進めていました。あの……具合悪いですか?」

「いやぁ」


 すると詩織が割り込んだ。

「問題ありません」

「……」

「……」


「この施設に用意された、キッチン、リビング、プライベートルーム等、自由にご利用下さい。ここへは週に1度、食材をお運び致します。また、着替え等、生活に必要なものも、その時お持ちします。他にも何かありましたら遠慮なくご注文下さい」

「……はぁ」


「尚、この建物と庭園は、高い鉄格子で囲まれています。外部から野生動物等が侵入しないよう、鉄格子の上部には高電圧の掛かったフェンスが張られていますので、ハシゴ等を作って鉄格子を乗り越えるような事は、決してなさらないで下さい」

「……わかりました」

 ここから脱走しないよう、釘を刺された。


「今後、私の事は、127(イチニーナナ)とお呼び下さい。あなた方との窓口を担当させて頂きます」

「はい」

 ……ここでは、個人情報を伏せる仕組のようだ。


「この部屋は、『センタールーム』という名前が付いています。1日1回、このセンタールームに設置してある、あの『ホットライン』でご連絡下さい。また、こちらからも、何かありましたら、そのホットラインで連絡させて頂きます」

 ……この部屋は、センタールームと言うようだ。

 そして、あのディスプレイ付の端末機がホットライン……直通回線……他へは掛けられない通話機。

「了解しました」


 そして127さんは、黒塗りの車をトレーラーに乗せ、黒服の男と共に帰っていった。

 正面玄関扉の巨大なゲートは閉められ、ロックされた。


 ……なんという事だ。

 私と詩織は、しばらくこのオリの中で、生活する事となった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 次回:オリの中の楽園

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