02-05 詩織さんには……
夕食を一緒に食べている時、詩織は私に訊いてきた。
「以前令さんは、『私にとって議論とは、お互いが向き合うのではなく、同じ方向を向いて、より良い答えを探す行為』と言われました」
「はい」
「そして、向ける相手は目の前の相手ではなく、真理に目を向けると言われました」
「はい」
「でも私は、『真理は人の数だけある』と思います」
「……はい」
「同じ方向を向いて真理を探すと言っても、その向かう先の真理が異なるのであれば、それは成り立たないのではないでしょうか」
「……はい」
……なぁんとぉ、いきなりぶっこんできた。
「……」
私は言葉を選び、話しをした。
「詩織さんの指摘は『真理は人の数だけある』からはじまっています」
「はい」
「話しは少し横道に外れますが、詩織さんは物事を選ぶ時、何に重きを置いて選びますか?」
「何に重きを置いて……ですか?」
「例えば、どっちが正しいかで選ぶ人もいれば、損得勘定で選ぶ人もいるでしょう。
好き嫌いで選ぶ人もいれば、どっちが面倒くさくないかで選ぶ人もいます」
「はい」
「それで、今の私は、『どっちが面白いか』で選びます」
「どっちが興味深いか、ですね」
「はい。先ほどの真理の話に戻りますが、ある人が言いました。真理は1つである」
「……そのココロは?」
「有るものは有る。無いものは無い。と定義した時、真理は1つである。もしも真理が1つでないとすれば、1つの真理と別の真理の間には何があるのか? そこには無いものが有る事になってしまう。よって真理は1つである」
「面白いです」
「まあ、真理は1つとするか、人の数だけ有るとするか、それは各々の人が、自由に決めて良い事だと思います」
「はい」
「真理は人の数だけ有るという考えは、争いにならなくて良いですよね」
「はい」
「しかしそれは、自分の真理以外は興味無いという事でもあります」
「……はい」
「私は、どっちが面白いかを考えますと、真理は1つであるといった絶対真理の考え方で、人の数だけある真理は、絶対真理の中の一部と捉えています。よって、個々の真理にも興味ありますので、相手が目指す真理に沿って、私もより良い答えを探します」
「……はい」
詩織は、今の私の話に、しっくり来ないようだ。
絶対真理の探究は、答えを探すというよりも、知的好奇心そのものだから。
それと、絶対真理と言いながら、私の好みが支配している。
私は、そんなもんでいいと考えている。
だが詩織にとっては、疑問を感じるところだろう。
お酒飲んで、酔っぱらって……そう、そんなもんでいい。
この、いいかげんな感覚、詩織さんには……まだ、難しいかな。
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あぁ……無垢な詩織さんが、酔っ払いおじさんに侵されていく……。
次回:(第2章 最終話)花火大会
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