02-04 デート日和

 最初に園内地図をもらい詩織と確認した。

 ものすごく広い。

 私は、あまり植物園には興味無いが、歩き回るだけでも良い運動になりそうだ。


 最初に、巨大なドーム型の温室へ向かった。

 ここでは、日本では見る事の出来ない熱帯植物を見る事が出来る。


 ジャングルに迷い込んだ感じだ。

 これはおもしろい。

 大きな蝶が、ゆっくりと飛んでいる。


 『キィーッ、キィーッ』と言った猿の鳴き声を効果音として鳴らしていたら楽しいのに……等と、植物園本来の目的から外れた事を考えていた。


 温室内の気温は高いが湿度が低い為か、不快感はない。

 詩織と手を繋いでゆっくりと散策した。


 温室から出ると、暖かい陽射しと穏やかな風。

 今は5月半ば。

 実に気持ち良いデート日和だ。


 次に、バラ園へ向かった。

 西洋風の巨大な庭に、さまざまなバラが咲いている。

 バラ独特の香りに包まれる。

 ヨーロッパの古城庭園にでも来たような気分だ。


 近くにレストランがあったので、少し早いが、そこで昼食をとる事にした。

 メニューの中に、バラの花びらを使った冷たいパスタというのがあり、私と詩織はそれを注文した。


 内容は、冷やしたパスタにバラの花びらとサラダをあえたもので、バラの花のほろ苦さがオリーブオイルによって緩和されている。

 その後、ローズケーキとローズティを頂いた。


 私は、植物園に期待していなかったが、これはこれで楽しい。


 次に向かったのは、花畑。

 一面、青色のシバザクラが咲いている。

 これはすごい。


 以前、北海道で見渡すかぎり紫色のラベンダー畑を見た事があるが、それに近いものがある。

 私と詩織はベンチに腰掛け、冷たいお茶を飲みながら、ゆったりと花畑を見ていた。


 右隣に座った詩織は、私に体を倒して言った。

「レイさんと仲良し」


 私も右手で詩織を抱き寄せて言った。

「はい」


 詩織の体から伝わる暖かさ。

 ああ、今日は、いい天気だ。


・・・・・・


 次に向かったのは日本庭園エリアで、わびさびを思わせる古池と竹林。


 こういった、静寂の間も良いものだ。

 等と考えていると、突然詩織がしゃがみ込んだ。


 どうしたのだろうと見ると、

「わぁ、鳳凰ゴケ」

 詩織はしゃがみ込んだまま、古池の周りを観察している。

「あっ、ギンゴケ」


 詩織はスマホに接写レンズを付けて撮影している。

 それはそれで楽しいのかもしれない。

 私は詩織の後をついてまわった。


 陽射しの当たる古池のまわりから、竹林の中へ入った。

 太陽の光がさえぎられた、やや薄暗い世界。

 そこは、湿り気のある土でおおわれている。


 いたる所が緑の地面。

 そう、全てコケだ。


 今まで、コケの生えた地面に何の関心もなかったが、改めてみると、それはそれで面白い。

 よく見ると、色々な形がある。


 日本に生息しているコケだけでも1800種類以上との事だ。

 さまざまなコケを観察し、最後に藤園へ向かった。


 これはすごい。

 藤棚から豪雨のように垂れさがる紫色の花。

 広い藤棚の下を、詩織と手を繋いでゆっくりと歩いた。


 ここは何処だ。

 まるで異世界へ迷い込んだようだ。


 4時閉館との事で、ゆっくりと帰る事にした。

 今日は歩いた。

 良い運動になった。


 帰りの電車で、詩織は私の肩にもたれて眠ってしまった。

 駅に着いて詩織を起こした。

 詩織は頬を染めて恥しそう。


 夕食をどこかで、とも思ったが、詩織もだいぶ疲れているようなので、まっすぐ帰る事にした。


「また、何処かへ行こう」

 詩織は、嬉しそうに笑顔を向けてくれた。

「はい」


「今度は、何処へいこうか……?」

「レイさんと一緒なら、どこでも嬉しいです」

 ……いぃだぁ。


 その後、詩織を自宅まで送った。

「コーヒー淹れますので是非上がって下さい」

 詩織にせがまれたが、玄関前で失礼した。


 そして私は、まっすぐ自分のアパートへ向かった。


 その時の私は、何も気づいていなかった。

 今日の詩織とのデートを、何者かがマークしていた事を。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 何者かがマーク?

 まさか令さんに、女の影が?


 次回:詩織さんには……

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