02-03 詩織さんとデート

 今まで詩織は、学校の帰りに食材を買いにスーパーへ寄るぐらいで、自宅と学校のあいだを往復するだけの日常を送っていたようだ。

 友達と一緒にお店へ寄ったり、遊びに行ったり、といった事を、まったくしてこなかった。


 学生の本分は勉強である。

 実に模範的とも言えるが、詩織には勉強以外にも、色々学んでほしいと思った。


 そこで私は、詩織をデートに誘った。

 詩織は、目をキラキラさせている。

 ……大丈夫だろうか。


 遊び1つ、してこなかったに楽しい事を教えると、それに溺れてしまう。

 急激な変化は危険である。

 ここは少しずつ、無難な所から始めるのが良いだろう。


 私は、詩織に訊いた。

「今度の日曜日、何処へ行こうか?」

 詩織は、やや上を向いて、考えている。

 遊び慣れていないに、何処へ遊びに行こうかと言っても、当然出てこない。


 私は、無難なところで、幾つかあげた。

「動物園とか……ああ、水族館なんていうのも良いかもしれない」


 すると詩織は、思いついたように言った。

「植物園へ行きたいです」

「し……植物園?」

 なんともまあ、想定外のリクエストである。


 私は、動きの無い植物をみて、何が面白いのかイメージ出来ない。

 まあ、綺麗な花を見て楽しむ。

 人それぞれ嗜好は違う。


「わかった。雨天でなければ、植物園へ行きましょう」

 という事で、詩織と最初のデートが決まった。

 しかし、植物園といっても色々ある。


 日帰り出来る所で、なるべく大きな植物園を探した。

 そこで、○○植物園へ行く事にした。

 車(レンタカー)で行く事も考えたが、休日は駐車場が混雑するとの情報から、電車で行く事にした。


 移動時間は約1時間。

 9:30 開園との事で、8:30 に駅で待ち合わせる事にした。


・・・・・・


 そしてその日が来た。

 私は、普段、研究室へ行く恰好だが、詩織は真新しい服装で来た。


 落ち着いた装いだが、純白のワイシャツが眩しい。

 背中に浮かぶインナーのライン。

 つつましやかな胸の膨らみ。

 これが、女子中学生の透明感……。


 電車に乗って目的地へ向かう。

 日曜のこの時間という事で空いている。

 詩織と一緒に座った。


 車内に降り注ぐ暖かい陽射しが眠気を誘う。

 いかんと思い、気持ちを起こして詩織を見ると、詩織は嬉しそうに私を見ていた。

 うたた寝しそうになる私を見ていたようだ。


 こんな時、どんな話をしたら良いか。

 あまり詩織の事を言えない。

 私も遊び慣れていないのだ。


 無難なところで、詩織に話し掛けた。

「詩織は学校で、何かクラブに入っているの?」

「私は園芸部に入ってます」

「ああ、だから植物園?」

「はい」


「どんな植物を育ててるんだろう」

「私が育てているのはコケ類です」

「……コケ?」

「はい」

「いやぁ、ずいぶんと渋い趣味をお持ちで」


「コケって、かわいいんですよ」

「はあ」

「これは、溶岩石に着生させたヒノキゴケです」

 そういって、スマホの写真を見せてくれた。


 水に浸された小石の上に置かれた溶岩石から、力強く生えているコケ。

 なるほど、たしかに可愛いかもしれない……。


 それからは、詩織がコケについて、色々な事を話してくれた。

 ギンゴケは、極寒の南極大陸でも生育しているとの事。

 もしかしたら火星にも、コケ類なら生息しているかもしれない……等。


 こんなに沢山話す詩織を知って、私は嬉しかった。


 そんな話をしている内に、目的の駅に着いた。

 そこから歩いて15分ほど。

 ○○植物園に到着した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 次回:デート日和

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