01-03 それによって何が生まれる
早速次の日、詩織は勉強する準備をして、私のアパートに来ていた。
詩織が勉強している内容を覗いた私は……固まった。
「あっ、あの……詩織さん?……あの、それは何のお勉強でしょう?」
「これは、微分方程式です」
「……それは……誰に教わったのでしょう?」
「父です」
なんちゅう教育をしてきたんだぁ!
「あの……なにを目標に?」
「数学オリンピックに向けて」
「あぁ……」
数学オリンピックといったら、予選でも難関大学の受験問題より難しいと聞く。
「はい……頑張ってください」
「……」
ただの中坊と思っていたが……私は俄然、詩織に興味が沸いてきた。
詩織となら、興味深い話が出来そうだ。
私は、一生懸命勉強している詩織を横目に、ゆっくりと熱燗を飲み始めた。
改めて見ると、詩織……美少女だ。
透明感がある。
ストレートで綺麗な髪。
すらりとした体型。
しかし……まだ……胸はない。
洒落っ気も無い。
質素な身なり。
……ただ……首に下げている金色のネックレスが気になった。
会った今まで、常に身に着けていた。
私は尋ねた。
「そのネックレスは、お気に入り?」
「えっ、あ、これですか?……これはあの日……父が研究発表会に行く日、父が私にくれたんです」
そう言って、詩織は両手を首の後ろへまわして、ネックレスを外そうとしている。
半袖シャツの袖口の奥……それは、覗いてはいけない禁断の領域。
影の中で、見え隠れする腋の下。
……これは……そそられる。 〔←やはり変態さんでした〕
詩織は、首から外したネックレスを、私に渡して見せてくれた。
それは、親指の爪ぐらいの大きさの金属板。
そこには『Dear Shiori』と刻印されていた。
厚みは1mmぐらい。
軽い……なんの金属だろう?
良く見ると、2枚の金属板が貼り合わされているようだ。
詩織が私に尋ねた。
「どうかしましたか?」
「これ、いじっていいですか?」
「?……はい」
私は傷付けないように注意しながら、貼り合わされた隙間に力を加えた。
すると貼り合わされていた金属板が2枚に別れた。
そして中に、マイクロSDカードが入っていた。
何故、こんなものが仕込まれている?
詩織も驚いている。
私は詩織に訊いた。
「これ、中を見ていいですか?」
「お願いします」
私はマイクロSDカードをアダプタに差し込み、パソコンにつないだ。
中には、2つのファイルが入っていた。
1つは、私が担当した電磁波線の研究論文。
そして2つめは、先生の研究論文だろう。
その内容は……超高出力電磁波の生成?
その出力は……なんなんだ、こんな化け物のような電磁波出力……。
……いや、まて。
この2つの研究成果が合わさった時……何が生まれる。
私は顔を上げた。
詩織も2つの論文の概要を真剣に読んでいる。
私は詩織に問いかけた。
「この2つの研究成果が何を意味するか、理解出来ますか?」
詩織は深刻な表情を向けて、私に答えた。
「世界の軍事バランスが、根底から崩れます」
私はその答えを聞いた時、ああ、やっぱり……詩織はバケモノだと思った。
・・・・・・
現在の軍事力の中で、最終兵器としての位置付けとして、核兵器がある。
大規模エリアを一瞬にして破壊する。
この核兵器を搭載した核ミサイル。
相手が撃ったら、こちらも撃つ。
それは抑止力として働き、世界のパワーバランスが保たれている。
その一方で、相手が核ミサイルを発射した時の為に、それを迎撃するミサイルの開発もすすめられている。
相手の速度と軌道をリアルタイムに計測し、その先の軌道を計算して衝突させる。
この迎撃ミサイルが確実なものとなれば、核ミサイルは最終兵器ではなくなる。
だが、相手は秒速7,000mの核弾頭ミサイルである。
迎撃に失敗した時の被害は計り知れない。
よって現在でも、核ミサイルは最終兵器とされ、抑止力によって世界の軍事バランスが保たれている。
しかし、先生と私の研究成果を組み合わせた時、それによって何が生まれる……。
超高出力の電磁波を、電磁波線にして放出する……超電磁砲だ。
電磁気による砲弾といえばレールガンがあるが、あれは電磁気力によって加速させた物体を撃ち出す装置。
その速度は秒速8,000mにも及ぶが、レールガンの砲弾は迎撃ミサイルと違って追従する訳ではない。
よって、その速度では核ミサイルを撃ち落とす事は出来ない。
だが、この電磁砲は、そもそも電磁波である。
その速度は光の速度、秒速30万km。
電磁波の速度に比べれば、核弾頭ミサイル等、止まっているような速さ。
かつて、スター・ウォーズ計画という戦略防衛構想があった。
それは、強力なレーザー光線によって、核ミサイルを撃ち落とすという計画である。
しかし、レーザー光は、大気による減衰が激しい。
そこで、レーザー砲そのものを空気の無い宇宙空間に設置し、打ち上げられた核ミサイルを衛星軌道上から撃ち落とすという構想である。
だが、打ち出すレーザー光の電力は、ソーラーパネルからの充電によるもので、長時間の連続照射は出来ない。
つまり、複数の核ミサイルを同時に打ち上げられた場合、撃ち落とす事は難しい。
よって、この構想は断念された。
しかし、電磁波はレーザー光と異なり、大気による減衰はほとんど無い。
電磁波は、距離の二乗で減衰するが、それは広がる為であり、レーザー光線のように、広がらない1本の線にして放出すれば、そのような減衰は無い。
この電磁砲を搭載した車両を各地に配備する。
地上で構える為、電力は十分供給出来る。
飛んできた核ミサイルを空中で捉え、撃ち落とす。
仕組みは、レーダーで捉えた核ミサイルに対して電子制御で照準を合わせ、照射しながら目標との誤差を修正し、撃ち落とすまで照射し続ける。
これなら、確実に撃ち落とす事が出来てしまう。
核兵器が最終兵器ではなくなる。
核が抑止力にならなくなれば、戦闘機などの通常兵器が主戦力となる。
その戦力とは、そのまま経済力の大きさである。
第2次世界大戦以降、世界は『小さな戦争』を起こしてきた。
それは『大きな戦争』を起こさせない為のもの。
そうやって世界は、軍事上のパワーバランスを保ってきた。
しかし、核兵器による抑止力が失われた場合、世界の軍事バランスは一気に崩れる。
急激な変化……それは『大きな戦争』を引き起こす。
この世界という大きな船。
ゆっくりと舵をきらなければ転覆してしまう。
……恐ろしい。
さて、中二病の妄想はそれくらいにして、この電磁砲の実現性、検証しなければならない。
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何を言ってるんだぁ!
中二病全開じゃないかぁ!
次回:(第1章 最終話)結婚しよう
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