第22話 なんかとんでもない事が起きてるみたいなんです

 遂にやってきました今日は年に1度のお祭りです。学園の入口から校舎の奥の方まで勇者候補生の学生さん達が露店を開き、そこら中人であふれかえっています。

 特に入口付近はここから見る学園の全体像を美しく見せる為なのか少し狭めに作ってある様で若干前が詰まっています。


「レイス、じゃあたし仕事あるから行くわ」

「ハイ、行ってらっしゃいニーニャさん」

「大丈夫よ、この子いるし」

『ねー右ー。それから上ーあぶないからー気をちゅけてー』

「上じゃなくて前でしょ……。ガネーシャいい? 言う事聞いてあげるけど、こんな所で金の延べ棒出したら駄目だからね? あぁそれとレイス、もうちょっと歩けば道広がるから大丈夫よ」

『うー!』


 そういってニーニャさんは人混みの中へガネーシャちゃんとお喋りしながら行ってしまいました。


 あれ? そういえばガヴァルさんの姿もない。

 あの人は盲目だ。大丈夫なんだろうか?


 うっキ、キツい……。


 空を飛んでいけたらとても楽なんだろうけど。


「胸がつっかえる……。し、しかしこれしきの事・・・・・・であれを呼び出せば、それこそパニックは必至。耐えなければ」


 僕は必死に耐えながら前へと進み、ある地点から道が広くなったのかようやく周りの空間に空きができました。


「ハァ……良かった。死ぬかと思った」

「やっぱり! レイス先生〜! ご機嫌よう〜!」


 何やら僕を呼ぶ声が聞こえ、声の方へ歩を進めるとそこには僕が代理で錬金術を教えた生徒の風紀委員長さんが手を振っていました。彼女の隣には例の天才くんの姿も。


「お久しぶりですねぇ!」

「その節は本当にお世話になりましたわ」

「いえいえ、とんでもないです。僕も大変いい経験をさせて貰いました。天才くん! 君も調子どうですか?」

「天才って俺かよ! 調子? べ、別に悪くねーよ。 ま、まぁいいや。金いらねーからこれ食ってけよ」


 片手サイズの葉っぱの上に紫色のドロリとした液体がのっておりその上からナッツや四角にカットされた緑色の固形物が液体の上に落とされ、草を手に持ちそのまま僕に手渡してきました。


「これはなんという食べ物ですか?」

「見た目最悪だけどまぁ騙されたと思って食ってみろよ」

「ではいただきます」


 口に入れると日本人には馴染み深い味が口内に広がりました。


「お〜これはよく再現できましたね」

「名付けてレイスフードだ!」

「えーなんちゃってカレーで良くないですか!?」

「レイス先生が作ったからレイスフードだ! これだけは譲れん!」


 隣で頭上下させルーナさんは『うんうん』と唸っている。


「彼のお父様は王城で宮廷料理長を任せられているのです。実はレイス先生がお帰りになった後、カレーの一部を魔法で保存して父に食べさせた所いたく気に入られまして、父親が休みの時は厨房にこもって味を再現しようと躍起になってたみたいですわ」

「いやーこの味と食感を出すのにすげー苦労したけど親父と協力してたらなんか、親父の事少し尊敬できたわ。少しだけな」

「素直じゃありませんのね」

「うっせぇな」

「おふたりは仲良いんですね〜」


 僕がそういった瞬間2人の顔が烈火の如く赤くなった。


「別に仲良くなんかねーし! 隣同士なだけだし!」

「彼が隣に引越ししてきただけですわ!」

「俺が引っ越してきた隣にオメーがいたんだろうが」


 いやーこれは僕はお邪魔ってやつだな。

 老兵はただ去るのみ。


「甘口のカレーみたいで凄く美味しかったですよ。じゃあ僕はそろそろ行きますね。頑張って!」

「やっぱりそうか……。辛味が圧倒的に足らなかったんだよな……悪いちょっと家帰るわ」

「何言ってますの!? 学業を放棄して帰るなんて風紀委員長として見過ごせません! 聞いていますの? バーンズ・ディルタ・アイゼン!」


 バーンズという名前でしたか天才くん。そして彼は彼女の忠告を完全無視し、学校の出入りを目指し歩き出しました。

 そのあとをルーナさんは追って行きました。


「グッドラック」


 淡い青春の一幕を目撃した僕は彼らの背中に向って親指を立てサムズアップをし、彼女等の露店から去り校舎に向って歩を進めます。


 前では人集りが出来ていました。

 なにやら歓声が聞こえます。


 う、うーん……やはりあれに着替えるべきなのか。神様がやれと言っているのか。


「おいあんた」

「ハイ?」


 真横から声をかけられ左を向くと白髪交じりにパーマがかった紫の髪で髭面のおじさんでした。頬は赤くお酒の臭いが微かにします。


「嬢ちゃん今暇か?」


 おっ女性の躰になって初のナンパに引っかかりました。どうするべきかなぁ。


「あの大変光栄に存じますが、僕は元男性でして――」

「ほらな、やっぱりレイスママだ! 久し振り! 刹那の別れだった!」


 おじさんのすぐ隣に弌陣いちじんの風が吹いたかと思うと頭に月桂冠げっけいかんを巻き、白いチュニックに革でできたタラリアを履いた男性が現れ両手を広げたので僕は彼とハグをする。


「ヘルメス実に懐かしいです」

「嬢ちゃん……いえレイス様、こちらへ」


 周りの景色が一瞬で変わり目の前には、王冠を被り赤い厚めのローブを羽織り、金の杖を持ちながら玉座に座る王様が僕の目の前に現れました。


 王様が玉座から立ち上がると、階段を降り僕の元までやってきて手を取った。


「創生の女神レイス様、突然のご無礼をお許し頂きたい」

「いやいや王様!? えっなんですかこれは!? ドッキリですか!?」

「王様、ここは私が」

「うむ、頼む」

「レイス様、王に宿りし3体の神オデュッセウス、ハデス、ペルセポネの話により伝えられた情報から、あと数刻で魔王が復活する事がわかりました」

「はぁ、そうなんですか」

「強いては第2王位継承者ルベルと私の息子ソレイユが貴方様の武器を手に互いに決闘する事が示唆されています。レイス様の武器を持つ者同士でのみ剣を交えた時発生する共鳴を用い奇襲、あの学園にいるレイス様の武器を持つ者全員で一気に畳み掛け魔王を討伐する算段が取られました」

「はぁ、そんな事で魔王を倒せるんですか」

「あとはわしが話そう。しかし物事に絶対はありません。レイス様には見守っていて欲しいのですが、万が一我らが失敗した時は貴女様に協力を願いたいのです。なんでもレイス様専用のある武具は邪悪を消し去る力があるとオデュッセウス達から聞き及んでおります」

「それってあれ・・の事ですか、あれはちょっと……」

「そこを何卒!」

「わ、わかりました! 大丈夫だと思います。きっと僕の出番なんて来やしないですよ」

「では戻りましょう。レイス様」


 再び景色が一瞬で変わり元の学校へと戻っていた。


「では、その時が来たらお願い致します。私は家族の元へ戻ります」

「あの!」

「なんでしょうか」

「ルベル教官とソレイユ君はこの事知っているんですか?」

「ルベル様には第1王位継承者と第3王位継承者から事前に伝えられた筈です。ソレイユだけがこの事を知りません。私が意図的に情報操作をしていたので。欲を言えばあいつには普通の剣士でいて欲しかったです」

「それで良いんですか?」

「……貴女様から頂いたこのタラリアがあれば助けられる。あいつは私を嫌っています。私が余計な事を言えば、反抗する事は考えなくてもわかっていました。だからわざと放置したのです」

「なるほど、そういう事でしたか。王様とはどういった関係で?」

「戦争が一旦終結し、すぐに私は王城に招かれタラリアの能力と宿っているヘルメスの事を看破されました。そしてその能力を用い協力して欲しいと王直々に頼まれたのです。以降私は王に協力し、貴女の武器能力や宿っている者達を逐一調べ王に報告するという仕事をしていました」

「へ〜そうだったんですか。大変だったでしょう」

「毎日酒買っても困らない位の金貨を貰っていたので、寧ろ酒好きとしてはウハウハでしたよ。おっとそろそろの様ですね」


 大きな歓声と共にルベルさんとソレイユくんが相対した瞬間、空が割れ漆黒の魔王が降りてきました。


「では、万が一の場合はお願い致します!」


 そう言うや否や彼が魔王に亜高速で突進していくのを見届け、それと同時にルベルさんとソレイユ君に持たせたライトニングティアーズとヘルズフレイム双方の刃先が魔王を斬り伏せた。

 共鳴が起こり凄まじい轟音と共に、爆発が巻き起こされる。


 辺り一帯は騒然なり逃げ惑う人々でパニック状態となった。


 僕は人をかき分け、屋台と屋台の間の空間に身を潜め両手を握り拳を作り、左右に交差させて口を開く。


「コード・ステートオブエマージェンシー! 蒸着!!」


 僕は高らかにそう叫んだ。

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神憑りTS鍛冶師の転生日記 〜なんか僕が作った武器や防具が色々変なのが宿るらしくって毎日大変なんです〜 からくり8 @snyp_0

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