第21話 なんか学校に行く途中で懐かしい人に出会ったみたいなんです

 不意に外から聞こえる大きな破裂音で僕は目を覚ましました。

 上体を起こし左右に首を振ると、ボキボキと小気味よい音が聞こえ両手を握ったまま垂直に両腕を上げ伸びをし、クローゼットに向かいいつものドレスを着ます。


 人差し指を立てて時計回りに回すとデジタル表記の数字が淡い緑色の光放ちながら手の甲の上部に現れました。


「7時かぁ。今日はお祭りだからいいけど、結構寝ちゃったなぁ」


 窓まで近づき両手で観音開きの窓を開け、地上を見るといつもは人の少ないこの辺りも学校へ向う人が沢山拝見できます。


 僕は窓から離れると部屋を出て居間に出ます。今では既にニーニャさんが起きていました。手ぐしで寝癖を直しながらボックスの中身を確認してる様です。


「おはよう御座いますニーニャさん。早起きですね」

「おはようレイス。今日は一緒に行きましょ」

「朝ご飯どうしますか?」

「学校に行けば腐るほど露店出てるから要らないわ。どうせ雑用やって終わりだし」

「そうですか。じゃあ軽く休憩したら行きましょうか」

「とっとと行きましょ。どうせ人なんて来ないわよ」

「それはそうなんですが正面切って言われると……」

「ち、違ッ! そういう意味じゃなくて今日は特に来ることはないって意味!」

「わかってますよ。ハハハハ、じゃ行きましょう」


 僕とニーニャさんは階段を降りてそのまま店を出て学校に向けて歩きだします。


「えっとあの店はレイスが外に出て1分経つと勝手に施錠されるんだったかしら?」

「そうですよー、そういう魔法が家全体に掛けてありますからね」

「便利よね、所で市場突っ切って学校に向かう気?」

「そうですけど何か問題が?」

「いや、ありまくりでしょ。また両手に食べ物やら鉱石やら私持ちたくないんだけど」

「大丈夫ですよ」

「何を証拠に……迂回しましょ」

「それだと少し時間がかかってしまいますが」

「良いの! ほら行くわよ」


 ニーニャさんが僕の手を取ると裏路地の方へと向かっていくようです。


 裏路地の薄暗く細い一本道を並んで行きます。


 道なりににしばらく歩くと、布に包まった人が道の隅で座っているのが目に入りました。


「なにあいつ裏路地ってほんと不気味よね」

「だ、駄目ですよニーニャさん。人を見た目で判断するのは」


 ニーニャさんがうずくまる人の横を突っ切って行こうとした瞬間、僕の手に筋張った骨と皮しかない手が勢いよく覆いかぶさってきました。


「なに!? レイスから手ぇ離しなさい! この浮浪者!!」

「やっぱりなぁ。変わった匂いだと思ったぜぇ。嬢ちゃんおれぇの事覚えてっか?」

「その声は……もしかしてガヴァルさん?」


 ゆっくりと立ち上がった彼の手には金の錫杖が握られ、傷だらけの顔でにっこりと笑いました。


「おうよ。懐かしいなぁ。大僧正も元気そうで嬉しそうだ。顔面は髑髏ドクロだから表情わかんねぇけどなぁへへへ」

「見た目が違いすぎて全然気が付きませんでした! ここで何をやっているんです?」

「あぁ、私用でな。何人かの奴らと王国まで来たんだけどなぁ。昔と道が違いすぎてはぐれちまってなぁ」

「そうなんですか、今から学校へ行く途中なんですが一緒に行きますか?」

「そうだなぁ、やる事もねぇし付いてく事にするぜ。よろしくな、お嬢ちゃん」

「えぇ~この人付いてくるの……。って何で私が女だってわかるのよ」

「匂いと足音で大体わかる。離れて後ろ付いていくから、嬢ちゃんの邪魔はしねぇよへへへ」


 顔をピンクに染めたニーニャさんが僕に耳打ちしてきました。


「レイスこの人怖いんだけど!! ほんとに大丈夫なの!?」

「大丈夫ですよニーニャさん、この人英雄さんですから」

「英雄って?」

「魔王を封印したのこの人ですよ」

「え……この浮浪者が?」

「ですよね〜、ガヴァルさん」

「まぁそうだなぁ。俺1人の力じゃねぇけどなぁ。ただの昔話だ」

「じゃあ行きましょうか」

「おれのこたぁ無視してくれて良いぜ。付いてくだけだからよぉ」


 僕とニーニャさんの後ろをガヴァルさんが付いて歩いてきます。


 久々に僕がお店開く前の人と出会ったな〜。あの頃は大変だったな。今みたいにお祭りなんてとても開ける状況になかったもんなぁ。


「ねぇ、レイス聞いてる?」

「すいません、何ですかニーニャさん?」

「私学校に付いたら仕事始めなきゃならないわ。多分夕の刻までは学校にいると思う。別に待たなくていいわよ」

「そんな〜せっかくなんですから一緒に帰りますよ〜」

「レイスがそうしたいなら別にいいけど……。仕方ないわね! じゃあ一緒に帰ってあげるわ! でも、終わるまで学校に留まる必要あるわよ?」

「大丈夫ですよ、知り合いもいますから」

「わかったわ」

「へへへ仲良さそうだねぇ。いいねぇ。青春だねぇ」

「うっさい! じじい!」

「へいへい。部外者はお呼びでないと」

「ニーニャさん、あの人英雄ですよ英雄。そういえば他の人パーティの皆さんはお元気なんですか?」

「さぁてねぇ、あれ・・があった後全員違う道に行っちまったからねぇ。あんたに世話になったあとの事はおらぁ知らねぇ。この錫杖を貰ってすぐパーティから抜けたからよぉ」

「そうですか。あの勇者君と魔女さんにもいつかもう一度会ってみたいもんです」

「あいつ等の匂いは覚えてる……。あぁしっかりとな……」


 裏路地を出て、見える巨大な建築物は勇者学校。僕達は校舎へと向かうのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る