閑話 集い★
遠征組となったアルリンとムルウスはリーダーのクルエラと共に砂塵渦巻く砂漠を突き進んでいた。
「ねぇリーダー」
「どうしたアルリン」
「いつまで歩けば言い訳?」
「向こうに塔が見えるか? あそこまで行く」
彼女等の目には蜃気楼で揺れる塔の様な建築物が確認できた。
「あの塔っぽい建物に何かあるんすか?」
「今から行うのは
「顔見せ? 誰かと会うの?」
「お前等は遠征組となったのなら集いに参加しなくてはならん」
「「集い?」」
「女神の武器や防具を持ち、遠征組となった者達の集まりだ。あの塔に何人か既に来ている」
「何人位来てるんすか?」
「それはいってみなければわからないな。まぁ多くはないだろう。皆忙しいからな。しかし妙だ……」
「何が妙なんすか?」
「静か過ぎる……」
この土地はあの放置された塔を残し砂に支配された砂塵のオアシスである。元々不毛の土地ゆえモンスターの数も他の土地と比べて非常に少ない。あの塔が拠点と使われているのは理由あっての事である。
クルエラは戦争の終戦前にレイスと出会い武器を手にし、終戦後モンスターが
その為この辺りの状況の変化には人一倍敏感なのであった。
「モンスターが1体もいないとは……この辺は元々少なくはあったのだが……」
「戦う必要ないならその方が良いんじゃないッスか?」
「そうよリーダー。それより早く塔に行きましょう。口の中や目に入ってうっとおしいったらありゃない」
「そうだな、急ごう」
3人は砂漠を往き塔の元へとやってきた。
入口は来たものを飲み込まんとするかの様にぽっかりと大きく空いている。
塔の中に当然全体が砂に浸食され、人の気配はなく寂れ切っている。
「リーダー本当にこんな所に人なんているんすか?」
「あぁここはただの出入り口だ。集いはこの上で行われている」
クルエラが階段を昇ると2人は後ろに付いて行く。
2階への細長い道を行き、大きな扉をクルエラが両手で開くと、開いた空間に丸いテーブルが中央にあり、椅子に2人の男が座っている。部屋の最奥には1匹の金の鱗がまばゆい巨大なドラゴンが寝そべっていた。
「ド、ドラゴンだ!」
「で、デカすぎじゃない?!」
武器を手に構える2人を彼女は手を広げ静止を促し、声を張り上げる。
「落ち着け2人とも! 奴は敵ではない!」
椅子に座った面々は見慣れた様子でクルエラ達を見もせずただ黙って座っている。
「うるせぇなぁ。耳にひびくじゃねぇかい」
部屋の隅からヌッと現れたのはまるで浮浪者の様な姿をした老人であった。指が欠損した右手で金の錫杖を持ち、左手をぎこちなく動かし、クルエラ腕を掴んだ。
「ご老人息災で何より」
「おうよ、クルエラの嬢ちゃんも元気そうじゃのぉ。へへ」
「ご老人、そのまま掴んでいるといい。席まで案内しよう」
「悪りぃねぇ。相変わらず
「当然だ。同じ戦士としてあなたの事は尊敬しているからな」
彼女は彼を席まで行くと椅子を動かし、彼が腰を降ろすとその隣の椅子に座った。
それを見てアルリンとムルウスもドラゴンを警戒しつつ、クルエラの近くの椅子に席をとった。
誰一人として口を開かず重い沈黙が場を支配する。
ムルウスがクルエラに耳打ちした。
「リーダー、これが集いってやつなんすよね? そのしみったれの爺とどういう関係なんすか?」
「ばっ!! いいかこの方はなぁ」
「オレか? おめぇ新入りだなぁ。聞いたことねぇ足音が2つあったからなぁ。おめぇさん達もあの人の恩恵を授かったんだろうなぁ。防具かぁ。おれぁな。この杖よ。それと目ン玉を貰ったんだ」
「へぇ、そうなんだ。よろしくなつるつる頭の爺さん」
「おいムルウス! いい加減にしないか!」
「良いって嬢ちゃん。おれぁな若いの、戦争で魔王に嫁さんと娘喰われちまってな。あん時のおれぁ強いって自負があったんだけどよ。返り討ちよ。顔面と左手の薬指と小指を喰われて死ぬのかって時によ。おれぁ見たんだ。目ン玉が光を失う刹那、虹色に輝く女神の姿をな。嬢ちゃんがおれぉ治療して、歩くの辛いだろうって杖と悪目立ちしない様に義眼をくれたんだ。おれぁモンスターが憎い。モンスターをこの世界から狩り尽くすまで殺して殺して殺すのよ」
「ムルウス、この方はかの伝説の剣士ガヴァル様その人だ」
「ヘ? ガヴァル? 剣聖ガヴァル!? 嘘ぉ!? 魔王に挑んだあと忽然と姿を消したって聞いたけど……」
机に身を乗り出しムルウスは縮こまって座る老人をまじまじと見つめる。
「前情報と違い過ぎる……。そら死亡説が流れる訳だぜ……。もっとこう……」
「まぁ俺の見た目が変わったのは、この武器に付いてる
「それは本当か?」
今まで黙っていた向かいに座る真っ青な髪をした美丈夫が口を開いた。
金の装飾に銀の絢爛な甲冑に身を包み、威風堂々とした雰囲気は否が応でも見る者を緊張させる。
「あぁ、大僧正の言う事に間違いはねぇ」
「ガデュレリウス兄さん……一度王都に戻るべきだと思う」
続いて口を開いたのは彼の隣に座る紫色の髪をした癖っ毛の子柄な少年。同じデザインの銀の装飾に黄金の甲冑を着込んでいる。
「あぁ、ファビリル。どちらにしても勇者養成学校での大会に王属として見なきゃならんからな。ルベルは教員だから置いとくとして、残るのがあのエミアリアだぞ。民に要らん醜態をさらす可能性がある」
「えっ王族……えっえっまさか第1王位継承者ガデュレリウスと第4王位継承者ファビリル!? なんで王子が遠征組なんてやってんの!?」
アルリンが口をあんぐり空けながら指を指している。
2人は顔を合わせ、またかとでも言いたげな表情を見せた。その反応にファビリルが睨みを利かせ口を開いた。
「王族が遠征組になってはいけないのですか?」
「い、いや……ですけど……ねぇ?」
「俺に振れてもなぁ」
「民を護るのが王の使命。これぞ王族が成すべき姿だと僕は思ってますが?」
「それは……そうなん……ですけど」
「ファビリル、彼女が困っているじゃないか。あまりイジメるな」
「イジメてなんていません。忌憚のない意見をしたまでです」
「仲間の非礼をお詫び致します」
クルエラが深々と頭を下げる。
「頭を上げてくれ。確かに我らは王族だ。だが、同時に同じ志しを持つ遠征組だ。遠征組は立場も素性も関係ない。ここにいる繋がりは唯一つ、あの方から武器や防具を手に入れ、命を賭して民を守る決意をした者同士と言うことだ。さて、もう人が来ることはなさそうだ。そろそろお開きにしよう」
「ハッ!」
クルエラがドラゴンにアイコンタクトすると、ドラゴンは鼻息を吹き、猛烈な風がドアを乱暴に揺らした。
「お前達、王都に戻るぞ」
「え、もう終わりなんすか?」
「あぁ、大体来る面子はいつも固定だ。皆忙しいからな。こればかりは仕方あるまい」
アルリン達が席を立つと、他の面々も席を立つ。
「じゃあ兄さん。行きましょう」
「あぁ、久々にルベルに会えるな」
「そうですね。早く会いたいです」
「さて、おらぁも行くかねぇ」
「ご老人、手を」
「あぁ、階段下ったらあとは自力で行けるからよ。そこまで頼んまぁ」
そうして全員で部屋を出て階段を降りると、砂にまみれていたエントランスは3人が入ってきた時よりも綺麗になっていた。
「床が綺麗になってる」
「ドラゴンの鼻息が砂を吹飛ばしたんだ」
「あのドラゴンなんなんすか?」
「あのドラゴンか? あいつは私のペットだ。この塔に元々住み着いててな。戦ってるうちに何故か懐かれてしまった」
「ヘェ~ペットねぇ」
「リーダーってドラゴンをペットにしてるの!? ムルウスあんたなんでそんな薄い反応なのよ」
「いや〜驚くのに疲れた」
「疲れたって……」
「そういえばこの砂漠にはギガントワームの生息地だった筈だが、巣を換えたのか?」
「あぁ、その事なんだがよぉ、
「驚くのに疲れたっての同意するわ」
「ところでこの大所帯で歩いて行くんかい? おれぁめしいだし足おせーから足手まといになるぜ」
「それなら問題ない。ガデュレリウス兄上は魔法剣士だ。超広範囲ワープが使える」
「魔法剣士? 何ですかそれは?」
「魔術師と剣士、両方の特性を私は持つ。唯一無二の職業と言えるだろうな」
「その様な職業が存在するとは……それもレイス様が?」
「いや、彼女から授かったのは防具と魔法剣だ。さ、皆私の近くに」
6人はガデュレリウスの元へ集まり、彼が剣を天高く掲げると魔法陣が発生し光と共にこの場から姿が掻き消えた。
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