第20話 なんかジルバさんが過去話を聞かせてくれるみたいです

 僕はしばらくジルバさんと共に両者無言で歩き続けている。


 突然先を歩いていた彼が足を止めた。


「レイス殿ひと息つきませんか。娘を抱きかかえてお疲れでしょう」

「えっ? いやぁそんな事はないですよ」

「自分にゆかりのある店があります。行きましょう」


 そう言って彼は近くのとある店のテラス席へと座った為、向かいの席へと座る。


 ジルバさんが手をあげると、すぐに真っ白なシャツに黒のベストに上に合わせたシックな黒のスボンの身なりのきちんとした男性店員がやってきた。


「これはジルバ様、いつもご贔屓にして頂きありがとうございます」

「うむ、いつもの頼む。彼女にも同じものを」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 そういうと店員は店内へと消えていった。

 外観はログハウス建築でできたお店の用だ。店員がドアを開けた際に微かにピアノの音が聞こえた。店内でピアニストを雇っているのだろうか。


 流石、商業区のど真ん中に作られたお店。超高級店なんだろうなぁ。


「綺麗なお店ですねぇ」

「私はこの店がいたく気に入っておりましてな。特にコーヒーとシフォンケーキの味は中々のものです」

「はぁ」

「私は実はサボり魔でしてな。暇な時間を見つけてはここでこうやってテラス席に座って時間を潰している訳です。工房の事は今はもう他の者達がやってくれるので」

「僕と一緒ですね! 僕も自分の店にある椅子に座って時間潰してるんですよ〜」

「時にレイス殿、貴女は店を持つ前は冒険者を?」

「えぇ、いやぁあの頃は大変でしたよねぇ。そこら中にモンスターと人との戦争が起こってましたから。市場に行っては道行く人に武器とか防具とかアイテム売ってましたねぇ」

「戦争に参加はなさらなかったのですね」

「えぇ、僕戦うの苦手なもので。素材手に入れる為にモンスターを倒す事位でしょうか」

「私は例の戦争に参加しておりました。そのおかげもあり、王からいい土地を頂けました」


 そっかぁ。僕は戦争に参加しなかったからいい土地を貰えなかったのか。今のお店の位置結構気に入ってるんだけどやっぱり立地って大切なんだなぁ。


 そんな事を思っているとシフォンケーキとコーヒーが僕とジルバさんの前に置かれる。


 砂糖のかかった丸いケーキとコーヒーがとっても美味しそう。


「レイス殿」

「ハイ! ジルバさん! すごく美味しそうですねこれ。コーヒーの匂いも最高です! これは相当いい豆使ってますね!」

「私何歳に見えます?」

「えっ」


 これは困った……。どう答えるのが正解なんだろうか。ジルバさんは見た目は初老をとうに過ぎた老人だ。皮膚にはシワが刻まれ、髪はボサボサだが何故か肌と比べて髪に年月を感じさせる雰囲気がない。彼には白髪が全く生えてない。彼の年齢不詳っぷりは伊達ではなく、会議でもジルバさんの年齢は会話をするきっかけによく使われている程だ。


「う、うーん……そうですね」

「気兼ねなく言って頂いて構いませんよ」

「70……いや65位でしょうか……」

「なるほど、そう見えますか。年齢を言う前に聞いて頂きたい。――実は私はですね戦争当時は一介の剣士だったのです」

「えっ! そうだったんですか!?」

「ええ、ある時女神からギフトを頂きましてな。比類なき力を得ましてそれなりに活躍しておりました。しかし――」

「しかし?」

「しかしある時、顔にシワが出来ているのに気づきましてな。力を振るえば振るう程皮膚が老化している事に。それに気づいて以降冒険者をやめ、鍛冶師に鞍替くらがえしたと言う訳です。鍛冶の師匠が家内でした」

「はぁ〜そうだったんですか……。ん? 女神?」


 コーヒーを飲むと、口の中に程よい苦味とコーヒーの香りが広がる


「レイス殿、貴女――転生者ではありませんか?」


 まさかの爆弾発言に口内のコーヒーが変な所へ直行していき、一気に苦しくなる。


「ーーー!? ゲホゲホッ!」

「大丈夫ですかな」

「いやいやだって……」

「ちなみに現在の年齢は37歳。転生前の名前は工藤総司くどうそうじと言います。前世は大手企業の事務を担当しておりました。ちなみにVRMMOで正義マンをしてたら、粘着厨にリアルで殺されて転生した次第です」

「……」


 えっ……途中から情報量が多すぎて処理できない。今36歳で男性で元大手企業でVRでなんやかんやあって殺されたと。


「え、えっと……なんと言ったら良いのやら……」

「グレイト・ギア・ゲームズと言うVRMMOをご存知ですか?」

「いやぁ知らないですね……」

「もしかしたら年代が違うのかも知れませんな。そちらはどういうタイトルのゲーム名ですか?」

「ウエポンヴレイズオンラインです。ウエブレって呼ばれてました」

「存じないですな……」

「そうですか……。日本だとかなり流行ったんですけどね。一世を風靡したと言っても過言ではないと思います」

「長々と話こんでまいましたな。申し訳ない」

「いえ、ジルバさんの事を更に知れて良かったですよ」


 ジルバさんは僕と同じく転生者だったんだ。

 転生者仲間ができて嬉しいなぁ。


「レイス殿はどうなのですか? 戦争当時は」

「いやぁさっきも軽く言いましたが、本当に今と然程変わりませんよ。各地を転々としながら露店を開いては武具を売ったり、修理を請負ったりしてました。1度位戦争に参加すれば良かったかなぁ」

「あれは悲惨ですよ。特に剣士は――。人工鉱物のせいで亡くならなくても良い命が幾つも消えていきましたからな」


 ジルバさんは俯き暗い影を落とした。


「ハンドメイドメタルには困ったものですよねぇ。あれに関してはちょっと擁護ようごできないですね……」

「誠にやるせないですな。剣士時代にこの事を知っていれば、もっと早くに行動できたものを」

「こればっかりはしかたありませんよぉ」


 僕はシフォンケーキを平らげ、コーヒーを一気に飲み干した。


「いやぁ美味しかったです!」

「そうでしょう。支払いは私が済ませておきましょう」

「すいません。ご馳走になっちゃいまして」

「長話を聞いてくれた礼と思って頂ければ――」


 そう言ってジルバさんは席を立ち、店の中へ入っていった。


 ジルバさんが同郷とはなぁ……いやなんとなく雰囲気周りと違い過ぎるから、実はちょっと思ったりしてたけど。


「んぁ……お母さん?」

「ニーニャさん! おはようございます!」


 僕と目が合うと一気に顔がピンク色に染まり、彼女は手をバタバタと動かし始める。


「ハァッ!!? 何やってんの!? ここ何処ォ!?」

「ここはカフェのテラス席ですね。ニーニャさんが途中で眠ってしまったので、僕が抱っこしている訳です!」

「そっか、なるほどね〜って違う! なんか妙に温か柔らかいなぁって思ったらレイス下着はぁ!?」

「え、ちゃんとパンツ履いてすよ!?」

「いや下は履いて当然でしょう!?」

「おや……?」


 耳に遠くから何かがこちらへ近づいてくる様な音が聞こえてくる。

 その音はどんどん大きくなり、こちらに近づいている様だ。


「何かが近づいてきますね」

「何かってなに?」

「これは恐らく……」


 明るかった街が影に覆われ薄暗くなる。そして空を埋め尽くす程の鳥達が飛び交い、地上に羊皮紙を落としていく。


 茶色くくすんだ紙の雨だテラスにも大量の紙が降り注ぐ。


「なになに!? 何なのもー!!」


 僕は空中に舞った紙を掴み、中に書かれた内容を読む。


「どうやら近く、勇者育成学校で大きな試合があるみたいですよ。飛び入り参加歓迎って書いてありますね」

「そう……興味ないわ」

「えー楽しそうじゃないですか! 一緒に見に行きましょう。デートの続きしましょうよ。ニーニャさん仰ってたじゃないですか! たまには休む事も必要だって」

「デ……デートのつ……続きって……。そうよ! レイスは休むべきなのよ! しょうがないわね。私が一緒見に行ってあげるわ!」

「ハイ! ニーニャさん宜しくお願いします!」

「おやおやなんですかな。この騒ぎは」


 お店からジルバさんが戻ってきた。


「お父さん! そういえばあいつはどうなったの?」

「2度とこの国には来ないよう注意しておいた。それよりも――」


 道に落ちている紙を拾いつらつらと読みだした。


「剣魔夏季特別試合……とな」

「レイスと一緒に見に行く事になったわ」

「そうか……。楽しんできなさい。レイス殿支払いは済ませましたので、私は先にお暇させて頂きます。では、娘を宜しく」


 そう言ってジルバさんは先に店を後にしてしまいました。


「じゃあ僕たちも店に帰りましょうか」

「そうねってまた手繋ぐの……」

「家に帰るまでがデートですよ!」

「わー! こんな人通りの多い所で言わなくていいから! わかったわよ!」


 僕は顔をショッキングピンクに染めたニーニャさんと一緒に店を目指して歩き出しました。

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