第19話 なんかイチャモンつけられたみたいなんです

 現れた小太りの男性は、頭はつるつるのスキンヘッドに赤を基調とした大層高そうなパッツンパッツンの服に襟のフリルで首がしまっているのが若干苦しそう。白いタイツに黒の革靴を履いており、左手で金色の杖をついています。先程宝石のたたき売りをしていた声の主の様です。


「営業妨害だ! 冷やかしなら他所よそでやってくれ!」

「――な」

「何言ってのよ! ここをどこだと思ってんの!? あんたみたいなゴミクズの方がよっぽどか営業妨害よ! あんたこそとっととこの都市から出て行きなさい! ハーケネン商会舐めんじゃないわよ!」

「ハーケネン商会……だと? ハッそれがどうした? 私の知ったことか! いいか! その伝説のダークネスダイヤモンドは正真正銘本物だ! 今その証拠を見せてやろう!」


 男性がポッケの中から鍵を取り出し、ゲージが開かれ中に入っていた漆黒の鉱物を手に持つと日に掲げた。日の光が鉱物へ吸収されていく。


「見るがいい! これが伝説のダークネスダイヤモンドの最たる証拠だぁ! ハーハハハハハ!」

「その状態で魔力を流してみて下さいませんか?」

「ハァ? 何を言っとるんだモグリめ! そんな事をして何になると言うのだ!」

まだ・・その状態では伝説の鉱物じゃありませんよ」


 ニーニャさんがビシッと小太りの男性に向かって人様を向ける。


「そうよ! いい? ダークネスダイヤモンドはね、日の光を吸収させた後、魔力を流す事で伝説のレインボーダイヤモンドになるのよ!」

「ハ……ハァ? な、なんだそれは……そんな情報知らないぞ……」

「早く見せなさいよ!」

「う……うぐぐ。う、嘘だ! 貴様ら揃いも揃って口からでまかせを! おい、こいつ等を店からつまみ出せ!」

「なんですって!?」


 店のカーテンで仕切られた奥から僕の何倍もでかい筋肉だるまの様な男性が1人出てきました。手の骨を鳴らして僕達に近づいてきます。


 まずい……何とかしてニーニャさんだけでも逃さないと……。


「お取り込み中すまない。少し良いかね?」


 不意に肩を叩かれ、僕を押しのけたのはジルバさんでした。


「ジルバさん!」

「お父さん!?」

「ほぉあそこに見えるのはダークネスダイヤモンドかね」

「しみったれたクソジジイ邪魔だどけぇ!」


 大男がジルバさんの顔面に向かってパンチを繰り出した。当たったかと思った瞬間、大男は後ろに思いっきり吹っ飛び、カウンターを破壊しながらカーテンの奥へと消えて行きました。


「私は戦いを好まないが、大切な娘とその友人を守る為なら喜んでこの手を血に染める覚悟がある。どうしたのかね? 気分でも悪いのかね」

「あ、あり得ない……。ヴロージュはビッゲストベアーを一撃で屠る腕力の持ち主だぞ……な、何者だ……」

「わしか? わしはジルバ・ハーケネンと言う。ふむ、これがかの伝説の鉱石か。どれどれ?」


 ジルバさんがダークネスダイヤモンドに手を触れると、骨と皮しかない手の筋肉が急激に盛り上がり血管が浮き出たかと思うと鉱石はバラバラに砕け散ってしまった。


もろい……所詮人工鉱物ではこれが関の山か」


 そう言うと今度は店主の肩に手添えた。


「ヒィッ!」

「良いかね……物や事象そのものに優劣があってはならないのだよ。ましてや偽物をさも、本物の如く売るなんぞ問題外だ。そうだな?」

「ハ……ハヒぃッ」


 ジルバさんが一瞬僕の方を見たあと、目を伏せた。


 僕は彼女に気取られないように、彼女後ろに立ち両手で目をふさぎ睡眠の魔法をかけた。


 ふらつく前にしっかりと両手で彼女を支える。


「良いかね? 今度この様なふざけた事をしたら……君の頭がこうなると肝に命じておきたまえ。3日与えよう。この都市から出ていきたまえ。良いな」

「ハ……ハヒ」

「そうかね、わかってもらえて何よりだ。レイス殿、店まで送りましょう」


 小太り店主はその場にヘタリ込み、床を濡らしていた。


「あ、ありがとうございます……ジルバさん」


 彼はニーニャさんを抱っこし、僕は彼と共に店を後にした。

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