第18話 なんか宝石店でニーニャさんと買い物デートするみたいです

「じゃあ、すぐ済ませちゃいますね」


 ホカホカのご飯の上に味噌汁をぶっかける。


「な、なにやってるの?」

「これですか? ぶっかけご飯です。美味しいですよ。一口いかがです?」

「い、いいわいらない」

「そうですか」


 出来上がったぶっかけご飯を口にかき込み一気に平らげる。


「やっぱりぶっかけご飯は最高ですねぇ」

「レイスってさ」

「ハイ」

「たまにものすごく男っぽくなるわよね」

「そうですか? さぁ行きましょうか」

「ちょっと待って」

 彼女は自分の着替えやら色んなものが入っている大きな鞄を開き、ネックレスを付ける。


「あ、エタノールホープ付けて頂いてるんですね」

「ガネーシャには眠って貰ってるわ。溜まったもんじゃないもの。このこが起きてると1日歩くだけで大富豪になっちゃうわ。私はお金なんてどうでもいいのよ。金の延べ棒よりもっとレアな鉱物が欲しいわ」

「素晴らしいですねぇ。意識の高さ感服します」

「褒めたって何も出ないわよ」


 彼女の準備を見届けた僕は席を立ち、彼女と共に1階へ降りそのまま店の出入り口のドアを開けて外へと出る。


「さ、行きましょうか」

「鍵掛けなくていいの?」

「あぁ大丈夫です。勝手に鍵がかかるんで」

「そ、そう。えっと……まずは貴族街へ向かうわ」


 僕はニーニャさんに手を差し出す。


「え……」

「手繋いでいきましょう」

「――マジ?」

「デートですから」


 彼女はおずおずと手を伸ばし僕の手を握った。


「こ……こっちよ」

「ハイ、ついて行きます」


 彼女と一緒にしばらく歩き続け貴族街へと足を伸ばす。


「いや〜久々に貴族街にきました」

「目当ての店は商業区画にあるわ」

「了解しました」


 貴族街を通り抜け、商業区画へとやってきた。

 遠くに何やら人だかりを確認できる。


「あれよあれ。私がちら見した時はあんな人だかりできてなかったけど」

「ずいぶん繁盛してますね。楽しみですー」


 店の前まで行くと前の方から男性の声を張っている。


「さぁ〜期間限定価格! 貴重な宝石や貴金属が今ならとっても安いよー!」

「例えば何があるんですかー!?」

「ちょっとレイス!?」

「例えば!? え……えっとそう! クリムゾンレッドの宝珠が今なら15000アイゼル! 赤色がお好きならマストバイだよ!」


 クリムゾンレッドは中々に良い宝石です。

 状態がいいものなら5万はする筈、それを半額以下の値段で売っている様です。


「はぁ、それは中々ですね……」

「お得なの?」

「破格と言っていいでしょう」

「へぇ~っレイスみたいね」

「僕は半分は趣味でやってるところがありますね」


 薄利多売なんだろうか? しかし外から見える分の規模はそう大きくは見えない。僕の店といい勝負ではなかろうか? もしかしたら僕と同じく転生者である可能性も捨てきれない。


「百聞は一見にしかず……か」

「レイス?」

「行きましょうかニーニャさん」


 僕は彼女の手を引き、人だかりの中を進む。


「あぁもう! うっとおしいわね!」

「これは……ちょっとキツイですね……おわっ!?」


 もみくちゃにされる中を進んで行き、急に手を捕まれ入口まで一気に引き寄せられる。


「レイスの嬢ちゃん! やっぱりあんたさんだったか! お? それにハーケネン商会のおちびさんまで!」

「ウブドさん! いやーありがとうございます!」

「良いんだよ! あんたには日頃世話になってるかね、色々・・と」

「流石持つものは同業者仲間ですねぇ」

「そうそう、持つものはでかいおっぱいと尻と綺麗なうなじを持つべっぴんさんよ」


 互いにサムズアップし、健闘を称え合う。


「レイス、このおっさんぶん殴っていいかしら?」

「暴力はいけませんよ〜」

「そうだよ、おちびさん! あんたもいつかはセクシーな女になれるって」

「本気で殺すわよ」

「じょ、冗談っすよ。ハーケネンの嬢さん。じゃ、俺はこれで!」

「あれ? 見て行かないんですか?」

「おらぁもうあらかた見たんでいいっすわ。んじゃ」

「さよなら~ウブドさーん! 洞窟の件はお世話になりました〜」

「また暇なときに顔見せてくれよな〜」


 そう言ってウブドさんはでかい鼻をこすりながら行ってしまいました。


「じゃ、入りましょう」

「えぇそうね」


 店内に歩を進めると、まず受けた第一印象は思ったより広い店内。しかし急ピッチで作ったのか宝石はガラスケースに入った物、野ざらし状態のものがあったりだいぶまばらです。


「すご~い、確かに安いわね」

「そうですねぇ」

「見て! イエロークレモが2000アイゼルですって」

「ほぉ……ん?」


 ガラスケースの中に飾られている黄色く輝くイエロークレモにどことなく違和感を覚える。とても小さいが中に不純物らしきものが確認できた。

 少数かつとても小さいが黒い斑点の様なものが見える。


「これ不純物が混ざっちゃってますね……これはちょっと」

「え!? どこ?」

「ここです。この上の部分に極々小さな黒い斑点が見えるでしょ?」

「ほんとだわ……。こんなの売りに出したら私のところだったら工房長が怒り爆発って感じね」


 次に僕は野ざらしにされている青い宝石を手に取る。


「うっわ雑な加工だなぁ〜。中身ズッタズタ! こんな結晶質じゃあ値段つかないよ〜」

「レ、レイス……大丈夫?」

「あっ」


 あまりに雑過ぎる仕事に仰天して素に戻ってしまった。


「だ、大丈夫です……」

「ほ、ほんとに?」

「えぇ、勿論です。プロですから」


 次にピンク色の鉱石を手に取る。


「うっひゃ〜。これもしかして人の手で着色してある? いやーあり得ない!」


 次々と晒されている鉱石らしき何かを観察し、どれもこれも子供だましの1品であると一瞬で判断できた。


「酷すぎてなんか逆に楽しくなってきた。もはやここまで酷いとギャグだよ!」

「レイス……口調が……いつもと違うんだけど……」

「ハッ!? すいませんつい!」


 何とか話題を変えなきゃ……。


「ねぇレイスあれ見て……」

「な、なんでしょうか?」


 彼女が指差す方へ目をやると、漆黒の鉱物が目に入った。


「ダークネスダイヤモンド……」

「やっぱりそうよね?」


 僕はひときわ目立つ金のゲージに入れられた漆黒の鉱物をまじまじと観察する。そして決定的な違いを発見した。


「これは酷い……あまりにも酷い」

「そんなに酷いの?」

「これはハンドメイドメタル人工鉱物です。間違いありません」

「ハンドメイドメタルってなに?」

「10年程前に確立された人工的に鉱物を作り出す手法です。戦争で剣士の武器なんかを急造する為に生まれた技術です。あまりにこういう事を言いたくありませんが、平たく言って無価値ですねぇ」

「じゃあ偽物って事!?」

「偽物と言うよりは贋作がんさくと表現した方が近いでしょうね。どっちにしてもこれを売るのはれっきとした犯罪ですよ」

「ちょっとあんた!」


 後ろから怒鳴り声がしたため振り返ると、小太りで中々立派な身なりの男性がいました。

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