第17話 なんかガールズトークするみたいです

 鍛冶師の朝は早い。


 薄暗くまだ日が差していない内に起床し、全裸のまま二段ベッドから降りて部屋のすみに設置されたクローゼットを開ける。

 中には空色のドレスがずらりと並んでおり、その中から適当にチョイスした物を取り出し左手で抱え、右手で十字を切ると空間から収納ケースが出現する。ケース内に入ったブラジャーとパンツを手に取りそのまま履く。


「うーん……やっぱなしでいくか」


 ブラジャーはあるが胸の圧迫感が気に入らない為、基本的に付けることはない。


 ブラジャーを収納ケースに戻し、いつもの様にドレスを着て出入り口に掛けられた時計を尻目で確認。針は午前4時丁度を刺している。


 着替えを終えた僕はケースを消し、後頭部に手を回しドレスの中に入った髪を出す。未だベッドで寝息を立てているニーニャさんを起こさない様にゆっくりと階段を降りていく。


 カウンターの奥に置かれた棒に布が何枚も付ついたハタキを手に取り、飾られた武具を軽く叩いていく。


 正直この店内にある全てには防腐処理や埃の処理等、ありとあらゆる汚れや欠損における対策を講じているので正直言ってしまえば今、自分のやっている行為は全くの無意味ではあるが一応の礼儀と仕事を始める為の切り替えスイッチの様なものとして日課にしている。


 店をぐるっと一周し、僕はカウンターへ戻りハタキを元あった場所へ戻したら再び階段を上がり2階へ戻ると3人は悠々と座れる大きめの赤いソファーへ腰をおろす。


「ふぅ」


 左手の人差し指をピンと立て十字を切る。

 先程と同様に空間から収納ケースが出現。中に入っていた未加工の原石を1つ取り出す。収納ケースを消し去り左手での親指と中指で固定し、右手の人差し指と親指をくっつける。すると、できた円形の空間内に小さな魔法陣が出現しレーザービームの様な光を原石に当てるとチリチリと煙と音を立てて削れていく。


 ――しばらく削り続け比較的オーソドックスなダイヤモンドの8面体の形を形成する。


 形成し終わった石を朝日に当てると部屋の中が緑色の光に包まれる。


「あちゃ〜緑色かぁ。うーんやはり一筋縄ではいかないなぁ」

「……ん〜レイス? おはよふぁ〜あ」

「あっ! すいませんニーニャさん起こしちゃいましたか」

「今何時?」

「えーっと6時半です!」

「ふーん。早起きねぇレイス……ねぇ手に持ってる宝石……」

「あ~これですか。上手くいけば黒くなるんですけどねぇ」

「やっぱり! え? 黒く……なる?」

「そうなんですよ〜。上手いこといくとすっごい黒くなるんですよ」

「そ、そんなに?」

「えぇ、光を吸収する位には黒くなるんですよ。まさに真っ黒って感じです」

「へぇ~そうなの。でも……レイスが持ってるそれ緑色ね」

「えぇ……いや〜一応真っ黒になったの実はもってるんですど――」


 ニーニャさんがベットから飛び起き僕に飛びついてきた。


「見たい!」

「あの朝ごはんは――」

「食べてから見る!」

「アッハイ」


 再び左手で十字を切りケースを出し中から漆黒のダイヤモンドの形をした宝石を彼女に手渡す。


「これがダークネスダイヤです」

「……」


 彼女は受け取ったダイヤをじっと見つめている様だ。


「冗談抜きで黒いですよねぇ。それを朝日に向けてみて下さい」

「こう?」


 宝石を朝日に向けると日の光が吸収されていく。


「光が……」

「ここからよぉく見ててくださいね」


 僕は彼女の手に僕の手を合わせ、彼女の手を通し魔力を宝石に流し込むと漆黒の宝石がまばゆい光を放ち、部屋の中が虹色に輝く。


 添えた手を離し魔力の供給を断つと、宝石は再び漆黒のダイヤモンドへ戻り僕は宝石を彼女から返してもらう。


「今のは……」

「そしてこれが伝説の鉱物レインボーダイヤです。状態が違うだけで名称が変わる鉱物なんて珍しいですよね」

「すごい……」


 呆けて活動停止している彼女の肩をポンッと叩く。


「さてと、朝ご飯にしましょうか。パンがいいですか? ご飯がいいですか?」

「ご飯ってあの白くてホカホカのやつ?」

「ええそうです」

「そうね。おいしいし面白い食感だけど……トーストの方が好きかも」

「じゃあトーストにしますね。少々お待ち下さい」


 リングコマンドを使用し、トーストを選択肢。部屋の真ん中にある木製の丸テーブルに白い皿とベーコンと半熟の目玉焼きが乗ったトーストが出現。


 もう一度リングコマンドを使用し今度は黒い箸に味噌汁とご飯と黄色いたくあんを選択肢。向かい側に現れたと同時に木製の椅子に座る。


 僕が座ると彼女も着席し食事を開始した。


 味噌汁が入ったお椀を手に取り汁をすすってから箸を手に取りご飯を口に運ぶ。


「ねぇ、れいふ」


 トーストをもしゃもしゃ食べているニーニャさんが僕に語りかけてきた。


「なんでしょう? あっ! ミルクですね」


 僕はリングコマンドを三度使用し、牛乳を選択。彼女の側に牛乳が注がれた牛乳瓶が現れる。


「あぁありがとう。――って違う! 思い出した事があるのよ! この前貴族街を歩いていたら別大陸から来た宝石商が伝説の黒い宝石を展示していたわ! あれ絶対あの宝石よ!」

「ほお! 僕以外にあの宝石を持ってる人がいるんですかぁ。流石世界は広いですねぇ」

「レイス! 今日はお店開くの?」

「フフフ……僕のお店は年中無休ですよ」

「今日はお休みにしなさい!」

「えぇ! 今から行くんですか!?」

「当たり前じゃない! 他の大陸に行っちゃったら拝められなくなっちゃうじゃない! それにレイスは働き過ぎよ! たまには外に出なさい! あんな狭い空間でずっとクルクル回ってたら病気になるわよ!」

「う、う〜ん」

「今日はお休み! ハイ決まり!」

「なるほど……これはニーニャさんとデートですね」

「で、デデでデート!?」


 彼女が素っ頓狂な声を出し、トーストを貪り食べ牛乳をがぶ飲みしました。


「レイスって好きな人とか……いるの?」


 こ、これはガールトーク!?

 どう出るべきなんだろう?


「そうですねぇ……いますねぇ!」

「やっぱりいるんだ……」


 ん? なんだこの空気は?


「どんな人なの?」

「勿論、ニーニャさんに決まってるじゃないですかぁ」

「バカ! そういう事じゃないわよ! 早く朝ごはん食べて出かけましょ」

「照れてるんですか〜」

「ち、違うわよ! ニヤついてないで早く食べなさいよ!」


 そうしてどうやら顔を髪の色と同化させたニーニャさんと、別大陸から来た宝石商へ向かう事になったみたいです。

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