閑話 ムルウスの短くも長い体験

 俺の名はムルウス。しがない剣士だ。ここ最近はリーダーの元、遠征組の1人として活動を始めた。生きていると色々な物を目にする機会が増える。

 俺は剣士をやるようになってかれこれ15年位になる。

 俺は頭が悪い。だから、剣士の家系に生まれて良かったと思う。ただ愚直に剣術修行に明け暮れていればそれでいい。いつかは名を挙げ良い女囲って、それなりに生きられればいいと常々そう思っていた。


 今俺達は王都を離れ西の大砂漠にある酒場に来ている。


 リーダーは壁に貼ってあった羊皮紙を引っ剥がすと、カウンターに叩きつけた。


「これを請け負いたいんだが頼めるか?」

「お猿を連れたマッチョな姐さん。こりゃあんたには荷が重すぎると思うぜ? それともなにかい? 一個大隊でも持ってるのかい?」

「私は過剰粉砕オーバードブレイクのクルエラだ」


 リーダーがそう言った瞬間、話していた男のジョッキを拭く手が止まった。


「それって……あれですかい? 月をぶっ壊したっていう……あんたがその?」

「そんなだいそれた事をした覚えは一切ないが……まぁそうだ」

「失礼しやした。遠征組の方なら大手を振って任せられますぜ。是非お頼み申しやす」

「討伐金の方は……」

「勿論、支払わせて頂きやす! いや〜有り難い! 奴が居なくなってくれれば、また貿易が容易くなるってもんすよ。へへへへ」

「さっきと態度が違うな……。まぁ良い私もまだまだと言った所か」


 そう言うとリーダーは俺達の方へ戻ってきた。


 リーダーが言うには「ギガントバジリスクが出た。今から討伐しに行く」とさも当然であるかの様に言い放った。


 バジリスクといえば目が合えば即座に石にされてしまう凶暴な魔物だ。ギガントと付くと言うことは、その親玉を狩ると言うこと。そして普通のバジリスクとは大きく異なる所が1つある。大きさだ。異常な程でかいのだ。山1個分位のデカさがある。


 俺とアルリンは互いの顔を見合わせた。

 俺と彼女は確かにあの人・・・のおかげで以前とは比べ物にならない程に強くなれた。

 しかし、たった3人で討伐するなど到底不可能だからだ。

 幾ら頭が悪い俺でもそれはわかる。昔大きな戦争があった。その時ギガントバジリスクに向けられたのは魔法使い50名、剣士50名の大隊。3日3晩昼夜問わず戦い続け、勝利を収めたと俺は先輩の剣士から聞いていた。


「あの……リーダー? まじで行くんスか?」

「なんだ怖気づいたのか?」

「いや……そういう訳じゃないッスよ……」

「でもリーダー私達3人じゃ到底無理よ。サイズが違い過ぎる。ギガントバジリスクあり得ない図体と硬さを持つし……。それに最悪石化されちゃったら……」

『チョー日和ってんじゃんウケる』

『下らぬ……』

「ギガントバジリスクの石化は目を見なければいい。それにわたしのこれ・・は大型モンスター向きだ。今回はお前達もいずれは私と同じ様になるという……何というのか……例いや、見本を見せてやろうと思ってな。なに、お前たちはただ見ているだけでいいさ」


 リーダーの肩に乗っていた猿が頭に移動し彼女の髪を噛み始めた。


『んな事よりもあいつ俺の事猿って呼んだゾ! 俺は猿じゃなーい! ウキー!』

「行くぞお前達。それと斉天大聖せいてんたいせい私の髪を弄くりまわすのはやめろ」

『ムキー!』


 そうして今俺達は砂漠を進み、喋る猿もとい斉天大聖の言う通りに歩を進め、遂にその時がやってきた。


 眼前に見えるは山2つ分はあろうかというトカゲの躰、鶏の頭に大鷲を思わせる巨大な羽根を持つ化け物が目の前にいる。目の前にいると言っても距離は離れている為、向こうは俺達の存在には気づいてはいないが……。


「よし、いたな。ではお前たちは私から少し離れろ」

「リーダー本当にたった1人でやるの?」

「そ、そうッスよ! 俺達も手伝いますよ!」


 そう言うとリーダーは微笑みながら背中の大剣を地面に刺した。


「大丈夫だ。ギガントバジリスクなら既に10匹は狩っている。こいつはな石化する眼のせいで視力があまり良くないらしい。一定の距離から離れた者には反応しないんだ。そして――上空からの攻撃……特に頭上からの攻撃には一切抵抗できない。よく見ておけ。ゆくぞ斉天大聖!」

『あいよクルエラ! お前ら離れた方がいいぞ!』


 忠告通り俺達はその場から離れると、彼女が持っていた剣が伸びだし、彼女の躰は天高く舞い上がった。


「斉天大聖! 振り上げたと同時に巨大化させろ!」

『あいよ了解!』

「――チェストオオオオオオオ!!!」


 剣が視界から消えると地平線上に巨大な影が伸び、耳をつんざく程の風切り音が聞こえたかと思うとギガントバジリスクはその身の丈の何十倍もあろうかというあまりにも巨大な鉄塊の下敷きになった。



 土煙が舞い上がり周りが全く見えないがリーダーの叫び声が遥か上空から聞こえたかと思うと、俺達がいた所に彼女の姿があった。


『お疲れ』

「あぁ! まぁこんなものだな」


 土煙が収まるとギガントバジリスクらしき肉塊が超巨大で長く地平線まで続く穴の中に沈んでいるのが確認できた。


「す……スケールが違い過ぎる……」

『へへーン! どーだ! スゲーだろー! 俺とクルエラがちょいと力を振るえばこんなもんよ。ちなみに本気出してねーから』

「やめないか斉天大聖。いいかお前達もその防具に宿っている力を行使していけば、いずれは私と同等の力を持つに至るだろう。その力をどう使うかはお前達次第だが、これだけは言っておくぞ。決して悪用しようとは思うな。レイス女史に迷惑をかけるのだけはしてはならない」

「それは勿論わかるけど……」

「私は彼女に命を救われた。私は【集い】の1人として彼女を尊敬し畏怖している者の中の1人だ。いいかさっき言った事は肝に銘じておけ」

「リーダーその集いってなんすか?」

「あぁ、集いというのは……せっかくだ。今から集いに顔見せするのも悪くないな……。よしそうしよう。金を受け取ったら、集いへ行くぞお前達」


 リーダーは俺の方を向き、徐に口を開く。


「レイス女史の武器や防具を手に入れ、遠征組となった者達の集まりだ。さぁボサッとしているな」


 俺は頭が悪い。

 そんな俺でもわかる。

 今から向かおうとしている場所は恐らくこの世で最もヤバい所なんだろうと言うことが。

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