閑話 ムルウスとアルリン、リーダーと共に王への謁見ヘ★

 ハーケネン商会内の喫茶店にて、漆黒の甲冑に身を包む戦士ムルウスと白いローブを着た魔女アルリンの2人は祝杯をあげていた。


 以前と違いレイスから手に入れた防具の能力を駆使し難易度の高い依頼を次々こなし、2人は豪勢な食事を愉しむ事が当たり前になっていた。


「「カンパーイ!!」」

『イエーイ!! アゲアゲじゃーん!』

『……ふむ、先の戦いは見事であった。褒めてつかわす猿』

『猿だってウケる』

「ノブナガさん、俺の事猿って呼ぶのもう簡便してくださいよ」

『……』

「そんな睨まなくても……」


 アルリンが通りかかった店員を机を乗り上げ呼び止める。


「ねぇー! 店員さん! ミディアムレアのデラックスなステーキーまだ?!」

『祝いの席で酒ではなく西洋茶か。解せぬ』

「俺達2人共酒は全然飲めないんすよ」

『……是非に及ばず』


 しばらくして店員達が数人掛かりでが直径70センチの大皿に乗った巨大な肉の塊をテーブルの上に置いた。


「旨そう〜」

「ミディアムレア! ミディアムレアのお肉〜!」

『喫茶店でステーキとかウケる』

「この超でっかい肉はねー私とムルウスが討伐したギガンテスオークの肉なんだー! 世界7大珍味の1つなんだって伝えたら、裏にいる料理長が是非調理したいって凄い張り切ってさー!」

「おい、喋るの後にして喰おうぜ!」


 2人はナイフで肉に切り目を入れ皿に盛った。


「「いただきま~す!!」」

「お前達こんな所に居たのか。探したぞ」


 双方が揃っていよいよ肉を口に運ぼうとしたその時、声をかけられた方を見ると大剣を背負った筋骨隆々の女性が2人のそばへと近づいてきた。


「「リーダー!」」

「いつ戻ったの?」

「今さっきだ」

「何度見ても芸術的な御御足おみあし。筋肉質でありながらも女性らしさを感じさせる」

「ムルウスお前は相変わらずだな……」

「俺を足フェチにした責任とって結婚してください」

「悪いが拒否する。そんな事している暇はない」


 女性の後ろから白い毛の小柄な猿が現れ肩に乗った。


『ほんとだ。クルエラの言った通りの変態だな』

「猿が喋った!?」

『猿が言葉を喋っちゃいけねぇなんて法律はねぇぜ』

『フッ……同胞ハラカラか』

「ノブナガさん? 姿見えないけど今絶対笑ってるでしょ」

『俺は猿じゃない。れっきとした猿人だぞ』

『猿呼ばわりがもう1匹増えるとかウケる』

『俺は猿じゃないって言ってんだろ』

「やめないか、斉天大聖せいてんたいせい。これも運命さだめか。まさかお前達までレイス女史の武具を手に入れるとは……」

「リーダーも一緒にどうです? 珍味っすよ珍味!」

「ミディアムレアのステーキだよリーダー!」


 クルエラはテーブルに手を叩きつけた。


「お前達の身につけている防具、それをどこで手に入れた?」

「あ、気になる? 実はすっげぇ美人でめちゃくちゃ強い鍛冶師がこの王都にいるんだよ! これがまた素晴らしい足をしててさぁ!」

「レイスお姉様〜素敵な方よねぇ」

「そうか……。やはりな。今すぐ私と王城ヘ行くぞ」

「王城? どうしてまた?」

「お前達は今岐路に立たされている。どちらを選ぶかは……お前達次第だ。行くぞ」


 クルエラはテーブルから離れ店を出た。


「ちょ! まだ口付けてすらなのに!」

「せっかくのミディアムレアなのに〜」


 2人は切り取った肉を思いっきり口に含み、彼女のあとを追って店を出た。


 クルエラに追いついた2人は口をモゴモゴと動かしながら彼女の後ろへ付いて歩き続け、やがて王城の門で立ち止まった。


「門番、王への謁見を頼みたい」

「王への!?」

「謁見!?」

「……後ろの2人の事できた。私の名はクルエラ。過剰粉砕オーバードブレイクのクルエラだ」

「遠征組みの!? ハッ!! 少々お待ち下さい!」

「遠征組みぃ!? リーダーって遠征者だったの!?」

「遠征組みって何?」

「ハァ!? あんた冒険者やってる癖に遠征組みも知らない訳!?」

「聞いたことないんだけど?」

「いい? 遠征組みってのは――」


 アルリンが遠征組みについての説明をしようとした所、門番が小走りで戻ってきた。


「どうぞ、王がお会いになるとの事です」

「失礼する」


 門を潜り、手入れが行き届いた美しい庭園を突っ切りそのまま王城内部へと入っていき、正面の巨大な階段を登っていく。


「なぁ、この国の王様って確かある日を境に大きな行事の時以外は民の前に出なくなったっていうじゃんか。その王様に今から会いに行くのか?」

「何あんた遠征組みの事は知らない癖に王様の事は知ってるの?」

「当たり前だろ? 俺だってこの国の1人なんだから!」

「2人とも、そろそろ口を閉じろ。謁見の間は目と鼻の先だ」


 クルエラの忠告に2人は揃って口を紡ぎ、巨大な金で宝飾された紅い扉がゆっくりと開いた。


 最奥の椅子には豪勢な黄金色に輝く王冠を頭に被り、白髪の顎髭を生やした気だるそうな顔をした老人が鎮座している。周りに大臣等の姿はなく、3名はただ立ち止まって成り行きを見守る。


「近うよれ、そう警戒せんでもよい」

「ハッ! 失礼致します」

「息災かクルエラよ。そこの2人は何者だ?」

「この2人は私の仲間です。今回は例の事で相談に参りました」

「うむ……そうだな。新たな適合者か。後ろの2人、もっと寄れ」


 ムルウスとアルリンは恐る恐る王の眼前へ出た。


「漆黒の剣士に白い魔女と言ったところか。して、どの様な能力を持つ? 申してみよ」

「えっと俺は切り捨てたモンスターなんかを特殊な兵士として何人か使役? できるようになりました」

「私は魔術に対する強力なバフと相手の運勢を消し去る……と申し上げたら良いのでしょうか」

「うむ。まだまだ初期の段階と言ったところか」


 王は肘をつき、顔に手をやりながら2人を見下ろす。そんな中アルリンが手をあげた。


「あの……質問よろしいでしょうか?」

「申してみよ」

「王様も彼女の武具を?」

「まあの。わしもお前らと同じく彼女の装備品を身に着けておる。時にそなた達はこの武具の事をどう思う?」

「すっげぇ強くなって有り難いと思いますが……」

「それだけか? まぁ初期段階ではその程度よな。良いか、お前達が手に入れた武具はそんじょそこらに売っている物とは訳が違う。最終段階まで築き上げた武具はまさにこの世を支配できる可能性を持っていると言っても過言ではないだろう。お前達に問う。その武具を使い何を成す。良いか? お前達には2つの道がある。1つは飽くなき戦いの道。遠征組となり、世界へ散らばりまだ見ぬモンスターを討伐し続けてもらう。そしてもう1つの道。それはこのまま王都に留まり、ある人物の動向を探ること。またはその警護、報告。こちらを選んだ場合は今ある職業をわしの権限で剥奪し、新たな職業ヘ就いてもらう。無論、戦士や魔女ではない一般職だ。月にわしの懐から金を出してやっても良い。扶養家族がおるのならその分増額もしてやろう。さぁどうする?」

「遠征組!? お、俺達が!?」

「職業をやめるってどういう事ですか!?」

「王よ。ここは私が」

「うむ」


 彼女は前に躍り出るとへ2人の方へ向き直った。


「良いかお前達! 魔王の封印が成されて10年余り! 平和を謳歌しているのは王都周辺と僅かな近隣国のみに留まっているのだ! 一歩でも別大陸ヘ赴けば、強大な敵が我が物顔で跋扈ばっこしている! そしてその範囲は日々増続けている! 私も創生の女神であるレイス女史からデッドエンドバスターブレイドを作成してもらい、ある日王城へ呼ばれ真実を知った! お前達に覚悟はあるか! もし――あるならば、私と共に冥府魔道ヘ堕ちてもらう!」

「俺は元々戦う事しか能がない男だし、行くよリーダーと。それにリーダーの歩く姿好きなだけ堪能できるしな!」

「やっぱりレイスお姉様は創生の女神様だったんだ……。行く……私も連れていって!」

「覚悟は決まったか」


 王は椅子から立ち上がり、階段を降りると3人のそばにやってきて、1人ずつ肩に手を置いてから口を開いた。


「今わしの力をおぬし達に少しだけだが、分けてやった。わしのレジェンドオブクラウンの能力は国を、民を守護する力。お前達の活躍に期待しておるぞ」


「「「ハッ!!!」」」

「征くがよい」


 3人は揃って王城を後にし、道具屋に寄った後再びハーケネン商会にある喫茶店で一息つく事に。


「あれだけ勢い良く飛び出たのにまだ行かないんすね」

「肉がどうのこうのと言っていたのはお前達ではないか」

「いや、そうなんだけど……」

「それにレイス女史に挨拶もせねばならん」

「あ、そうか! アルリン、レイスさんに報告しようぜ?」

「そうね」

「だめだ、レイス女史に遠征組の事を漏らしてはならん」

「どうして? レイスお姉様だって自分の作った武器の活躍を知りたいはずよ」

「これは言わばタブーなのだ。この国と彼女の関係は極めて脆く、限りなく強固でなくてはならない」

「言ってる意味が全くわからん……」

「とにかくだめなものはだめだ。私達はひたすら力を奮ってモンスターを屠るのが役目。それ以外の事はこの国の住人に任せればいい」

「そういえば遠征組を選ばなかった場合のお金云々って結局どういう意味なんです?」

「あれか? この国の冒険者以外の職業に就いている者達の大半はな――元々レイス女史、創生の女神の恩恵にあやかった者達なのだ」

「「え?」」


 ムルウスとアルリンの両者はしばらく呆気にとられていた。

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