第16話 なんかウエブレ仕様の錬金術を生徒の皆さんにレクチャーするみたいです

 そんな事を思っていると徐に手が上がった。


「ハイ、そこの剣士さん!」

「えっとぉ先生のおっぱいは何カップあるンすかぁ? めっちゃ巨乳っすよね?」


 男子生徒特有のセクハラトーク炸裂! 女の新任教師だったら萎縮いしゅく不可避! 笑止! こちらは元男性! 年頃の男の子の行かんとするルート等とうの昔に過ぎておるわ!


「そうですね。胸の大きさに関しては良くわからないので。でも、恐らくGカップはあると思います」


 気持ち前かがみになり谷間を強調する。


 男子生徒全員の目付きが明らかに変わった。

 よし、これで予定調和が働くならばあのイベントが起きるはず。


「先生! 男子をたぶらかすのはやめて頂けまして!?」


 席の1番前で中心に座っている金髪で長い髪を紐で束ねている少女が立ち上がり、僕に向かって指をさし叫んでいる。


 キタ! メインお嬢様キタ! これで勝てる!

 このタイミングで声を上げた彼女、テンプレお嬢様のエントリーだ。


「貴女は?」

「ルーナ・ヴォン・エルジェスタインです。この学園の生徒会長をやっておりますわ」


 生徒会長! 来た! このクラスどころか学校のボス猿来た! これで勝つる!


「これは失礼を。ハメを外し過ぎました。ではまず錬金術が使えるって人いますかー?」


 シュバッと手を上げたのはルーナさんでした。


「勿論使えます。こんなの簡単ですわ」

「ほう、錬金術がどういった技術なのか説明してい頂いても?」

「えぇ、よろしくてよ。有史以来錬金術とは――」


 彼女の説明は一字一句漏らさずに僕は聞いた。


「なるほど、ありがとうございました。ルーナさんの仰っていた錬金術ですが、古い方法ですね。今現在はもっと簡単かつ安価な方法がございます」

「なっ有り得ません! 最初に申し上げたはず! 有史以来と!」


 気に触ったのか、彼女の白い顔がみるみる赤くなっていくのがわかりました。


「あぁこれは僕が確立させた手法なので、知らないのは当然です。技術というのは日進月歩。進歩でどの様にも変わっていくものなのです。では、皆さん。今から僕が持ってきたアイテムをお渡ししますね」


 僕は胸の谷間に指を突っ込み巾着袋袋を取り出す。


 男子の小さな歓声が湧き上がった。


「せ、先生また!」

「違います! 今のは不可抗力です! このドレスはポッケとかがないので仕方なくです!」


 気を取り直して紐を緩め、教卓の上に持ってきたニーニャさん作成の武具が教卓の上に次々と出現します。


「えっとじゃあ手渡しいたしますので一列に並んで頂けますか?」


 生徒の皆さんは最初と違い、素直に一列に並び、最初の生徒さんから武具を受け取りついでに握手して下さいと何故か頼まれたので言う通りにしたら、それが伝染してしまい全員分やる事に。

 最後は例のセクハラ少年でした。


「どうぞ」

「へっ隙あり!」


 彼は防具を受け取るふりをして、両手で僕の胸をわしづかみにしすぐに離しました。


「な、なんで布巻いてないんだよ!」

「あれすっごい蒸れるんですよね。苦手なので基本ノーヌノで過ごしています。えーハレンチですねぇこのこの。役得って奴ですかぁ」

「なんだこいつ……他人事みたいな態度とりやがって……。おっさんかよ!」


 そう言うと彼は顔をそむけ、くすんだ色の防具を取って自分の席に戻っていった。


 初めて他人にこの胸をわしづかみにされたけど結構痛いんだな。憶えておこう。


「失礼極まりない事をして申し訳ありません。後で叱っておきます」

「オメーは俺の母親かってんだよ!」

「お黙りなさい! あの、先生次はどうすればよろしいのでしょう?」

「では皆さん、僕の真似をして下さい。まず、2本指を立てます。親指以外ならどの指でも構いません。リビルドコードと声を発したら、空中に円を描きましょう」


 生徒の皆さんは口々にリビルドコードと発すると右手に緑に発光するリング状の魔法陣が次々出現しました。


「リングコマンドが出ましたか? 出たら元素変換をタップしましょう」


 武具がリングの中に吸い込まれていきます。


 僕はルーナさんの前に行き、彼女のリングを触る。


「ちょっと失礼しますね」

「え……えぇ」

「配った武具が消えましたね。今の状態を待機変換と言います。吸い込まれた武具はポイントとなっているはずです。あとはそのポイントを消費して素材、果物、武具まで好きなのを選んで頂ければすぐに錬金が始まります」


 彼女のリングコマンドをタップし幾つものコマンドが表示された。


「ルーナさん何か欲しい物はありますか?」

「そんなこと急に言われましても……困ってしまいますわ」

「好きな物はなんですか?」

「花でしょうか……」

「花ですかぁ、いいですね。じゃあ、このブルーローズにしましょう」


 ブルーローズをタップするとリングが回転を始め机の上に青い薔薇が1本出現しました。


「棘がありますから気を付けてくださいね」

「あ、ありがとうございます……」

「いいんですよ」


 僕は教卓に戻り、皆の様子を見守る。


「これが僕の知ってる錬金術です。錬金術は無から有を作る技術と言われています。錬金術は生活、ないし世の中を華やかにできます。用法用量を守って正しく使ってくださいね。これを覚えていると色んなことが可能になります。例えば――形状記憶モードを使えば、自分の持っている武器の形状を、イヤリングやネックレスなんかにもできますし、はたまた元素変換モードを使えば寒冷地で雪を炎に変えることだってできちゃいますよ!」


 どうやら皆問題なく出来ているようで何よりです。

 おっと、僕の胸をわしづかみにした少年がどんどん変換を続けています。


「先生! これおもしれぇな!」

「あの〜何やってるんですか?」

「変換したアイテムを別のアイテムに変換させると、ポイントが少しずつだけど増えるんだよ」

「変換した物をロンダリングしポイント稼ぎして……ハァッ! そうか!」


 僕は彼の手を握って手を振ります。


「な、なんだよ急に!」

「ありがとうございます! 貴方は天才です! おっぱい触ります?」

「触らねぇよ! もういいよ! 勘弁してくれ!」

「じゃあ、せめてお名前を」

「――バーンズ! バーンズ・ディルタ・アイゼン!」

「貴方の事は忘れません」


 鐘がなる音がどこからともなく聞こえてきました。


「あ、これで終わりですか?」


 僕は恩人から離れ教卓に戻ります。


 「今日だけですが、とっても面白かったです。今日は僕も学びました。僕は教師ではありませんが、貴方達の事は忘れません。僕はレイスの武具工房言う店で鍛冶師をやっています。もしよかったら寄ってください」


「もう帰ってしまいますの?」

「はい、名残惜しいです」


 ルーナさんのお腹から大きめの虫が鳴き出しました。


「嫌だ……その……今日は夏季休憩中の特別授業なので給食は出ないんです」

「まだ授業が?」

「いいえ、今日はこれでおしまいです」

「そうだ、僕がお昼御飯作りましょうか! 丁度貰った材料があるんで! ちょっと時間くださいね」


 僕は教卓を魔法でより横に長くする。

 人差し指を横に一閃し、開いた空間の中へ進入。中にはキッチン一式が備えられている。

 鍋に火を通し、魔法で新鮮な水を投入。次に戸棚からカレーのルーを放り投げ、次に巾着袋の中に入っている人参やりんご、じゃがいもを取り出しまな板と包丁で人参とじゃがいもを適当に切り、位置を調整。あとは両手の指の中指と親指をくっつける。これでコピーペーストが完了。包丁がひとりでに動き、特定の動作を繰り返す。


 木製のまな板を持ち鍋に投入、親指を立て回転させると鍋が一気に沸騰する。おたまを持ち軽く回転させ、トロトロに溶けたカレーをおたまにすくい口に運ぶ。


「んー、よし美味しい!」


 カレー皿を用意し更にリングコマンドを起動。食物の欄から湯気を発しているご飯を選択。皿ホカホカのご飯を盛り、鍋を動かしカレーをかける。


「よし、できた!」


 完成したカレーライスにスプーンを入れて皿を持ち、空間から抜け出す。


「いやーお待たせしました」

「そ、それは?」

「これはカレーライスです! 今から皆の分配りますね」


 完成したカレーライスを全員分コピペする。


「どうそ、召し上がれ」


 一呼吸おいて教室に歓声が湧き上がった。


「なんだこれ!? めちゃくちゃ美味い!」

「気に入ってくれてよかったです」


 どうやら僕の非常勤講師は成功したみたいです。


 カレーライスを食べ終わった後、食器を片付けた僕は教壇の前に立ち深々と10秒程、頭を下げ顔を上げた。


「今日は大変いい体験をさせて頂き本当にありがとうございました。僕の代行は今日限りですが、皆さんの事は忘れません」

「先生……先生の授業は受けられないんですの?」

「えぇ、恐らくは。でも、僕はお店でいつも暇してるので、もし通りかかった時は寄ってくださいね」


 僕は教壇を降り、出入り口へと歩を進める。


「待てよレイス先生!」


 振り向くとバーンズと先ほど名乗った恩人に呼び止められました。


「店の名前教えろよ」

「ハイ! レイスの武具工房。それが僕のお店の名です。では」


 僕は教室を出て、自分の店へと歩を進めるのでした。




 ◆◆◆


 学園長室にて、タバコを吸いながら椅子にふんぞり返るキルゼムとその横で涙を流しながら本棚に散らばった本を戻すアルの姿があった。


「酷いです! せっかくお母さんに会えるとおもっていたのにぃ〜! あ~〜〜! 無理やり動けなくさせるなんて〜〜〜!」

「えぇい、泣きながら本棚を整理するな! メソメソしよって! お前が出てきたら、あの時の私だとバレてしまうではないか!! それだけは防がなくてはならん!! 御大は全くもって隙がない。改めてそう思わされたわ」

「ビエ〜〜〜!!」

「うるさーい! いい加減に泣き止まないか! ……パフェを後で買ってやるから静かにしろ!」

「……ストロベリーソースとチョコソースがかかったパフェが食べたいです…グスッ」

「わかった。わかったから鼻水と涙をなんとかしろ。大切な本が汚れしまう」


 キルゼムはローブのポッケから、ハンカチを取り出し、アルの顔を優しく拭いた。


「さてと」

「ご主人様どこに行くんですか?」

「どこぞの泣き虫の為に買い物ヘ行く」

「私も一緒に行きます!」

「ニヘラ顔しおって……荷物はお前が持てよ」

「はい、勿論です!」


 キルゼムとアルは揃って部屋を出たのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る