第15話 なんか勇者養成学校ヘ行くみたいなんです
お店をニーニャさんに任せた僕は学校に向かって歩きだしました。勇者養成学校はここから市場を突っ切った先にあります。
市場を通る途中に、屋台の皆さんから挨拶がてら野菜やら果物を頂いてしまいました。人が行き交う中立ち止まり、胸にしまった巾着袋を取り出し紐を緩めると、腕に抱えた野菜と果物が勝手に吸い込まれていきます。
「よし、これで良いかな」
手ぶらになった僕は巾着袋の紐を締め直し胸に挟むと、再び行動を開始しそのまま市場を突っ切り、暫く道なりに歩き目的の建物が見えてきました。
目の前には非常に大きな鉄の門が口を開けています。僕はその門をくぐり大きな時計塔の側までやってきました。金でできた長針と銀でできた短針の豪華な時計が時を刻んでいます。
「へぇ〜これは中々に立派な造りだなぁ」
何気に勇者養成学校には初めて足を運んだので、新鮮で面白いです。
「あの〜もし? 我が学校に何か様でしょうか?」
声のした方を見ると、そこにはオレンジの長い髪に眼鏡かけたきちんとした身なりの女性が立っていました。長めのスカートに上半身の布製の服には、2本の剣が交差しその中心に杖が1本描かれたワッペンが左胸の辺りについています。
「あ、はじめまして~。病欠のリュムスさんの代わりにきました。レイスと言います」
「貴方様が学園長の仰っていたレイスさん!? どうぞこちらへ! 学園長室まで案内させていただきます!」
「え、そうなんですね。わざわざすみません。お願いします。僕ここに来たのこれが初なもので」
何故かもの凄く腰が低い先生のあとに続き、校内へといったがまさにマンモス校といった感じの外観だ。いくつもの教室が連なっているのがすぐにわかった。
「流石のスケールですねぇ」
「えぇ、勇者養成学校はこの王都にある建築物では王城に次いで大きな建物ですから。3階から順に3等生……2等生……1等生となっております。教師も世界中から選りすぐりの優秀な者達を連れてきております」
「へぇ~そうなんですね〜。先生もそうなのですか?」
「私ですか? じ、自慢ではありませんが戦争当時はある剣士隊の隊長をやっておりました。戦績はそこそこといった感じでしたが、巨大モンスターをこの手で屠ったこともあります」
「え、女性なのに凄いですねぇ。なんで教師になろうと決めたんですか?」
「自分でなろうと思った訳ではありません。魔王が封印され、この辺りのモンスターの数は著しく減少し、ある社会問題が間もなくして浮き彫りになったのです。確かに世界は一時的な平和を手にする事ができました。しかし、同時に目標を失ってしまったのです。魔王と言う共通の敵がいなくなった事で、剣神派と魔光派は再び犬猿の仲へと戻ってしました。闘争が1年程続いたある日、学園長であるキルゼムが自分のギルドを切り捨ててまで作ったのがこの勇者養成学校なのです。あの方は時代の波に取り残された私達を教師として採用してくれたのです!」
ははぁ、この人達にとっては校長先生は救世主も同じなんだなぁ。
「へぇ~っ立派な人なんですねぇ」
「私は教頭としてあの方を見守ってきました。貴女の名前を聞いた時のあの顔……あんな学園長の顔は初めて見ました。貴女様は一体何者なのですか?」
「僕ですか? 僕はただの鍛冶師です。あ、一応ですが錬金術も
「か、鍛冶師ぃ!? 高名な魔法使いとかではないんですか?」
「いいえ、違いますよ? 本当にただの鍛冶師です。あ、少し変わってる点もありますけど鍛冶師です。はい」
「か、鍛冶師……。あっこの先にあります大きな扉が学園長室です」
「あの、最後に気になったことがあるので聞いても?」
「なんでしょう?」
「何故
「それは……学園長が校長はなんかダサくって嫌だと仰ったです。彼女がそう呼べと言うのならそう呼びます」
大丈夫かなこの人。ちょっと色々とヤバそう。
「そうなんですか。合点がいきました。あとは1人で大丈夫です」
「いいえ、仰せつかったからには扉の前までいかせて頂きます」
「はぁ、左様で」
僕は彼女と共に一際大きな扉の前に止まった。
僕は扉をノックすると、中から女性の声が聞こえてきた。
「入りたまえ」
「失礼します」
部屋の中はかなり広々としているが、そこら中に本や羊皮紙が散乱している。そして何より奇妙なのが机の上にタワーの様に積まれた本の山でした。
あれ倒れてこないのかな……。そもそも読みたくなったらどうするんだろう?
「どうも、
「あ、どうもはじめまして」
僕の目の前にやってきた彼女の格好はこれ以上ないって位完全に魔女でした。紫のローブを着込み、眼鏡かけ、大きなトンガリ帽子を被っています。仮に名付けるならザ・テンプレートって具合には魔女な姿をしています。ソンナ彼女の見た目は学園長と言う割には若く見えました。
「当校へようこそ御出くださいました! 私はキルゼムと言います。以後、お見知りおきを。さ、早速参りましょうか」
「あのちょっとよろしいでしょうか?」
「な、なな何でしょう?」
「どこかでお会いしませんでした?」
「い、いいえ? 初対面だと思います」
「そうですか」
聞き覚えのある声だと一瞬思ったが、杞憂だったかな?
学園長が僕の前を通りドアへと向かった為、僕も追従し部屋をでた。そして何故か彼女は部屋に鍵を掛けた。
「用心の為です」
「なるほど。僕も施錠はちゃんと――」
部屋の中はから大きな物音が突然響き、ドアがドンドンと音を立て始めました。
「誰か中にいるんですか!?」
「いいえ、何もいません! 決して! 断じて! きっと机に積んでおいた本が崩れた音でしょう!」
「なるほど。直して差し上げましょうか?」
「い、いえいえそんな! あっもう授業が始まるまで幾ばくもない! さ、参りましょう!」
「は、はぁ……」
僕は学園長のあとに付いて長い廊下を歩き、突き当りまで行くと彼女は立ち止まり、ある教室ヘ入って行ったため追従する。
ぱっと見男女混合の日本と同じ様な雰囲気を感じる。
均等に並べられた木製の机。生徒さん達は剣を傍らに置く者もいれば杖を手入れしている者、こちらを見ている者、実にまばらだった。
「本日リュムス先生が病欠の為、急遽おいで頂いた非常勤講師代行のレイス先生だ。はい、拍手」
拍手もまばらでした。
「良いか? この方に比べたらお前らなんぞゾンビラットルの死骸も良いとこだ。天と地の差! お前等は幸運なんだぞ! では、私はこれで帰るので、あとは適当に教えといて下さればそれで結構ですので」
そういって学園長は足速に教室を去っていった。
えー、何その無駄にささくれ立つ紹介の仕方ァ! 間違いなく第1印象は最悪!!
「えーっと初めまして皆さん。ご紹介に預かりましたレイスです。今日はですね、皆さんと一緒に錬金術をやっていきたいと思います。短い間ですがよろしくお願いします」
こ、この空気! 空気が重い! 明らかにアウェー!
やるしかない! 僕の知識とこの女性特有の美貌! 全てを総動員しこの局面を覆してみせる!
こうして僕の非常勤講師代行の火蓋が切られたのでした。
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