第12話 なんかニーニャさんがウエブレ仕様の鍛冶を体験するみたいです

「じゃあ早速始めましょうか」

「窯に火をくべるんでしょ?」


 窯に近づく彼女の肩に手を置く。


「いえ、僕のやり方は違うんですよ。準備は宜しいですかぁ? まずはそうですね、さっそく頂いた素材を使いましょうか。ちなみにあのズタ袋には何が入ってるんですか?」

「えっと……確かソルベニア草の粉末。もう一つの方が色々な鉱石よ」

「ほう! ソルベニア草の粉末ですか。良さそうですねぇ。じゃそれを付与素材としましょう」

「な、何言ってるのよ! 粉末状の素材を付与させるには特殊な施設が必要だし、粉塵爆発起こす可能性だってあるのよ!? だめよこんな小さな窯を使っちゃ!」

「大丈夫ですよ。騙されたと思って窯の中に粉末を入れてみて下さい」


 彼女は恐る恐るズタ袋からエメラルドグリーン色に輝く粉を両手ですくい上げ、窯の中に置いた。


「よぉし、阿吽のお二人お願いします!」

「あうん? 誰の事――ッ!?」


 窯の口から色白の両手がズボッと出てきたかと思うとゆっくり阿形さんが出てきました。


『わーレイスお姉ちゃん久しぶりー! あ、知らない女の子だー! 阿形だよ! よろしくね!』

「痴、痴女だあああああ! 窯の中から痴女がでてきたあああ!」

『痴女じゃないよ。阿形だよー! 吽形ちゃん! おいでー! お仕事だよー!』

『……今行くー』


 今度は窯からスラリとした両足が出てきました。


『引っ張って……』

「ニーニャさんお願いします」

「あたしがやるの!?」

「僕の鍛冶には阿吽のお二人の協力が必要不可欠なので、お互いを知っておいたほうが後々良いんですよ」


 ニーニャさんが吽形さんのももを両手でしっかり掴み引っ張るとすっぽりと抜け出て来ました。


『……ありがとう。お姉ちゃん』

「良いのよ」


 吽形はすぐに立ち上がると阿形さんの隣へ陣取り、2人は互いの指を絡ませてニコニコ微笑んでいます。


「さぁ、いきますよ! クラフトコードスタート! じゃあ初心者向けで試してみましょうか。ニーニャがどんなゲームが得意なのかわからないのでとりあえず単純なの用意しますね!」


 目の前に液晶モニターが幾つも現れ、その中の1つを選択。


『どんなゲームを選択するのかなぁ? 楽しみだね吽形ちゃん!』

『うん……そうだね。阿形ちゃん。レイスお姉ちゃんお気に入りから……選ぶ? 自分で作る?』

「お気に入りからレースを選択。【チャリオッツ・ザ・スピード】で行きましょうか」


 周りの空間が宇宙空間へと切り替わり、また瞬時に周りの風景が変わりました。


 けたたましく鳴り響くラッパの音、僕たちは今黄金をあしらった白銀のチャリオッツに乗っています。目の前には一方は金の眼帯を着用した狼ともう一方金のひし形に尖ったイヤリングを耳に付けた2匹の巨大な狼が唸り声をあげながら前を見据えています。


「え……な……何? 工房は!? 窯はどこ行ったの? ここ何処ォ!?」

「ニーニャさん落ち着いてください。これが僕の鍛冶なんです。さ、手綱を握って」


 僕は彼女に革製の手綱を渡しました。ニーニャは相当混乱しているようです。周りをキョロキョロ見渡しています。


「私の知ってる鍛冶じゃなあああああい!!」

「さぁ頑張って! 20秒位リードしながら一周しないとこの鍛冶は失敗してしまいます。大丈夫、スタートしたら勝手に走りだします。ニーニャさんは手綱を操作し追い抜けばいいだけです」

「い、いきなりソンなコト言われたって戦車なんて乗ったことないんだから――」


 スタートの合図のラッパが鳴り響き、レースが開始されました。凄まじいスピードで戦車が動きだし相手を一気に抜き去りますが、そのまま真っ直ぐ走りだしアウト側のコースに擦る様な形になってしましました。


「手綱でコントロールするんですよ。左に引くと引いただけ戦車が傾きます。さぁ頑張って!」

「ヤダヤダヤダァ! レイスがやってよぉ!!」

「それは無理です。これはソロ限定の鍛冶なので僕は参加できません。あくまでプレイヤーはニーニャさんなんです。ちなみに遥か後方にいる相手も廻りの観客達も精密に再現されたNPCなのであしからず」

「意味わかんないー! 誰か助けてー!」

「うーん、ニーニャさんに時速100キロの世界は速すぎましたか。やめますか? ただリタイアすると素材は消費されたままになってしまいます」

「やめるやめるー!」

「わかりました」


 僕は人差し指と中指をピンと立て横に動かすと空間が真っ暗になり、いつもの作業場へと戻りました。


「し、死ぬかと思った……」

「じゃあ次はもっと単純な奴にしますね」

「ま、待ってまだやるの!?」

「まだ1つしかやっていません。まだまだいっぱいありますからね。期待していて下さい。あっそういえば良さそうなのがありましたよ。ちょっと待っててくださいね」


 僕は窯の中に素材を足し、再び現れた幾つもの画面の中から先程とは別のものを選択。


「よし、クラフトコードスタート! 【オークスレイヤー】」


 空間が切り替わり、ニーニャさんを中心に2つのラインが引かれました。今彼女の両手には赤と緑のナイフが握られています。


「宜しいですかニーニャさん。このオークスレイヤーは今手に持っているナイフと同じ色のオークが貴女に向かってやってきます。合致した色のナイフでオークを倒してください。今流れている曲にノリながらやればなんてことはありません」

「わかったやってみるわ。赤のナイフで赤のオークを攻撃すれば良いのね」

「その通りです!」


 ニーニャさんに向かってやってきたレッドオークはナイフで攻撃され消え去りました。


「上手! それを今流れてるサイケデリックな曲が終わるまで続けてください。大体3分位で終わりますから」


 そうしてニーニャさんはノーミスでこの鍛冶ゲームを終えることができました。


 空間が作業場へと戻り、僕は彼女の元へと向かいました。


「どうですか? 面白かったでしょう?」

「面白かったけど……私の目指す物とは全く違うものね。これレイスがいないと発動すらできないんでしょう?」

「いいえ、発動方法さえ知っていれば誰でもできますよ。そういう仕様なので」

「――頭痛くなってきたわ。そういえばクリアできたけど肝心の防具はどうなったの?」

「ラストは阿吽のお二人の仕事です。お願いします!」


『よーしやるよ吽形ちゃん!』

『うん、頑張ろうね……阿吽ちゃん』


 窯に金色の炎が勢いよく燃え上がり、出来上がった赤色のローブを窯から取り出し、作業台に乗せ最終処理のコードを施します。ローブ全体にミクロン単位の幾何学模様が一瞬のうちに印字されたのを確認し丁寧にたたみます。


「お疲れ様でした皆さん!」

『良かったねレイスお姉ちゃん! ニーニャお姉ちゃん!』

『綺麗なローブ……仕上がって良かったね……』

『じゃあねお姉ちゃん達バイバーイ!』


 2人は窯の中へと帰っていきました。


「ローブ見せて」

「どうぞこちらに」


 ニーニャさんががローブを広げマジマジと見つめています。


「意味わかんない……。あれだけでこれ程の物が作れてしまうなんて……」

「ねー、不思議ですよねぇ。ちなみにセオリー通りに作ろうが今回みたいに僕流儀で作ろうが僕が作っちゃうとさらに何か宿っちゃいますからねぇ。大変ですよ。属性まで勝手に備わっちゃうんですからぁ」

「え、例の装備品が喋りだすのと今回の奴は関係ないの?」

「そうなんですよ〜。もう大変なんですからぁ。今回はニーニャさんが作りましたから普通のローブですね。でも、初めてにしては上出来ですよ。普通にお店に出せるって素晴らしい」

「私……レイスの事もっと知りたいわ」

「じゃあ、休憩にしましょうか。ちょうど隅の階段を昇った2階が僕の居住スペースになってます」


 僕は階段まで歩いていき、そのまま階段を昇りはじめた。

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