第11話 なんか知り合いが沢山来店したみたいです

「おねーちゃんありがとー! またねー!」

「はーいまた来てねー!」


 ニコニコ笑顔で僕に手をふり扇子を掴みながら小さなお客さんが今し方店から出ていきました。扇子のおかげで前と比べ人が寄ってくれる様になったのは大変喜ばしいです。


『またガキか』


 漆黒のナイフからスサノオさんが姿を現し、長い白髪のあごひげを右手で弄りながら小さくため息を一つ。


「良いじゃないですかぁ。せっかく来てくれるんですからぁ」

『あのなぁ……お前知らないんだろうけどこの店巷で何て呼ばれてるか知ってるか?』

「さぁ? 何て呼ばれてるんですか?」

『【訓練場】だってよ! 店主は優しそうな女! おまけにタダで品物貰えるってんでお使いのシミュレーションにもってこいだってもっぱらの評判だぜ! 良かったなぁ!』

「なるほど〜、最近いやに小さなお子さんが来てくれると思いましたが、そういう事だったんですねぇ」


 スサノオが左足の下駄がズルっと上がりそのまま体制を崩しましたがすぐにカウンターに手を置き立て直しました。


「ここは保育園じゃねぇんだぞ!?」


 僕はスサノオの隣にいき、いつもの様にお気に入りの座椅子に座ります。


「スサノオさん良いですか。これは先行投資の一環ですよ。さっきのお客さんが大きくなって、勇者養成学校に入る歳になったら僕の事思い出してくれる事でしょう。そうなったら『あの時のお礼にいっちょ武器でも買ってやるか!』ってなる事でしょう」

『いい相性の奴が居なかったら?』

「――その時はその時です」

『……ハァ。ん? おいレイス結構な団体さんが来るみてぇだぜ。この魔力は嬢ちゃんだな』

「おっ遂に来ましたか!」


 前に3台の黒い馬車が止まり何やら物々しい雰囲気を外に感じます。店のドアが開かれ、ニーニャさんの他に幾人かの冒険者が大きなズタ袋を両手で抱えながら店内へ入ってきました。


「ひさしゅぶりね」


 先程の物々しい雰囲気が一瞬にして消え去るのがわかりました。ニーニャさんの顔が自身の髪と同じピンク色に染まっていきます。


「うっわ、お嬢さんあんなに馬車の中で練習してた台詞思いっきり噛んじゃったよ」

「ばっかムルウスかわいそうじゃないの! こういうのはスルーするのが普通なの!」


 ますますニーニャの顔がピンクに染まり、両手を握ったまま震えています。


「えっと……ニーニャさん大丈夫ですよ! ちゃんとニュアンスでわかりましたから!」

「なんて心の広い方なの。やっぱりレイスお姉様素敵……」

「あの時はお世話になりました! ムルウスです! これお届け物です!」


 大きなズタ袋が床に置かれ、男性と女性の姿があらわになった。


 男女はネズミに襲われていた冒険者でした。


 男性は茶褐色の短髪に額に切り傷がありオーソドックスな鉄製の甲冑に身を包み、長めの剣を携えています。長い事手入れを怠っているようで錆が目に付きました。

 女性の方はというと黒のくたびれたローブに長い三角帽子を被り青い縁が印象的な眼鏡を掛けています。十中八九魔術師でしょう。


「あーあの時のお二方ですか! ニーニャさんとはお知り合いで?」

「いえ、斡旋所の掲示板に貼ってあった仕事を受けたんですよ! 届け先がレイスの武具工房って書かれてたからこいつがもう有無を言わさず受注しちゃいましてね?」

「良いじゃない! せっかくレイスお姉様のお店の場所覚えらるし、あの時の恩返しもできる。それにあんただって張り切ってたじゃないの! 『あー早くレイスさんの御御足おみあしを拝見したいぜ〜』とかセクハラ全開だった癖に!」

「なっ!? ばっか! 言うんじゃねぇよ!」


 お二方は足の蹴り合い喧嘩を始めてしまいました。僕は彼らの真ん中に立って、両手を双方の肩に手を置き何とか宥めようと努めます。


「この脚フェチの変態!」

「な、俺は変態じゃない! これは崇高な趣味だ!」

「落ち着いて下さい。僕気にしてませんから〜」

「ちょっと……わ、私を無視するなあああああああ!」


 ニーニャさんの怒号がお店に響き渡りました。


 しまった! これから暫く一緒に働く仲間なのに僕はなんて愚かなんだ!


「ニーニャさん申し訳ございません!」

「早く運びなさい! 報酬渡さないわよ! レイスもどこに素材置けば良いのか言って!」

「「今すぐ運びます!」」

「えっと、カウンター裏の扉の向こうが工房となっております! とりあえず空いてる場所に置いて貰えますか?」

「「了解!」」


 僕はカウンター裏へ移動し扉を開け工房に入っていき、作業台の前へとお二方を案内しました。


 作業台の上になかなか大きなズタ袋が2つ置かれ、すぐにこの場から退散していきました。


 僕も工房から出て店内へ踵を返します。


「ご苦労様。報酬の10000アイゼルよ」

「「アザース!」」


 お二方は欣喜雀躍きんきじゃくやくといった様子でさっきまでいがみ合っていたのに手を取り合って喜びをわかち合っています。


「ニーニャさん、ありがとうございました! レイスさん、じゃ俺達はこれで!」


 店から出ていこうとするお二人を見て、頭の電球に光が灯りました。


「あいや暫く! お二人お待ち下さい! もしよろしければお二人の防具、私とニーニャさんに新しく作らせて頂けませんか!」


 お二人が一斉にこちらを振り向き、僕以外の全員が驚愕の表情を浮かべています。


「え、いいんですか!?」

「レイスお姉様が私達の防具を!?」

「ななな、何急に言い出してんのぉぉぉ!?」

「ハイ、品質は保証致します!」

「ちょっと待ちなさい!? あんな規模の工房じゃ無理よ! それに私もやるの!? そ、それに料金はどうするのよ!?」

「先程の10000アイゼルで二人分如何ですか!」

「1人5000アイゼルで俺達の防具を作って頂けるんですか!?」

「えぇ、その通りです!」

「レイスお姉様に作って頂けるなんて光栄の極みです! 是非お願いします!」


 アルリンさんが僕の手を握り、上下にスイングしてきます。


「じゃあ、4日後また来てください。お代はその時で結構ですので」


 そうして、アルリンさんとムルウスさんは店からニコニコ笑顔のまま退店していき、僕と顔面蒼白になったニーニャさんの2人だけになりました。


「ど、どどどどうすんのよおおお!!?! あんな大見得を切って何考えてんのおおおおお!? たった4日でどうやって甲冑一式とローブ作るってのおおおおお!?!!?」

「大丈夫ですよぉ。何とかなりますって。じゃあ行きましょうか」


 僕は彼女の手を取りカウンター裏へ歩を進める。


「大丈夫ってどこが!? 今の技術じゃあどう転んでも無理よ!」


 僕は扉に手を掛け、騒ぎ立てる彼女を見下ろしウインクをかまします。


「大丈夫ですよ。の技術を使えばね。さぁ一緒にレッツ、ウエポンブレイズ!」

「意味わかんないー!」


 僕はかのを引き連れ、工房へと向かうのでした。

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