第9話 なんか、お頭さんとお茶するみたいです
2階にあるバーへとパルカティーアさんに連れられてきました。中は広々としており老若男女、別け隔てなく色々な種族性別の人達がお酒を片手に語らい合っています。
彼女は空いてる席へ腰を下ろすと、人差し指を向かいの席へ向けて催促してきました。
「ほら、向かいに座って」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「マスターミルクティー2つ! あたしはいつものサイズで!」
「あいよ」
いつもので通じる辺り流石常連って感じだなぁ。
「でさ、レイス話なんだけど――」
「はい」
「お前さんの谷間に埋まってるその例のアレワタシにも売ってくれないか?」
「あ、パルカティーアさんも扇子欲しいんですか? いいですよ。タダで差し上げます」
「お前さんね、そんなホイホイあげちゃっていいのか? 商売人だろう? たたでさえ同業者ハーケネン商会に押されちまってて影に隠れてるって現状なのに」
「いや〜確かにそうなんですけど、僕の作る物って全部相性があるんですよ。だからこの扇子みたいに汎用性に富んだ物は今回が初めてなんです。ここぞと言う時に宣伝しておけば、お客さんいっぱい来てくれるんじゃないかなぁって。あ、ミルクティー来ましたよ」
筋骨隆々の大きな左手で巨大なビールジョッキを持ち、もう片方の手には普通のコップを持ったマスターが現れました。
「なんだ、やっぱり
「うっさい筋肉男。それよりジョッキ渡しなさい」
「はいよ。頭はジョッキ。嬢ちゃんはノーマルのミルクティーお待ち!」
ダンッ! という音と共に向かいの彼女の顔がミルクティーの入ったジョッキで見えなくなりました。かたやこちらは至って普通のコップに注がれたミルクティーが眼前に置かれ、彼はニヤつきながらカウンターへと戻っていきます。
飲めるのだろうか? あのジョッキはどう見ても小柄な彼女のお腹に収まる様な量には見えない。
パルカティーアさんは両手でジョッキを掴むと一気に
「プハーッ! やっぱこれだね!」
「す、凄い……」
「ん? なんだ、全然飲んでないじゃないか。奢りだから遠慮なく飲んでくれて良いんだぞ?」
「え、アッハイ、いただきます」
飲んでみると紅茶とミルクの完璧な調和。素晴らしいバランスで成り立っています。こんな美味しいミルクティーには初めて出会いました。
「どうだ? ここのミルクティーは最高だろう?」
「はい、凄く美味しいです!」
「あの筋肉バカが作ってるんだぞ? 信じられないよな」
パルカティーアさんはジョッキを持ち、口の周りを汚しながらケタケタと笑っています。
「頭がっつり聞こえてるぜー。元
「へぇー、マスターって元剣闘士だったんですか」
「ウプププ、そうなんだよ。人殺すのに飽きてバーのマスターやるって何さ。あー、おかしい」
「元エルフの里の全族長を束ねていたハイエルフ様に言われたくねぇなぁ」
「フン、古い話を持ち出しおって。お前さんのオシメ替えてやった事を昨日の様に思い出せるわ」
「うわ、てめぇふざけんな! いつの話してんだ!」
バーの全体が笑い声に包まれました。
「仲良いですねぇ」
「まぁ私はこの街の親代わりみたいなもんだしね。で、時に聖剣の鍛冶師様の近状はどうだい?」
「なんの事だかさっぱり〜」
「チッ上手くはぐらかされたか。勢いで行けばあんたの過去聞けると思ったのに」
「僕はただのしがない鍛冶師ですよ」
「まぁ話したくない過去は誰にでもあるもんだからね。悪かったね無理やり連れてきて。代金は立て替えとく」
「え、ほんとにいいんですか」
「もちろんだ」
「じゃあこれ」
僕はコピペで扇子を顕現させ、彼女に手渡しました。
「悪いね。立場上宣伝とかはできないけど。大切にするよ」
ミルクティーを一気に飲み干し、バーの皆さんに別れを告げ、階段を降りセントラルを出ました。
「さて、お店が心配ですしちゃっちゃと帰っちゃいますか」
来た道を真っ直ぐ戻り、店の前には今まで見たこともない様な長蛇の列ができていました。
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