第7話 なんか嵐の様な女性が来店されたみたいなんです
『おめでとう! 今回もとっても上手くできたね! 吽形ちゃん!』
『うん……うん……良かったね阿形ちゃん。また用ができたら呼んね……? レイスお姉ちゃん……』
「お疲れ様でした阿吽のお二人。ゆっくり休んでくださいね」
僕がそう言うと二人は釜の中へと戻っていった。
『ここは?』
「どうもはじめまして、私はレイス。これから末永くお願いしますねー」
『貴女は……わかる。私は貴女から生まれた』
「貴女の依り代の防具と君の名前を教えてもらえますか?」
『防具は【ブラッディシュノロス】そして、私の名はラチー。サキュバスのラチーです。お母様』
ラチーは気恥ずかしいそうに目を逸らすと、顔をピンクに染めながらブラッディシュノロスの中へと消えていった。
「よし! 試着してみましょうか」
僕は件の防具を手に取り、紐を緩めいつも着ている服の上から着てみることにした。
紐を緩めた瞬間、ブラッディシュノロスはまるで寄生されたエイリアンの如くひとりでに後ろの留め具が外れ、とんでもない勢いで躰に張り付いた。
「うぐッ!? いててててて!? こ、これは一体!? キツすぎる!?」
張り付いた真紅のコルセットは僕の胸を物凄い勢いで締め付け始めた。
「ちょっとラチーさん! これ何なんですか!?」
『何って? それ力の1つですが?』
「こ、このあり得ない締め付けが能力の1つ!?かかし君の動きがいつもより鈍かったのは、この驚異的な締め付けのせいだったんですか……」
一瞬立ちくらみがし、僕はカウンターに手をかける。
「――やばい、意識が飛びかけた……。イミテーションコード発動! バックドア生成!!」
僕の手から1と0の数字の羅列が現れコルセットの後ろに突き抜けたかと思うと、一本の長い紐が形作られた。
僕がその紐を力いっぱい引くと防具は僕から外れ床に落ちた。
胸の強烈な圧迫感から開放された僕は落ちた防具を拾い上げ、カウンターに置いた。
「まいりましたねぇ、まさかこのような能力とは……。見た目はかっこいいし、防御面では店にある防具で最強と言っても過言ではないんですが……」
『私はだめな娘なの??』
「あのーもしもしぃ?」
サキュバスのラチーさんは悲しそうな表情を僕の方に向けてきます。
「まさか! そんなわけないじゃないですか! 少し特殊なだけですよ、大丈夫です。きっといい主がみつかりますよ」
「うん。わかった」
「わかったわ! 放置プレイね! やるじゃない? 店に入ってきたお客を完全無視とかグッジョブ!」
「うわあああああああ! す、すいません!」
いつの間にか、僕の隣には綺麗な女性が立っていました。
水色の髪をなびかせ、キョトンとした表情で僕を見つめています。
「あら、もう放置プレイは終わりなのぉ?」
「申し訳ありません。よ、ようこそレイスの武具工房へ!」
「貴女が店主さん?」
「はい! そうです! 何をお求めでしょう?」
「へぇ、そう……。貴女とっても綺麗ね? 彼氏とかいるのぉ?」
「か、彼氏ですか!? い、いえ、そういう事にはあまり興味がなくて……。あの……ち、近いんですが」
お客さんは顔をどんどん僕の方に近づけてきます。
僕は今カウンターに背を向けているので、お客さんが近づくほど仰け反る形になり、
そのままカウンターの後ろの方へダイビングしてしまいました。
「いたたたた。全く今日はよく痛い目に遭う日だなぁ。え? まさか! そんなことが――ってええええええ!!」
「大丈夫ですかぁ? あら、とても綺麗なコルセットですねぇ。丁度いいわぁ。私防具を買いに来たのぉ」
僕にはこの店に訪れたお客さんと僕が自作した作品達の
「この防具と相性がいい人がこんなにも早く現れるなんて――。で、でもこの防具は……」
「どうかしたのぉ? 何か不都合でも?」
カウンターの裏へ入ってきたお客さんが僕に手を差し伸べて下さいました。
「ありがとうございます」
お客さんの手を握り立ち上がろうと力を込めたその時、僕の力が強すぎたのかお客さんの体制が崩れ、僕にかぶさってしまいました。
「しょえ! すいません!」
「いいのよぉ? 貴女やっぱり可愛い顔してるわねぇ。おっぱいも私と同じ位大きいし、腰もすごく細くていいわぁ」
お客さんは僕の髪を片手で撫でるように触ってきました。
「あ、あの! 防具の事なんですが!」
「一度立ちましょうか。ごめんなさいねぇ? つい、手が滑ってしまって。ほら、お立ちになって」
先に立ち上がったお客さんは再び僕の手をつかみ、僕は今度こそ立ち上がる。
「いえ、こちらこそ。えっと、実はまだ調整中でして! どうしようかなと!」
「調整中とは?」
「えっと、何と言ったらいいか。う~ん、でも相性最高なんだよなぁ。この防具はかなり変わった防具なんですよ」
「へぇ、そうなの。試着って可能ですかぁ?」
「も、もちろんできますけど……」
「では、さっそく」
「あ」
お客さんがブラッディシュノロスを手に取った瞬間、客さんの躰に纏わり付きだしました。
「んほおおおおおおおおおお!! しゅごいのおおおおおおおお!! な、ななななななにこれええぇぇえぇぇええ!? ひぎいいいいいいいいぃぃ!! たか、高みに昇――、あれ?」
僕はブラッディシュノロスの後ろに垂れ下がっている紐を掴み、思いっきり引っ張りました。
するとブラッディシュノロスはお客さんの躰から簡単に外れました。
顔を真っ赤に紅潮させたお客さんにすぐにかけより、肩に手を掛け一緒に立ち上がりました。
「お客さん大丈夫ですか!?」
「何で取っちゃうの!? 私がマゾだからって焦らしプレイしたの!? 中々やるじゃない! 貴女の防具最ッ高!! 今まで生きてきた中で一番の快楽! 絶対買います!」
僕はこの時全てを理解した。
確かにこの人ならば、ブラッディシュノロスを扱うにこれとない逸材だろう。
「失礼ですが、お客さんは……どういったお仕事を?」
「私はお城で近衛兵の隊長をやってるのぉ。私結構偉いんですよぉ」
「へぇ、そうなんですか。大変そうですね」
「え、楽しいわよ? 組手をするんだけどね? 黙って組み合ってれば殴ってもらえるし、蹴ってもらえるし、投げ飛ばしてもらえるのよ! ハァ、余りに気持ちよかったもので興奮してしまいました。お幾らでしょう?」
「値段まだ決めてなかった……。そうですね、5000アイゼルでお譲りしますよ」
「わかったわ。ハァイ、どうぞ」
僕は銀貨5枚を受け取りました。
「あ、袋に詰めなくって良いわよぉ? 城に帰ったら、すぐに着るから。今日はとっても有意義な午後が過ごせたわぁ。ありがとうレイスさん」
「いえ、どういたしまし――むぐっ!?」
彼女は僕の唇に接吻をしたかと思うと、ブラッディシュノロスを小脇に抱えて僕から距離を取り、にんまりとした笑顔でスキップしながら店から退出していきました。
その様子はまさに
「まるで嵐の化身の様な女性だった……。あ、バックドアの事伝えてない」
『いや、あの女にはいらんだろ。どう考えても』
腕組みをしたスサノオさんと共に、僕はお客さんが出ていった半開きになったドアをただ呆然と眺めていました。
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