第6話 なんか新しい装備作れそうです

 僕は自分の店に戻ると、直ぐ様カウンター裏の奥にある工房へとこもる。

 目の前には、レンガ作りの巨大な窯が口を開けている。

 リュックサック地面に置き取ってきた真っ白に輝く鉱石を両手で取り出します。落とさない様に細心の注意を払いながら窯の中へと置く。


「――良し、さてやりますか。阿吽のお二人! 手伝って頂けますか?」


 僕が窯に向かって声を上げると窯の口から白ビキニにデニムのショートパンツを履いた犬耳の女性が2人這い出てきました。


『レ……レイスお姉ちゃんが新しい鉱石を持ってきたみたいだね……阿形ちゃん……』

『そうね! そうね! 吽形うんぎょうちゃん! とってもとっても硬そうだよ! 防具かな? 武器かな? 何ができるか楽しみだね!』

『う……うん、阿吽のこ……呼吸でお手伝いしようね……』


 彼女達はこの窯に宿っている神様です。

 黒髪のショートカットで右目に金の眼帯を付けた元気な子が阿形あぎょうちゃんと言い、同じく黒髪ショートカットに左耳にダイアモンドのピアスを付けている大人しい子が吽形ちゃんです。


「では、錬成を始めたいと思うんですが、その前に今回の防具で行こうと思います」

『良いんじゃないかな! この鉱石すっごく硬いの! 吽形ちゃんもそう思うでしょ?』

『いい……すごく良い……カチカチなの良い……』

「では、生産に移ります! 阿吽のお二人、仕上げはお願いします! クラフトコードスタート!」


 僕が今から行う生産方法は前世でやっていたWEAPON BLAZE ONLINEでの方法です。


 "最も簡素に、最も奥深く生産を。"というキャッチコピーを掲げたウエブレでの【生産】とは、普通の生産ではなく、【ゲームの形態そのもの】を用いるというまさに奇想天外と言ってもいい代物です。


 1言で言ってしまえば、【生産】を行う度に現れる【別ゲー】をクリアすればいいと言う事。

 生産物をクラフトコードという特殊な数列に変換し、鍛冶師が読み込む事で現れる【作成される装備や武器等を装備したモンスターと戦い、その能力や本質を理解する事】で僕の鍛冶師としての仕事が完遂します。


 コードは生産職の人間のみが使える特殊スキルで、数列を自由に変えることでそのゲーム内容を自分好みに変えることが可能です。

 僕は性能を引き出す事と、見た目を確認する事が出来る【デュエル】を好んで選んでいます。

 主に使われているのは生産そのものを司り、別のゲームとして変換するクラフト、既存の生産物に新たな仕様を追加するイミテーション、1から作り直すデコード等の3つです。これ以外にもコードには沢山の種類があり、とても奥が深く中毒性が高いのが特徴です。


 閑話休題。


 僕が声を張り上げると空間に0と1の赤色の数字が現れ、周りの景色が一瞬で崩れ去り宇宙空間に僕はいました。


 目の前には真っ赤なコルセットの様な胸部アーマーを装着した人の形を模したモンスターが木刀を構えています。

 顔や手足には特にこれといった特徴はなく、ただ単に人の姿を最低限模しただけ。この空間で必ず戦う事になる、彼の名はかかし君といい、所謂いわゆるサンドバッグの役目を仰せつかる、彼こそこのデュエルでの重要なファクターです。


「いつもの様にテストと行きましょう! かかし君行きますよ!」


 僕はインベントリを呼び出し、幾つもある小さな白いボックスからその1つをタップすると、手に炎を纏ったハンマーが現れました。直ぐ様掴み取り、そのままかかし君の懐に飛び込むと胸にハンマーを振り下ろします。


 アーマーに当たったハンマーは凄まじい火花を散らしますが、いとも容易く弾かれました。

 かかし君はどこか鈍い動きで僕に向かって剣を突き出してきます。


「なるほど。オークのハンマーを弾き返す硬さですか……。おまけに炎の追加ダメージも特に無いようですね。では、これなら!」


 僕はバックステップで距離を取り、ハンマーを顔面部分にめがけて投げつけました。


 炎を纏い、丸い軌跡を描きながらハンマーはモンスターののっぺらぼうな顔面にクリーンヒットした。――様に見えました。

 ハンマーが顔面に当たる瞬間、モンスターの顔面部分には胸部アーマーと同じく赤く硬いアーマーでガードされました。

 見た目は拷問器具のアイアンメイデンのそれに酷似している様な気がしました。


「なんとぉ! それがその胸部アーマーの能力!? 全身を瞬時に胸部と同じ外骨格に包まれる! それがその胸部アーマーの能力!」


 僕がそう言うと構えをとっていたかかし君は満足げに頷き、周りの宇宙空間が崩れ去ると同時に崩れ去り、周囲の景色は工房へと戻っていきました。

 窯の中には煤けた色をした例のアーマーが入っています。


「よし、阿吽のお二人出番です!」

『いくよ! 吽形ちゃん!』

『うん……!』


 2人が窯に向かって手を翳すと黄金の炎が窯の中で勢い良く燃え上がる。


『出来たね!』

『うん……。カチカチのスベスベだね……』


 2人がクスクス笑っていると黄金の火は消え去りったので、僕はアーマーを釜から取り出し隣にある木で出来た作業台へ置き、最終処理であるコードを全体に施しました。


 1ミクロンにも満たない小さな文字が胸部アーマーへと刻むと虹色の光が工房全体を包みました。虹色の光は1つに収束すると胸部アーマーの中へと入っていきました。


「ふぃ~、ありがとうございました。阿吽のお二人のお陰でまた素晴らしい装備ができたみたいです。よろしくお願いします。新入りさん」


 胸部アーマーの隣には血の様に赤い躰も持ち、髪は銀色のロングストレート、頭に羊の様な角を生やした妖艶な雰囲気を持つ女性が立っていました。

 新入りの悪魔さんは緑の眼で真っすぐ僕の方を見つめていました。

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