閑話 ソレイユと剣魔対抗試合と謎の少女★

 勇者養成学校の庭にて、決戦方式による練習試合が行われていた。

 今この試合は剣魔対抗試合と呼称され、剣と魔法どちらが優位なのかを決める、1種のエンターテイメントである。が、ここ最近有り様に異変・・が生じていた。


 というのも、ある日を境に凄まじい強さを誇る剣使いの勇者候補生が現れたのだ。彼の台頭により剣神派の勢力は大きく前進し、勢力図を一気にひっくり返す大騒動となったのだ。


 魔光派の者達にとっての前衛職とは、『剣士など、ただ剣を振るう事しか出来ない阿呆の集り』『ウドの大木で魔法職の壁役』この程度の認識でしかなかった。


 ――ソレイユという名の少年の剣魔対抗試合を見るまでは――。


 彼が剣を振るい、橙黄色とうおうしょくの軌跡を描く時、剣先から燃ゆる炎が吹き出し、相手の魔術師に張られたバリアを一瞬の内に粉砕したのだ。

 その1幕を見ていた生徒が皆、剣神派の事務局の門を叩いき、あわや、騒然とし事務局はあっと言う間にパンク状態となった。


 そして今日この日、ソレイユが剣魔対抗試合を行うという情報はすぐさま伝わり、皆固唾を飲んで成り行きを見守る中、火蓋は切って落とされんとしていた。


「――それでは只今から、デュエルを開始する。躰を覆っているバリアが破壊された者、もしくは所持している武器が破壊された者はその場で負けとする。では、両者前へ」


「はい」


 ソレイユは紫の髪を靡かせ、紅い魔法剣をさやから抜くと正面に構えをとる。

 方や、相対するは黒いローブを着た魔術師が木で出来た杖を向け、グチグチ言いながら、苦虫を噛み潰したかの様な表情していた。


「何なんだよ……。何で剣から炎が出てくるんだよ……! そんなのあり得るか……! 俺達、魔光派こそが――」

「ぶつぶつ喋ってると舌噛むんじゃない?」

「何ッ!?」


 魔術師が愚痴るのに気を取られている内に、ソレイユは懐に飛び込み、ヘルズフレイムによる斬撃は瞬く間にバリアを破壊。薄緑色のバリアーが粉々に砕け散った。


「勝負あり! 勝者、ソレイユ!」


 審判役の教官が左手を上げると、耳を劈く程の声援が庭に鳴り響く。


「何故……? ど、どうやって!? お前と俺は2メートルは離れていた筈!?」


 ソレイユは魔術師の耳元に顔を近づけると、静かに耳打ちした。


「僕はね? 蜃気楼を操る事が出来るんだ。君が見据えていた僕は幻だったのさ」

「なん……だって……?」


 魔術師は地面にヘタり込んでそのまま動かなくなった。


『良い太刀筋だったぞ。ソレイユ』

「イフリートさん! ありがとうございます!」

『呼び捨てで良いつってるのに、相変わらず律儀な奴だな、お前は。飯食いに行こうぜ』

「これでイフリートの姿が見える様になりますかね!?」

『まだまだだな! もっと強くなって、俺を使いこなせる様になればそん時がくるかもなぁ?』

「よ〜し! 頑張るぞー!」


 ソレイユは皆の声援を背中で聞きながら食堂へと向かった。


 そんなソレイユとヘルズフレイムを2階の教室から、彼と同じく上下紺色の学生服に躰を包み、ピンク色の髪にショートカットの少女が睨みつけるかの様に観察していた。


「あの剣、間違いない。あそこにあった剣だわ。今度こそ……フフフッ」


 少女はニヤリと笑うと、教室から出ていった

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