第4話 なんか厄介な人が来店されたみたいなんです

 ――僕はお気に入り椅子に座り、カウンターに突っ伏している。

 午後4時、勇者養成学校の候補生達が一斉に下校、帰宅する時間帯。

 そう、一日で最も暇になる時間だ。


「あぁ~、最近朝方にお客さんが来てくれるから、『何だろう……風吹いてきてる。――確実に、僕の方に――』って思っていたのに~」

『まぁ、この時間帯は仕方ねぇさ。この店は武器防具しか売ってねぇし、学校の外れにあるからな』

「もぉ~、スサノオさん! 他人事みたいに言わないでください! 割りとマジで困ってるんですよ! それにアクセサリーも一応売ってます!」


 僕がそう嫌味を言った瞬間、不意に出入り口のカランカラン……という音と共にドアが開いた。

 ――今まさに、来客を告げる副音ふくいんが鳴ったのである。


「フォッ!? お客さんキタコレ!? いらっしゃいま――」

『レイス! 客は客でも奴っ子やっこさんだ! 中に突っ込んでくるぞ!』

「――ま、まさか彼女が!?」


 ドアがこれでもかと言うくらい乱暴に開かれると小さな人影が店内に侵入し、姿はすぐに見えなくなってしまった。


「あ、あれ? 今確かに……」

『カウンターの死角にいる。来るぞ……』


 僕が身を乗り出しカウンター前を見た瞬間、人影が目の前に現れた。

 手には一振りのナイフが握られており、僕めがけて振り下ろしてきた。


「盗っ人レイス覚悟ッー!!」


 僕は矢継ぎ早にナイフの刃を真剣白刃取りの様に両手で受け止めた。


「誰が盗っ人ですか!? 人聞きの悪い事言わないでください! ニーニャさん! ナイフしまって下さい!」

「今日こそはレイスの秘密を暴いてやるんだから! うちの武具の方が優れてるんだからぁ!」

「僕に秘密なんてありません! もういい加減にして下さい! このナイフへし折りますよ!」

「やれるもんならやってみなさいよ! 私の自作ナイフ48号の刃はスティーン石をふんだんに使ってるんだから!」

「スティーン石? ああ、あの無駄に堅い石ですか。でも、あれって――」


 僕は両手を左へ持っていき、そのまま捻るようにして下方向に力を入れると、ぽっきりナイフの刃は折れてしまった。


「――ッ!?」

「ご覧の様にスティーン石はですね。強度自体は強いんですが、捻るようにして外から力が加わると簡単に砕けてしまうんですね。ですから、ナイフよりも陶器なんかに使うと良いと思いますよ?」


 ピンク色の髪を乱し、肩で息をしている彼女こそニーニャ・ルイツ・ハーケネン、ここ王都を本部としている巨大複合店【ハーケネン商会】のお嬢様です。

 ハーケネン商会は前世で言う、チェーン店の様な経営方針で動いており、どの街にも店が立っています。

 出来るだけ安く、出来るだけ高品質を社訓として掲げているらしく庶民からの信頼が厚いというのが特徴です。

 僕は何故か彼女に目の敵にされており、たまに現れてはちょっかいを掛けてくるという厄介な関係にあったりします。


「貴女! ある少年に変な武器渡したでしょ!? 製造方法教えなさいよ!」

「変な武器? うちは真っ当な武具しか売ってませんよ?」

「ムキーッ! 絶対絶対見たもん! 前にこの店で! オレンジに刀身が光るブロードソードを!」

「ブロードソード? あぁ~、彼のことかな? 確かにブロードソードをお譲りしましたよ。彼はその後どういった感じですか?」

「連戦連勝中よ!」

「それは重畳ちょうじょうの至」


 僕は腕組しうんうん頷く。


「お! か! げ! で! うちのブロードソードの売れ行きが好調よ!」

「あっ、そうなんですか? それはよかったです」

「良くなああああい! 店に変な質問が沢山寄せられる様になって対応で今大変なんだから! 『この剣は発光しないの?』とか、『煙は出ないの?』とか『二人に分裂しないの?』とか!」

「あ~、そんな事になってるんですか。で、何の話でしたっけ?」

「だ! か! ら! あの剣の製造方法を教えなさいよ! どうせうちのブロードソードの設計図盗んで独自に改造したんでしょ!?」


 ニーニャさんは私を指差しながら地団駄を踏んでいる。


「あ~、申し訳ないですけど違いますし、製造方法を教えることは出来かねます。というか仮に教えたとして、まず同じものは作れないと思います」

「なんでよ!? 一度作れるんなら量産出来る筈でしょ!?」

「僕が作る武器は特別・・でして、一度作ると必ず大きな変異が生じるんですよ。これは僕の意思ではどうにもならないんです。ニーニャさんはレシピを欲してますが、僕が作って売ったブロードソードは、あくまで普通・・のブロードソードなんですよ」

「嘘だッ! そんな訳ないじゃない! じゃ、私に武器作ってよ!」

「……今は無理っぽいです」

「はぁ!?」

「これも何ていうか……言いづらいんですけど、私はお客さんの目を見ると今のその人に相応しい武器がなんとなくピンとくるんですよ。ニーニャさんにはそれが起きませんね。ですから武器を作って差し上げる事は出来かねます。あっ、でも欲しい武器があるならお売りしますよ! 今店にある武器や防具アクセサリー、好きなの選んで下さい」

「ぐぬぬ……、こ……これ頂戴」


 ニーニャさんが選んだのはカウンターに立てかけてあった、紅い丸みを帯びた宝石が付いている銀のネックレスでした。


「良いですよ! そちらのネックレスは10000アイゼルになります! エターナルホープって名前が付いてます。大切にしてくださいね」

「袋に入れなくていいわ! すぐ……付けるから」


 僕が金貨を一枚受け取るとニーニャさんはネックレスを受け取り首に掛ける。


「べ、別にネックレスが欲しいから寄ったんじゃないんだから! 勘違いしないでよね!」

「とてもお似合いですよ」


 ニーニャさんはネックレスに付いている宝石と同じ位顔を真っ赤にし、僕から距離を取った。


「今日は用事思い出したから帰るわ! 次こそ覚悟しなさい! このおっぱいおばけ!」


 彼女は僕に捨て台詞を吐くと、高揚した顔のまま店から出ていった。


「あ、ネックレスの効果説明しようと思ったのに。まぁ、いいか」

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