閑話 勇者候補生ソレイユと魔法剣と教官ルベル

 僕の名はソレイユ。勇者候補生になって1年になる。今は僕は養成学校の広場にある空き地で一心不乱に剣を振り続ける。

 というのも、昨晩トイレから戻るとこの剣が僕に語りかけてきたのだ。


「あ〜、寒い寒い!」


 寒さから起きてしまった僕はトイレから戻ると布団へダイブする。


『おい、ボウズ? 平気か?』

「――ッ!? だ、誰!? まさか魔光まこう派の人!? 寝込みを襲うなんて卑怯だぞ!」

『何言ってんだ? こっちだよ。お前が壁に立てかけた俺が喋ってんだ』

「ひぃ! 剣が! 剣が喋った!」

『心外だな。寒そうだったから暖めてやろうと思ったのによ。まぁ、ビビるのは致し方なしか。俺はこの剣に宿る精霊イフリートだ。よろしくな』

「精霊!? やっぱりレイスさんは聖剣の鍛冶師だったんだ! 凄い! よろしく!」


 僕は剣の前に行きお辞儀をした。


『おい、お前は姉御が選んだ俺のマスターだぞ? 挨拶なんて適当で良いんだよ適当で。良いか、俺がお前をこの学校で1番の剣の名手にしてやるからな! よし、俺を鞘に収めたまま抱いて寝てみな? ぬくいぜ?』


 僕はイフリートに言われるがまま剣を抱いて朝を迎えた。躰がホカホカだったのを覚えている。早朝になり素振りをしているところだ。面白い事に振るたびに刀身がオレンジ色に鈍く光り、その度に躰が暖かくなるのを感じる。


「性が出るね。真面目はいい事だよ」


 不意に声をかけられ、僕は素振りをしている手を止めて声のした方向を見る。

 そこには眼鏡を掛け、白髪頭に緑のローブを着込んだ背の高い男性が立っていた。左の胸には銀の剣のアクセサリーが付いている。あれは教官の証だ。僕は剣を鞘に収め、そのまま姿勢を正す。


「いや、すまない。楽にしてもらって結構だ。君は? 上下紺色と言う事は1年だね。君の素振りしていた剣見せてもらっても?」

「勿論です。どうぞ」


 僕は教官にヘルズフレイムを手渡す。

 さやから刀を抜き、刀身をまじまじと見つめ、ぶつぶつと喋りだした。


「これは……刀身にエルサレア文字が刻まれているのか? ドワーフでも刀身に直接文字を刻むなど、到底不可能だろう。恐ろしい技術力だな。神の技巧と言ってもいい。このパターンは火? 主? 駄目だ文字が余りに細かく書かれていて解読できない」

「あ、あの……」

「あ! いや、これは失敬。つい夢中になってしまった。時に聞くが、君は剣神けんじん派かね? すまないね、君の剣の刀身が変わった色をしているのが気になってね」

「はい、魔法よりは剣のほうが好きです」

「そうか、私は剣も魔法も同じ様に大切な要素だと思っている。まぁ、物事というのは難しいものだからな。自分の信じた道を征くといい」


 この世には2つの派閥がある。戦士職こそが最強と信じて疑わない剣神派。かたや、魔法職こそこの世を制するにふさわしいと同じく信じて疑わない魔光派。この2つの派閥は世界全土に広がっており、度々どちらが強いかで争いがおきている。この勇者養成学校でもそれは同じ事だ。


「時に教えてくれないか? この剣は一体どこで手に入れたんだい?」

「レイスの武具工房という武器屋です。そこで店主から勧められました」

「そうか、ありがとう。私の名はルベル。君、名前は?」

「ソレイユと言います。ルベル教官」

「ソレイユ君、その剣は大切にしたまえ。あと1時間程で開始のベルが鳴るぞ。遅れない様に行くといい」


 そう言ってルベル教官は朝靄の中に消えていった。

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