第2話 なんか閑古鳥鳴いてますけど久々のお客さんみたいなんです

 ――転生してから10年の月日が経った。

 そりゃ色々な事がありましたが……びっくりしたのが、何故か僕の作る武器や防具『喋る』んです。もっと正確に言うのならば宿っているんです。神だろうが悪魔だろうが僕の作成する物体には何かが宿る。

 あとこの異世界サイラーンへ来てから変わったのが、僕女の子になっていました。金髪はプラチナブロンドに色合いが変わりストレートのロングヘアになり、声も完全に女の子の様になり男の象徴であるあれ・・はなくなり、代わりとばかりに大きめの胸が生えています。最初は死ぬほど困惑しましたが、今ではもう気にもとめていません。慣れって恐ろしいですね。

 今はクレイシア王国にお店を開きました。レイスの武具工房という武具店の主人をやっています。

 今は朝の時間帯なのでお客は来ません。というか月1で出入り口のドアが開いたらいい方です。それなりに毎日お客さんが1人か2人毎日来てくれれば、僕はそれだけで満足なのですが現実は厳しいです。暇なのでカウンターにある回転式の椅子に座って暇を潰しています。


『なぁ、おいレイス』

「暇ですねぇ」

『朝だからな!』

「誰かお客さん来ないかなぁ」

『椅子の回転を止めろ! 無視すんな!』

「何ですか? スサノオさん? さっき刀身研いであげたでしょ?」

『ボケ爺扱いすんな!』


 今喋っているのはカウンター左端に飾ってある黒刃こくはのダガーナイフに宿っているスサノオというお爺さんだ。彼は長い白髪の仙人の様な出で立ちをしている。どうみてもお爺さんなのだが、彼は年寄り扱いされるのがすこぶる嫌らしい。


 転生前に習得した筈の異能は全てなくなっており、今覚えているのは神憑かみがかりというへんちくりんな異能のみ。どうやら僕の異能は知らない内にこの異能に統合されてしまったらしいのです。

 毎日とっても騒がしいです。まぁ、誰かが喋りだすと他の武具達は黙ってくれるのでそこは有り難いですけどね。


『レイス客が来るぜ? あの魔力だとガキだな。大方、勇者候補生の生徒だろうぜ』

「お客さん!? キタキタキター!」


 店の木製のドアが開き、紫色の髪をした黄色い目をした少年が入ってきました。上下紺色の服に剣の形をしたアクセサリーを左胸につけています。あれは王都にある勇者を養成する学校の生徒さんの証です。


 何でも4年前魔王が復活しかけたとかで大騒ぎになり、対策の為に作ったのが勇者養成学校で、その生徒達が勇者候補生です。今現在も突如としてモンスターが各地で現れたりして大変らしいですよ。


「あの〜、すいません。武器が欲しいのですが」

「あ、いや、すいません。ぼーっとしちゃって! どの様な武器がお好みでしょうか?」

「初心者向きの武器をお願いします」

「――初心者向きですか? ブロードソードなんか良いと思いますよ。まずはこれからって位にはスタンダードな武器です。ご予算はどの程度でしょうか?」

「5000アイゼル位です」

「なるほどなるほど、少々お待ち下さい」


 僕は店に飾ってある武器の中から紅いさやに金色のつかのブロードソードを持つとカウンターの前へと持っていく。


「こちらなどいかがでしょう? 4000アイゼルでお譲り致しますよ!」

「あ、あの! 噂を聞いたんです! 初代勇者に伝説の聖剣を作った鍛冶師がこの王都に居るって! それってお姉さんの事なんですよね!?」


 少年の眼は爛々と輝いている。まるでヒーローを夢見る少年のそれだ。


「さぁ? 僕はしがない武具店の主人ですよー。それ以上でもそれ以下でもありません。どうしますか? 炎の精霊イフリートが宿った魔法剣ヘルズフレイムをお買上げになられますか?」

「魔法剣!? じゃ、じゃあやっぱり貴女が!?」

「何の事だかわかりませんねー」

「買います! 買わせてください!」

「まいどありー」


 銀貨4枚を受け取り、少年に剣を手渡す。


「ありがとうございます! 聖剣の鍛冶師さん! 僕頑張ります!」


 僕は少年に対し手を振ると彼はヘルズフレイムを抱えるようにして外へ出ていった。


『今まで世話になったな姉御』

「姉御って呼ばれるの未だに慣れませんね。彼をサポートして上げてくださいね。イフリート」


 人間の形を模した火の塊が僕の前に現れ、一言言うと煙とともに姿がかき消えた。


「いやー若いっていい事ですねぇ」

『レイスお前さ』

「はい、なんでしょう?」

『嘘つくの下手過ぎ』


 今日は朝から久々にお客さんに巡り会えたので良い日になりそうです。

 僕は朝日の様に眩しい表情の少年の顔を脳裏に浮かべながら、椅子を椅子に座り回転を再び始めるのだった。


『無視かよ』

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