第9話

 ハルキは彼専用の銃、〈オーシャン・スチール〉を取り出しジェイスに狙いを定める。


 ジェイスは抵抗する様子もなく、ただ立ち尽くしている。


 引き金を引く数瞬前、ニッタとシャロンがジェイスの前に立つ。


「だめっ!」

「だめっす!」


 ハルキは魔銃の引き金から指を外し、改めて三人の前でため息をつく。


「あのな、お嬢様はわかるけどよ、お前は何をやってんだよ!」


「撃つならオレも撃ってください」


「なんでお前がそうなっちゃうんだよ、だいたいそれはお嬢様のセリフだろうがっ!」


「いや、そうなんすけど。オレ、一週間二人と一緒にいて、うまく言えないすけど、お嬢様にはジェイスが必要なんすよ」


「ニッタ様の言う通りなの。わたしにはジェイスが必要なのです。でないと、でないとまた。ああああ!」


 シャロンが突然大声をあげ倒れかけ、ジェイスがシャロンを抱きとめると、静かに地面に寝かしつける。


 そして、自らハルキの前に立ち右手を胸に当てる。

 無言でハルキは頷くとオーシャン・スチールの引き金を引く。


「ハルキさんっ!」


 ニッタが叫ぶが間に合わない。


 ズキューン!


 という音と共にハルキの持つ魔銃から閃光が走り、それと同時にジェイスの額の真ん中に大きな穴が空く。


 一瞬の間があり、ドサッという音がしてジェイスが崩れ落ちる。


 それを見たニッタは目を丸くし、慌てて駆け寄り、頭を撃ち抜かれたジェイスを見て絶句する。


 ハルキは倒れたジェイスを見下ろしながら呟くように話す。


「ニッタ。イレイスはしないといけねえんだよ。たとえどんな理由があろうとな」

 ハルキはそう呟くとニッタの側に近づいていく。



 すると、ジェイスの仮面から糸が伸びニッタに身体に近づいていく。

 ニッタはその光景を見ながら膝を落とす。


 ニッタの顔からは表情が完全に消えていた。



「終わったか?」


「はい」


「ジェイスはなんだって?」


「ごめんなさいって。シャロンお嬢様に伝えてほしいって」


「そっか。そうだな」


 ニッタは目に涙を浮かべている。


 二人はしばらく黙り込む。


 沈黙を破ったのはハルキだった。


「おい、じいさん! いんだろ! 隠れてねえで出て来い! 終わったぞ! んでまあ、そう言うわけだ、後は頼んだぜ!」



 物陰から数名の住民が現れる。

 その中にはあの残骸の発見現場を案内した老人も含まれていた。


「お前さん方、それでいいのか?」


「ああ、俺たちはイレイサーだ。イレイスした後の事はしったこっちゃねえな」


「ふんっ! 悪態をつきおって。すまんな、ここからはわしら住民がシャロンお嬢様を見守っていくよ。すまん、本当にありがとう」

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