第5話

「うーん。なんもねえなあ」


 目の前に魔獣の残骸が大量に散乱している。


「魔石は帝国軍が持って行っちまったって言うし、ま、なんもないわなあ」


「だから言ったろう。もう何も残ってはおらんと」


「まあそう言うなよ、じいさん。こっちも仕事で来てんだ、なんもないならないでかまわねえんだけどよ、全く調査しなかったってわけにゃいかねえだろ?」


「ふんっ! 帝国から視察が来るというから出張ったらイレイサーだとはの」


「ま、仕方ねえだろ。んで? この残骸が見つかってなんか変わったことはねえのか?」


「ないのお。こいつが見つかり、あっという間に帝国軍が現れ魔石を持っていった。それだけじゃ」


「そっか。わりいなじいさん、付き合わせちまってよ」


「まあ仕方あるまいて。さて、わしはそろそろ帰らせてもらおうかの」


「ああ、ありがとよ。そういやあ町じゃお貴族様の幽霊が出るって噂らしいじゃねえか」


「ふん。ありゃあ幽霊なぞではないぞ」


「ん? なんか知ってんのか?」


「夜ごと出歩いておるのは元王国ガルヴィス伯爵家のお嬢様じゃよ」


「ん? 伯爵家だ? ほんとにお貴族様なのかよ。てか、お嬢様? わかんねえな、なんでそのお嬢様が夜ごと町を歩いてんだ?」


「理由があるんじゃよ、それにはな。去年、ガルヴィス家に強盗が押し入ってな、お嬢様だけを残して一家は全員殺された」


「なっ?! まじかよ。んでも、強盗つっても相手は伯爵家だろ? そんな簡単に忍び込めたとは思えねえが」


「ガルヴィス家はな、本当に素晴らしい貴族様だった。旧王国貴族が解体された後も、この地はガルヴィス家のものじゃ。それは領民皆が思っておる。たとえ帝国がこの地を支配下に置いておると言われてもな」


「ああ、まあその辺はよくわかんねえけど、そういうもんなのかもな」


「伯爵様は質素倹約に慎ましく生活されておったよ。そして、それが仇になった」


「今の話だと、殺ったのは現在この地を統治している帝国の奴ら、ってことか? さすがにそれはねえだろ、自分より人気がある元貴族を恨んでってか?」


「ふんっ。その証拠にそいつらは殺されておろうが。誰がやったのかは知らんがあいつらはいつも何かにつけ伯爵様ご一家を目の敵にしておったのじゃよ」


「おい、じいさん。そいつは」


「まあ、よそ者のあんたにゃ関係ない話じゃ。ほおっておいてくれんかの」


「いや、まあそうっちゃそうなんだけどよ、俺の相棒がそっちの情報を聞き込んでるからよ」


「なんだとっ?! これじゃからイレイサーというやつは! わしからはもう何も話せん。とっとと帰ってくれ!」


 怒りのこもった言葉を残し、案内のじいさんはそそくさと帰っていった。


「あー、こりゃ行くなあ。絶対直接会いに行くよなあ。あー、めんどくせえなあ」

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