第3話
「しっかし遠いっすねえ、バインランド。帝都からジェリカまで行って、そっから徒歩で六時間って」
「仕方ねえだろ、ぐちぐち言うな!」
「へーーーい。でもハルキさん」
「ん? なんだ?」
「バイランドって旧王国領っすよね?」
「ああ、そうだな」
「ヤバくないんすか? そんなとこ行って」
「まあしゃあねえだろ。何百年か前の魔獣大襲撃のあと、旧王国ではすさまじい内戦があったっていう昔話だしな。んで、そん時の魔物の残骸に憑き<モノ>って話なら俺たちが行くしかねえだろ?」
「まあそうなんすけどね。んでもこれ、迷ってないすか?」
「ん? え?! そうなの?」
「たぶん」
「だってお前、こっちか? って聞いたらそうすね。ほんとにこっちか? って聞いたらそうすね、って答えてたろ?」
「オレだって初めて来たんですもん、そりゃあわかんないすよ」
「お前、ほんといいかげんにしろよ!」
「ま、いつか着くっすよ。今回は久しぶりに出張なんでワクワクが止まらないす」
「そんなに簡単な仕事じゃねえんだぞ、気合入れてけ! んで、お前はなんでそんな恰好なんだ?」
「え? だってハルキさんが今回は旧王国だあって言うから」
「いや言ったけどよ。なんでそんな妙な白い服を着てんだよ」
「だって旧王国は今、帝国の領地になってますけど、旧王国の影響は色濃く残ってて、長く続いた貴族制度がいまだに根強いんだってミヤモトミヤさんが言ってましたよ。だから、旧王国の人ってなんかこう貴族みたいな恰好をしてんじゃないかなあって思ったんすよ」
「そりゃお前、影響があるのは旧王国でも中心部あたりの話だろ? 今から行くのは辺境も辺境、バインランドだぞ。ま、それこそ魔獣大襲撃まではそれなりの規模だったらしいけどよ。んなとこに元貴族なんていねえよ。しかも一般の住民まで貴族みたいな格好してるわけねえだろ? んで、俺たちはそもそも元お貴族様なんかに会う予定もねえだろうが」
「そっかあ、なーんか残念すね。できればお貴族様にも会いたかったすねえ。いないっすかねえ? お貴族様」
「そんなのいるわけねえだろ。んで? どっちに行きゃあいいんだ?」
「さあ? どっちでしょうねえ?」
「おい、ニッタ」
「はい、なんすか? はい」
「ちょっと喉が渇いた。ジュース買ってきて」
「え? ここ、山道ですよ?」
「ああ、そうだな。んじゃオレはいつものな。十秒で。はい十! 九! 八!」
「はーーーーーい!!」
「さて、本当に道に迷っちまったみてえだなあ。んー、どうすっかなあ。ま、とりあえずニッタがジュース買って戻るまで、待機だな、待機」
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