中二病の俺たちは……

夕日ゆうや

世界を変えたくて……

 中二病。

 それは思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄した言葉である。

 この世界には実際に学校を襲うテロリストや悪の秘密結社などない。断じてない。

 この二人が出会うまで――。

「俺はシグナート・ブラット。この世界の陰で暗躍するもの」

「はい。ということで谷山たにやま秋斗あきとくんはあの席に座ってください」

 先生が冷たくあしらうと、俺は空いている席に座る。

「運命の出会いね。シグナート。わたしはハート&ダーク。よろしくね」

 隣の席の少女が話しかけてきた。

 腕には包帯、オッドアイ、手袋。

 その口調、格好。すべてにおいて大正解だ。

「何やつ?」

「失礼。この世界では加藤かとう愛理あいり。貴殿の活躍を見届けるわ」

 これは楽しみである。

 俺と同じ中二病がいるとは。


 お昼になると、弁当を広げるハート&ダーク。

「うげ」

 隣の席で見えるのだが、その目線の先には悪魔の赤い実トマトがある。

 なるほど。

「うまそうな悪魔の実だな」

 俺はひょいっとつまみ、口に運ぶ俺。

「わぁああああ――!」

 嬉しそうに俺を見やるハート&ダーク。

 尊敬の眼差しとでも言うべきか。

「代わりにこれをやろう」

 俺はタコさんウインナーを差し出す。

「おお! 等価交換という奴だな。わたしはこの世のことわりを理解するものなり」

 そう言ってタコさんウインナーを口に運ぶハート&ダーク。


 食事を追えて、昼休みも長い。

 学校の中央、中庭に来ていた。市立図書館で借りてきた本を読む。

 中二病にとっての勉強だ。難しい漢字を知っているものこそが、中二病に選ばれる。

 最高の中二病になるにはその力を得る必要がある。

「ふ。シグナートもそうして力を得ているのね」

「ハート&ダークか。何しにきた」

「いいじゃない。別に」

 隣に座り、ぼーっと空を眺めるハート&ダーク。

 俺たちは中二病と呼ばれ、みんなから蔑まれていた。友達はいない。

 でも、俺たちには中二病になった理由がある。

 この世界を変えてくれるもの。

 この不条理な世界を変えるだけの力がある――。

 それが中二病だ。

 俺が、俺の手でこの世界を変える。

 この狂った世界を。


 俺は母と妹のために――。

 ハート&ダークは未来を作るために――。


 ――この世界を変える――。

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