第5話

  黒いスーツケース


 しばらく座って体力を回復させた。もし天気が良かったら、結構な景色ではあった。天気が良くなくても、それなりに美しいと思う。分厚く黒に近い色の雲はいつでも雨を降らしそうに構えているようであった。その分厚い雲の隙間を抜けて光が漏れていた。その光の一つを目で追ってみると砂浜に視線が行き着いた。自分が最初目覚めた砂浜かもしれない。別の光も目で追ってみた。その光の筋は何か得体の知れない黒い四角のケースをさしていた。明らかに自然の中にあるものではない人が作った形態のものである。気づいた時には体はその黒い物体に向けて走り出していた。転んで大怪我などしてはいけない事など知っている。しかし、ゆっくり降りていく事なんて今はできない。動かせる最大のスピードで今は走るしかない。気づいたらもうそこに着いていた。黒い物体の正体はカバンであった。誰かの物なのか定かではない。


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