〖第二話 ご主人様の好きな本だから〗


ある家の本棚にはちょっとした仕掛けがある


本棚の横には〖たて〗 〖よこ〗と書かれている二つの数字キーボードが貼られている


猫はご主人様から命令されると、キーボード

の〖たて 〗 と〖よこ〗に指定された数字のキーを肉球でぷにょっと押す


すると、押された数字の棚の本が落ちてくるので猫はそれを背中で受け止める


受け止めたらご主人様の元へ戻れば仕事完了


これがこの家での猫に与えられた仕事の一部であった


〖第二話 ご主人様の好きな本だから〗


「よ〜しよし……後でご褒美あげるからね」

猫はご主人様に頭を撫でられて嬉しそうだ


「どう?便利でしょ。猫と私の信頼関係があってこそのって感じ!」

「はぁ」


今日はご主人様の家に人間がもう一人来ていた。この人間はご主人様によれば"友達"と言う名前と"ミカロス"と言う名前があるらしい


「でも出した本はどうすんの?どう考えても

猫には戻せなそうだけど」


この家には大きな本棚がいくつもある。中には家主の背丈を大きく越す物もあり、猫がジャンプ力高いとは言え届きそうに無かった


「え?自分で戻すよ。一週間に一回だけど」

「相変わらずね……あんた」


部屋の隅には積まれた本の山が幾つもあった

ホコリ塗れになってる物もあれば、隠すように布がかかっている物もある様だ


ごくりっ(コップの飲み物を飲み干した音)


「あーシーラント、これ新しいのお願い」

「ちょ、猫を呼んでまさかあんた」


シーラントと家主が名付けている猫は真っ白な毛並みの左目が赤で右目が黄色のオッドアイが特徴的な猫であった


「お盆とコップを背中に置いてっと……これでよし」

「よしじゃないわよ。絶対失敗するって」


━━2分後


戻ってきたシーラントの背中には青い液体が半分ぐらい注がれたコップが乗っている


「えらいぞシーラントって……シーラントは今さらか」

「嘘でしょマジか」


ミカロスは世の中を舐めていた事を改めて感じた


「シーラントはうちの子の中でずば抜けて器用だからねぇ。簡単な料理も作れるよ目玉焼きとか」

「ひっ……」


ミカロスは猫が目玉焼きを焼いている姿を想像してみた……のだが!

全く分からない、猫がどうやって卵を割って火をつけて目玉焼きを焼くんだ!?


「み、ミカロス大丈夫?顔色悪いよ!」

「大丈夫……ちょっと世の中が分からなくなっただけ」

「え〜」


ミカルスは考えては無駄だと自分に暗示をかけた。かけすぎて目の前が歪んでしまうぐらいに


「ユグドラシルさーん!!!お荷物!」


その時、玄関から声が聞こえた


「軽いのですか?重いのですか?」

「軽いのでーす!」

「はいはい、ちょいお待ちを」


家主は手をこまねいて、二匹の猫を呼び寄せた


「グロスだけで大丈夫だとは思うけど一応タラスもお願いしとくね。じゃ任せた」


二匹の猫は「にゃあ」と鳴いて、玄関に歩いて行った


「まさか宅配便まで猫に持ってこさせてる

の?」

「あたり」

「全く……」


━━━しばらくして


「お、おかえり。やっぱグロスだけで大丈夫だったか。ちょい悪かったねタラス」

「にゃ」


一匹の黒猫が背中に小包を乗せて戻って来た


家主はそれをひょいと取り、ぽいっとテーブルに向かって投げた


「ちょっと荷物の扱いが雑じゃない?」

「いいの、中身は丈夫だし」


コップの飲み物を一口、含むと家主はまた

本を読み始めた


「ねぇちょっと本棚見てもいい?」

「いーよ」


寝転がって本を読む家主から離れ、ミカロスは隣の部屋の本棚へと歩いた


本棚には沢山の本が並べられている。物理学

天文学 動物学 言語学 特級魔法学……どれもミカロスにはちっとも読む気が起きない本ばかりだ


「ねーあんたこの本読んで頭痛くならない?」

「えーむしろわくわくするよ」

「うへぁ」


ミカロスは頭があまり良くない、魔法も理論より感覚を頼りにする流派である。反対に家主であるユグドラシルは理論を重視する流派であった


「ていうかあんたの一番好きな本ってこの中のどれよ」

「んーその中には無い。持ってくる?」

「そうねぇ」

「んじゃ持ってきてもらおっと。ちょっと

待っててね〜」


家主はまた猫を呼び寄せて、いつも読んでる本を客人に持ってくるように伝えた。すぐに

猫は部屋の本棚に向かう


しばらくして、ミカロスの足元を何かがぶつかった感覚があった


見れば、そこには背中に一冊の本を乗せた

猫がいた


「ああ、ありがとね。これがユグドラシルの

いつも読んでる本ねぇ」


ミカロスは猫から本を取ると、ぱらぱらと

中身を読んでみた


「えっ……これって」

「どうだった?中々面白いでしょ、最近のお気に入り何だけど」

「お気に入りってあんた」


ぱたんと本を閉じると、すぐにミカロスはユグドラシルの側へ走った


「これ……官能小説なんだけど。どういうこと?」

「ええ?!」


家主思わず読んでいた本を床に落としてしまった!そしてすぐにミカロスから本を奪った


「あ……ほんとだ」

「あんたまだいやらしい本集めるの辞めて無かったの!あんなに約束したのに」

「これはその……で、この本は何色の猫が持ってきた?」

「白色だったよ。オッドアイの」

「し、シーラント?!マジか」


名前を呼ばれたと思ったのかシーラントは

またしてもご主人様の傍に戻ってきた


「……ってシーラントが戻ってきた。あのね

シーラント私のベットの下から本を持ってきちゃダメなの」

「にゃ?」

「私が好きな本でもダメ、特にこの本は」

「にゃー」

「でもいつもそれを読むとご主人様が嬉しそうな顔するから?確かに嬉しそうな顔はするけどね……時と場合ってもんが」

「にゃ!!」

「あ、ちょっと!待ちなさいシーラント」


猫は怒りながらたったったとどこかへ走って行った


「ベットの下って……中学生かあんたは」

「だってどうせ寝る前に読むんだし」

「とにかく!これはお師匠様に報告しとくからね。またえっちな本読んでましたって」

「ひゃ!お師匠様はやめてよぉ」

「にゃ」


またしても猫が来た。今度は灰色のペルシャ猫だ


「あら?また本を持ってきたわ。えっとこれは……」


ミカロスがまた本の中身を確認してみた。どうやら世界各国のお菓子が写真と共に紹介されているらしい内容だった


「た、タラス……私あなたには頼んで無いけど」

「にゃ!」

「なにぃ?シーラントが持ってけって?!あの野郎オヤツ抜きにしてやる!」

「ふふ……」


「ねぇユグドラシル、このお菓子とか綺麗で不思議な色じゃない?」

「あ、それサクエルって言うやつ!前に食べた事あるけどすごい美味しいよ!」

「へー……他におすすめのお菓子とかある?」

「んっとね、他には……」


結局、一日お菓子の話で終わった二人だった


おわり












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