第71話 水の都 3 釣り そして帰宅
翌朝、俺とダリアは他の客と同じ服を着てホムラとミズチを部屋にあげる。
彼女達も俺達と同じ服を着ていた。
軽く挨拶をしてホムラが俺達の姿を見てポツリと呟く。
「
「浴衣? 」
「そうだな。大和
「加えるのなら日常的には着ませんが。しかしお姉様の浴衣姿も
「ちょ、こらミズチ。離れろ」
「良いじゃないですか。精霊同士楽しみましょう! 」
朝から騒々しい二人に苦笑いしながらも窓を開ける。
するとふわりと優しい風が入って来た。
「気持ちのいい風ですね」
「ああそうだ……? 」
ダリアの方を見るとその後ろでミズチとホムラが誰もいない空間に話掛けていた。
なんだ?
ミズチならともかくホムラもか?
「精霊、でしょうか? 」
「精霊? 」
俺が見ている方をダリアが向いて呟く。
聞き返すと軽く頷いた。
「精霊の気配を感じましたので」
「それで二人は何か
納得しながら席に着く。
悪だくみじゃないと良いんだが、と思いながらも顔を向ける。
すると大きく笑うホムラと胸を張るミズチがいた。
「一体何の話をしていることやら」
「ご
「「「!!! 」」」
ホムラ達が喋っている時に従業員の声が聞こえるから。
しかし答えないわけにはいかない。
「これからでも大丈夫ですか? 」
「大丈夫でございます」
との事なので早速食事を運んでもらうことにした。
気を抜くとこれだ。
やはり注意しないとな。
そう思っている間に全員が席に着く。
気まずそうにするホムラと何も感じてない風のミズチを前にしながら少し待つ。
すると良い匂いと共に食事がやって来た。
「朝はスープか」
「あとパンですね」
他にも色とりどりの野菜が調理されている。
朝は軽い物、ということか。
漂ってくる良い匂いにそそられて、お腹を「ぐぅ」と鳴らしてしまった。
少し恥ずかしくなりながらもチラリとダリアを見ると「くすっ」と口に手をやっている。
可愛らしい
「さ。食べよう」
そして俺達は食事をした。
★
食事を終えた俺達は食器を片付けてもらった。
一度服を着替えるということでホムラ達と別れて着替える準備をする。
「このまま出れないのがもったいないですね」
「確かに。浴衣を着たダリアは綺麗だったからな」
「どこかに売っていないでしょうか? 」
「売っているとは思うが……、買う程ではないだろう」
「私の浴衣姿を毎日
「見たいが……、また来ればいい」
ダリアの顔がポッと赤くなる。
今まで
今まで積極的だった分突然の事に弱いようで、まだ動いていない。
俺の着替えが終わる頃なってやっと動き出した。
「終わりました」
「じゃぁ行こうか」
荷物を手にして部屋を出る。
廊下を少し行くとホムラとミズチに会った。
「こっちは終わったぞ」
「私達もだ」
手ぶらの二人に声かけ歩く。
朝から威圧感バリバリのミズチを軽く流しながらも受付に向かう。
「お世話になりました」
そう言いながら鍵を返す。
そして俺達は町に出た。
★
町の中心部から少し移動する。
すると木々が俺達を迎えて綺麗な緑が広がる。
「お客さん多そうですね」
ダリアが行きかう人を見てそう言った。
確かに多そうだ。
ホムラの話だと
しかし通常は
よって行うとすれば余程腕に自信があり、そして
「お。ついたみたいだな」
流れていく人達について行くと何か焼ける匂いがする。
しかし火事のような木が焼ける臭いではなく、食欲そそる良い匂いだ。
「ぐぅ……」
「「「......」」」
「さ、進もう」
朝食べたというのに俺のお腹が鳴ってしまった。
皆苦笑いを浮かべているが仕方ないじゃないか。美味しそうな匂いなんだから。
「いらっしゃいませ。本日は初めてでしょうか? 」
猫獣人の店員が聞いて来る。
初めてでやり方がわからないと伝えると説明してくれた。
そして他の店員と交代し
「まずこうして餌をつけてください」
実演を交えて教えてくれる。
店員の向こう側では俺達と同じように説明を受けている人が見える。
皆四苦八苦しているようだ。
しかし俺は意外とすんなりと
逆に困っているのがダリアだった。
「虫は苦手ではないのですが」
「手伝おうか? 」
「いえ。やります。一人でやります! 」
そう言いながらも
ダリアは目を
同時に軽く息を吐き再挑戦しようとしている。
しかし手がまた震えている。
「怪我してないか? 」
「大丈夫です」
どうやらかなり集中しているようだ。
ダリアはあまり細かい事が得意ではなかった気がする。
チラリと店員を見ると笑顔で返された。
微笑ましいと思われているのだろう。
しかしこのままだと
「ダリア。共同作業というのは知ってるか? 」
「ええ。ほぼ毎日しておりますので」
そっと店員が顔を
意味違う!!!
「じゃなくてだな。
彼女の肩に手をやりながら言う。
「俺が針に餌をつけるからダリアは
「しかし……」
「もちろん俺も釣りを楽しむさ。だけどこのままダリアが釣りを楽しめないのは俺も悲しいし」
少し戸惑いながら針と餌を渡してくる。
サクッとつけて店員の指導の元俺達は竿を振った。
絶対に精霊が
★
魚が焼ける良い匂いがする。
「旅館の刺身? も良かったがこれも美味しいな」
魚を頬張り皆に言った。
「これはこれで
「味わったことのない美味しさだ」
「……これを人間が考えたとは。腹ただしい」
ミズチは毒を吐きながらも人より多く、焼かれ
精霊にとって「味」と言うのは
彼女達
彼女達はこれからも様々な事を学ぶだろう。
そんな気がしてならないが、一先ずは今ある楽しみを
自分達で釣った魚をパクパク食べる。
食べ終え、一休憩した頃、俺達はリリの村に帰るための馬車に乗った。
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