第六十四話 おっさん、王都を出る

「じゃぁな、おっちゃん! 」

「ああ。トーナも元気でな」


 早朝、王都の入り口でオレ達はトーナに見送られていた。

 ブルルとうなる馬を横にして手を振り元気いっぱいな様子を見てほっとする。


「おっちゃん! 一仕事終えたら今度帰るからな! 」

「あぁ。お前の大人になった姿を村の人達に見せつけてやれ」

「すぐに強襲きょうしゅうしてこなくなったトーナを見て皆驚くでしょうね」

「もうオレは二十二だぞ?! そんなことするか! 」


 確かに、と笑いながらもオレ達も手を振る。


「トーナ殿。今度会う時は王都の冒険者について教えてくれ」

「任せろ! 」


 ホムラが別れの挨拶をしてトーナも答える。

 それぞれが挨拶を終えると馬車を出し、オレ達は王都を去った。


 ★

 

「帰ったらまずは報告ですね! 」

「あ、あぁ……」


 元気な顔を近づけながらそう言うダリア。


「村の皆に報告しないとな」

「式はどうしましょう? 」

「エリック助祭の所だろ」


 そうですね、と笑みを浮かべてダリアは席に戻った。


 しかし……。村の皆に報告か。めでたい事ではあるのだが反応が予想できる。

 ま、こうなるまでオレが答えを出さなかったのが悪いのだが。


「家はどうしましょう? 」

「どっちの家に住むか、か」


 それを聞き少し悩む。

 ダリアの家に住むことになれば冒険者ギルドや村の中心に近くなる。

 しかしオレの家に住むことになれば遠くなる代わりに小屋を始め、訓練場に野菜を育てるための土地がある。

 どちらとも利点と欠点があるため答えを出しづらいな。


「……保留ほりゅうかな。帰ってから考えよう」

「そうですね」


 オレとダリアが話しているとホムラが口を開いた。


「ならば私もこれ以上厄介になるわけにはいかないな」


 少しさみしそうな顔をしてホムラが言う。


「良い機会じゃないですか。これを機に帰りましょう」


 そしてここぞと言わんばかりにミズチが提案した。

 それにホムラが悩む素振りをして考えている。


「私はまだ外を見て回りたいんだが」

「もう十分じゃないですか。国元へ帰ってワタシと暮らしましょう」

「そうはいうが……」

「まぁまぁ、近々の話でないのなら宿に泊まるという手段もありますし熟考じゅっこうされては? 」

「黙れウジ虫! 」


 ラックさんの言葉を強烈きょうれつな言葉で返すミズチ。

 ラックさんも苦笑いだ。

 なんだかんだでここ数日ミズチと共にしたせいかラックさんもミズチ耐性がついてしまっていた。

 これを喜んでいいのか、悲しんだ方が良いのか。


 そして和気わきあいあいとしながらもリリの村への道を行った。


 雰囲気が急変きゅうへんしたのは馬車を走らせ一日が経った時の事だった。


御者ぎょしゃさん。馬車を止めてください」

「え? 」


 御者さんは戸惑いながらも馬車を止める。

 止まったらすぐに外に出て気配感知を広げた。


「いるな。ホムラ。そっちでも感知できるか? 」

「ああ。明らかに人だろう」

「賊ですか? 」

「そうだ。ダリアは中に入っていろ」

「はい」


 そう言いダリアを馬車の中に入れる。

 するとミズチも出てきたようでピリッとしていた。


「せっかくのお姉様との旅行が」

「結局の所お前はホムラと帰りたいのか、それともホムラと旅をしたいのかどっちなんだ? 」

「お姉様が行くところがワタシの行くところ。それ以上でもそれ以下でもない。出来れば帰ってほしいが、無理そうだ」


 そうか、と言いつつ風魔のつるぎを手に取る。

 魔闘法を用いて身体強度を上げ、ねんには念をということで第一、第二解放させて準備をする。

 ここには御者のみならずダリアもいる。万が一があったらいけない。


 加えて魔力感知を広げた。


「人数も多いな。それにかなり強い奴もいる」

「私の方では何もわからないが」

「かなりの魔力量を持ったやつが数人。ただの山賊じゃないな。この魔力量なら魔法使いだろう。ホムラとミズチは馬車を護ってくれ」

「構わないが、一人で大丈夫か? 」

「依頼主が最優先だ」


 了解したとホムラは言い剣を取った。


「全くどこに行っても賊というのはいるのだな」

「そりゃな」

「一体どこからいてくるのやら」


 そうボヤキながらもミズチは馬車の方に行き細剣レイピアを手に取った。

 それを確認して迫りくる気配に緊張を高める。


 そして——。


「! 魔法か! 」

「この程度。水の精霊よ」


 ミズチがそう唱えるとすぐに水の壁が出来上がり風弾とぶつかった。

 水しぶきが周りに飛びる中次々に風弾や魔弾が飛んでくる。

 それをミズチの水の壁が防ぎ、んだ。


 相手も魔法による遠距離攻撃が通用しないのがわかったのかその姿を現してくる。

 五……十……十五ほどの規模のようだ。

 そしてそこには見覚えのある顔が。


「お前は……ガルトか?! 」

「何だお前かゼクト」


 獰猛どうもうそうな顔をしてオレを見つめるのは元『七宝』の斥候せっこう『ガルト』だった。


 ★


「お頭。知り合いで? 」

「あぁ」

「同業者なら止めときますかい? 」

「構わねぇ。同業者でもねぇしな。それにオレ達がバラバラになった後ヘラヘラ生きてる奴に手加減なんて必要ねぇよ」


 部下とおぼしき賊にそう言い指示をしている。

 冒険者時代の面倒見の良さが残っているのか部下に適切に指示を出している。

 だが今の彼は単なる賊。


ちたな、ガルト」

「はっ! 堕ちてねぇよ。あの状態からい上がったんだよ! 」


 少し強い語気ごきでそう言うガルト。手には冒険者時代愛用あいようしていた短剣ダガーを持っていた。

 周りの賊もそうだが服が綺麗だ。

 賊にしてはあり得ないほどに。

 それだけの回数商人を襲っているのか、誰かがバックにいるのか。


「そう言えばお前、あの後どうしたんだ? いつの間にか消えてたからよ。てっきりいないもんだと思ったが」

「さて。お前が知る必要はないな。お前こそその服、どうしたんだ? 賊に堕ちたにしては綺麗すぎやしないか? 」


 加えるのならば武器もそうだ。

 ガルトの部下の武器がそろい過ぎている。

 武器商人でも襲ったのか?


「それこそお前が知る必要はないな」


 そう言いながらくるりと短剣を回して手に取った。

 これは後ろに貴族がいるな。

 ガルトが強気な口調でこの仕草しぐさをする時は何かしら誤魔化している時だ。

 雇われの傭兵のような感じか、直属の暗部のような感じかわからないが。


 面倒な。


 しかし……。オレもダリアに声を掛けられなければこうなっていたかもしれない。

 そう思うと本当に頭が上がらない。


「じゃぁよ。久々の再会で悪いが——死んでくれ」


 からの手から短剣ダガーが飛んできた。


———

 後書き


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