第六十三話 オレの想い 私の想い

「……どうしたんだ? そんなにそわそわして」

「いや、何でもない」


 ホムラにはオレの様子がおかしいように見えたようだ。

 だがすぐに否定する。

 すると「そうか」とだけ言い再度食事についた。


 観光を終えたオレ達は今夕食を取っている。

 正面にはホムラがおりその隣にはどうにかして世話をしようとするミズチが見える。

 隣にはダリアがおり、逆側にはラックさんが黙々と食事をとっていた。

 トーナは別の宿だ。元より彼女はこの地の冒険者。何とかしてここに居座ろうとする彼女を説得し、別れた。


 そして現在、内心……物凄い緊張している。


 今日プロポーズするべきなのか?! そうなのか?!

 いや村に帰ってから出もいいだろう。

 しかし王都でプロポーズ、これほどにインパクトがあるものはないと思う。

 長命なエルフ族にとってインパクトのある一日をいかに作り出すか。そう考えると王都は最適だ。

 かといって出発は明日だ。時間がない。

 なら、今晩が勝負となるか。


 いや、ここは安全をしてリリの村に帰ってからでもいい気がしてきた。

 インパクト重視で失敗に終わったらいたたまれない。

 そう考えると戻ってからでも十分だろう。


「ゼクトさん。どうしましたか? 顔を百面相ひゃくめんそうさせて」

「いや、なんでもない。そう言えばダリア、今晩オレの部屋に来てくれないか? 」

「「「——」」」


 カランと何かが机に落ちる音がした。

 瞬時にオレが何を口走ったのか、理解する。


 口がすべったぁ!

 やらかした!!! もう後に引けない。


「ここここ、今晩ですね。かしこまりましたぁ! 」

「あ、ちょっ」


 オレが止める間もなくダリアは食事を終えて二回へ上がった。

 くうを切ったオレの手が寂しくそこへ残っている。

 その手を引っ込めるとラックさんがオレの方を向いた。


「夜は……ほどほどにお願いしますね」

「誤解だ! 」


 丸っきし誤解しているラックさんに説明してオレは部屋へと戻った。


 ★


「……ふぅ。どうしたものか」


 ぽつり呟き窓の外を見る。

 暗いが流石王都。所々に明かりが見える。


 今になって思うとプロポーズするにしても部屋はないだろ、と自己嫌悪。

 何なら王城前の広間でプロポーズとかの方が良かったと思う。

 しかし、今更だ。

 この状況でなかったことにするのは無理だろう。


 ベットから立ち上がりアイテムバックを取りに行く。

 バックを手に取り椅子に座った。

 中に手をやろうとした時、ノックの音がした。


「ひゃぁい! 」

「失礼します」


 声が裏返ってしまった。

 き、緊張する!


 ギギギ、と音を立てながら扉が開く。

 そしてそこにいたのは——黒いうさ耳を付けた露出度の高い服を着たエルフだった。


 唖然あぜんとする中ダリアが扉をめて中に入ってくる。

 カツ、カツ、カツとヒールの音が聞こえてきた。

 その音でオレは我に帰り、くすりと笑う。


「ダリアはどこに行ってもダリアだな」

「何ですか、その反応。それよりもこの服! どうでしょうか? 」


 とポーズを決めてくる。

 更に笑い、ダリアが不満げにほほふくらませた。


「せっかく買ったのに反応してくれないなんて。これはこれで軽くショックです」

「いや、似合ってるとは思うぞ。だがその服、なんだかんだで買わないと思ったんだが」

「ゼクトさんに対するアプローチはいくらあっても足りません! 」


 拳を握りそういうダリア。


「それはもう必要ないかもしれないぞ? 」

「それはどういう……」


 コテリと小首を傾げるダリアに「まぁ座ってくれ」と促す。

 言葉の通りに彼女は椅子を引き体をかがませながら着席し背筋を伸ばしてオレの方を向いた。

 ふぅ……。ここからが勝負だ。


「まずダリア。今までありがとうな」

「今更ですよ」


 ニコリとわらいそう言うダリア。

 オレの真剣な雰囲気が伝わったのか彼女もふざけていない。


「それでもだ。思えば約二十年前、いや正確には十九年前か。オレ達がリーダーを失って意気消沈いきしょうちんした時、ダリアがオレをリリの村に強制的に引っ張り移住させてくれてなかったらどうなっていたことやら」

「あれは恩返しも込めてですから」


 と少しほほきながらそう言うダリア。


「だが、しかしおかげでオレは立ち直れた。元に戻ったとは言いがたいが、それでも普通に仕事をし、普通に生活するくらいのことはできるようになった。あの時はひどかったからな」

「本当に、です。このまま死んでしまうんじゃないかと冷や冷やしましたよ」


 そう言いうさ耳とエルフ耳を垂れさせるダリア。


 本当にかなわないな。

 彼女には世話になりっぱなしだ。

 だがそれ以上にオレは彼女を。


「だからダリア——「少しお待ちください」」


 ?! 


「私からも一言。私は村を出てモンスターに襲われ瀕死の所をゼクトさんに助けられた身です。それからも冒険者ギルドの受付嬢に必要な算術さんじゅつ礼儀れいぎ作法を教えていただきました。おかげで王都でも働くことができ、そしてリリの村でも働くことが出来ました」


 そう言い軽く息を吸って吐くダリア。


「最初は完全無敵むてきな英雄様と勘違いしていましたがゼクトさんも一人の人間。徐々にそれがわかるようになり、そして——好きになりました。何故好きになったのかはわかりません。命の恩人だから、面倒を見てくれた人だからとか幾らでも理由をつけることは出来ますが、結局の所「好きである」ことに変わりはありません」


 それを聞き顔が熱くなる。

 真面目な顔をしてそう言われるのは初めてじゃないだろうか。


「だからですね——」

「いやオレが」


 コホン、と軽く咳払い。


「オレも、好きだった。何度ダリアが妻だったと思ったか。だが結局の所寿命差に気を取られ……いやこれは言い訳だな」


 そういいながらアイテムバックを探る。

 そして目的の四角い箱を彼女の前に出す。


「愛しているよ。ダリア。そして、今更だが——結婚してくれ」


 そう言い彼女の顔をじっと見た。

 瞳から涙が溢れ、手で口をおおっている。

 その手を箱に伸ばして開けた。

 そしてオレの方を見つめてほほ笑んだ。


「喜んで」


 こうしてオレとダリアは夫婦になった。


 ★


「しかし寿命差か……」

「プロポーズした後も反省会ですか? 」


 オレの前でダリアが呆れる。

 だがその指には指輪が一つ嵌められていた。


「なにも心配することはありません」

「? というと? 」

「ゼクトさんがさきち私が残されることを心配するのならば私の寿命あとの数百年、ゼクトさんの事を忘れられないほどに濃密なものにすればいいのです」

「そうは言うが……」

「色々な場所に行きましょう。思い出もいっぱい作りましょう。沢山の経験をしましょう。沢山、沢山私を愛してください。そうすれば、後の数百年なんてあっという間です」


 ……。敵わないな。こりゃ。


「わかったよ。これからもよろしく」

「はい! 」


 ダリアが満面まんめんの笑みを浮かべた。

 そしてオレとダリアは扉の方へ向く。


「さて……」

「終わりましたが」


 そう言いオレとダリアは席を立つ。

 扉の方へ歩き、開けた。

 ダダダダダ、と流れるように外から人が入ってきた。


「なにしてるんだ? ホムラ、ミズチ」

「ラックさんもです」

「わ、私は止めたのですよ? 」

「なにを言いますか。ラック殿。ラック殿も賛成していたじゃないですか」

「裏切り者め! 」


 倒れ込んだ状態でラックさんがしょげた。

 はいはい、と言いながら三人を外に出すダリア。


 そしてオレ達は恋人を飛び越し家族になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る