第十八話 おっさん、ホムラにリリの村を案内する 四 冒険者ギルド

 村長たくを出たオレ達はその足で冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドに着くといつもの建物が目に入る。

 しかし活気かっきのあるギルドとは違い今日ものんびりとした雰囲気を出す冒険者ギルド。

 内心ないしん「もっと人手を増やしてくれ」と思いつつもこればかりは仕方ないとあきらめ、中へ入った。


 扉を開けるとちらほら冒険者達が。

 しかしあまり良い依頼が無いのか少し肩を落としながら依頼ボードから依頼書を手に取り受付に行く姿が見える。


「いつも思うがこのギルド、運営は大丈夫なのか? 」

「まだ余裕はありますね。赤字にはなっていませんがギリギリと言ったところでしょうか」

「それは大丈夫、なのか? 」

「赤字のギルド支部が多くあることを考えると優秀ゆうしゅう部類ぶるいかと」


 隣でオレを見上げながらそう言うダリア。

 確かにそう考えると良い部類なのか。


「いざとなればギルマスの給料を減らせばいいですし」

「おい。なにさらっと恐ろしい事を」

「ギルドがピンチの時や職員がやらかした時にみずから頭を下げ、自腹じばらを切るのが管理職の役目やくめです。ふふ」


 こわっ!


 確かにそうなのかもしれないけれどもギルマスが不憫ふびんすぎる。


「ま、まぁホムラのギルドカードの発行だ。行こう」


 こうしてオレ達は受付へと向かった。


 ★


「あれ? ダリアじゃない」

「おはようございます」


 ダリアが軽く微笑みながら同僚どうりょうに挨拶していた。

 輝かしいまでの笑顔なのだが、これが社交しゃこう性というものなのか!

 話しているダリアからホムラに目を向ける。

 最初に出会った時や今日の雰囲気が違うせいか彼女も驚いた顔をしている。

 やはりホムラにもそう見えるのかと思いながらも再びダリアに目を戻す。


「今日は休みじゃなかったっけ? 」

「ええ。休みであってます」

「あ、服が違うもんね。なんか冒険者っぽい」

「一応魔法も使えるので護身をねてこの服装で」

「ダリアが冒険者に回ってくれると依頼も片付くのだけど、それをされてしまうと事務の方が回らなくなるというジレンマ」

「私は事務の方が向いているので今まで通りで大丈夫です。それよりも……」


 と、ダリアがオレの方を向きつられるように受付嬢がこっちを見た。

 そして隣のホムラに気が付いたのだろう、少し目を開いている。


「ゼクトさんじゃん。おはよう」

「おはよう」

「そっちは……昨日の子? 」

「ホムラを見ていたのか」

控室ひかえしつの方からちらっとね」

「それなら話は早い。彼女の冒険者ギルドのカードを作ってくれ」

「ん? 彼女も冒険者を……って、あぁ……」


 受付嬢は目線を落としてホムラの腰あたりを見て、納得したのだろう。

 しかし腰につけた長剣ロングソードが無ければ恐らく冒険者希望と言われても止められると思う。

 服装が服装だからな。彼女が少し疑ったのもわかる。

 すると受付嬢が手続きに入った。


「じゃ、えぇっとホムラさんでしたっけ? 」

「ああ」

「じゃ、こっちの紙に必要事項を書いてね」


 ホムラがオレ達の前を行き羽ペンを手に取る。

 しかし手が動いていない。


「あ、もしかして代筆だいひつが必要だった? 」

「いや、それは大丈夫なのだが」


 そう言い後ろを見てくるホムラ。

 どうしたんだ?

 小首こくびかしげながらも彼女の隣に行きたずねた。


「このらんなんだが」

「ん? 所属? 」

「ああ……。この場合私はどうすれば」


 それを聞き正面から補足ほそくの声が聞こえてきた。


「あ、それは書かなくていいですよぉ」

「書かなくていい? 」

「そのらんあらかじめ誰かのパーティーに入っているかどうかだから。まぁ他の何かのコミュニティーに入っているのなら書いてもいいけど」


 あぁ……。あったな。

 昔のこと過ぎて忘れていた。


「しかし何でそんならんがあるんだ? 」

ようは責任の所在しょざいだよ、ゼクトさん。最初はFランクから始まるでしょ? でもパーティーに入れる。同ランク同士ならいいけど、かけ離れたランク同士ならば問題が起こるかもしれないじゃない? なら責任を持ってその子をパーティーで面倒を見るという意思表示のようなもの、かな」


 と、最後少し自信なさげにダリアの方をみた。


「その通りです。まぁ加入時に問題が起こることなんて、特にこの辺だと起こらないと思いますし、ホムラさんは無記入で良いと思いますよ」

「了解だ。そうしよう」


 ダリアがそう言うとホムラは記入を始めた。


 ホムラ……文字が書けたんだな! 驚きだよ!


 いやどこかで学んだんだろうけれども精霊って文字書けるんだな。

 てっきり文字書掛けないものかと思っていたよ。

 何せ彼女達は見えない存在。

 そもそも羽ペンを触ったことがあるのかわからなかったし。

 オレとしては代筆だいひつをしようかと考えていたが大丈夫そうだ。


 すらすら書く様子を見ながらふと受付嬢の方をみる。

 ホムラを見て少し口角こうかくをあげてダリアを呼んだ。

 そしてホムラから少し離れてひそひそ話を始めた。


 ……。職務放棄ほうきは良いのかよ。


「……だい……の? 」

「……です。み……たで……」


 彼女達が何を話しているのか大体予想はつく。

 ホムラとオレの関係だろう。そしてダリアの現状と今後。

 周りからすればオレの不貞ふていを疑うだろう。


 まぁ結婚、いや付き合ってすらいないのだから不貞ふていもくそも無いのだが。


 横目よこめで彼女達を見ているとホムラが顔をあげて終わったことを告げる。

 受付嬢はすぐさま書類の確認に入り、受付の後ろにある扉へ消えていった。


 少し経つと小冊子しょうさっしと一個の金属カードを持ってきて机の上に置いた。


「登録が完了しました。こちらが手引書、こちらがギルドカードになります」


 そう言うとホムラがそれぞれを手に取り物珍しそうにかざしてみている。

 入りたても冒険者によくある光景なのだがこれを見るたびに微笑ましくなる。

 ダリアもその同僚もどこかにこやかだ。

 だがそれも一瞬。今日の当番は気を引きめた顔をしてホムラを見た。


「ホムラさん。気持ちは分からなくもないですが気を引きめていきましょう。これからは冒険者の一人として節度せつどある行動をよろしくお願いします」


 それを聞き、オレは急に不安になった。


 ホムラが節度せつどある行動?

 無理な気がする。

 率先そっせんして面倒事を起こしに行きそうだ。

 これは目を離したらダメだな。


 心の中で決心けっしんし、ホムラの方をみると受付嬢と話していた。

 どうやら冒険者ギルドの規則きそくや初心者の心得のようなことを聞いているようだ。

 まぁ彼女の手に持つ小冊子にほとんど書かれているのだが、ここは言わない方が良いだろう。


 あとスタミナ草の群生地のことを話し、冒険者ギルドでやることを終えたオレ達は建物を出て更に次の場所へと向かった。

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