第十九話 おっさん、ホムラにリリの村を案内する 五 各所案内 一

「ん? ゼクトとダリア嬢、そしてこの前の……」

「ホムラだ」

「そう。ホムラ嬢だったか」


 木剣と木剣がぶつかり合う音の中、魔族の男性——ギルムさんがオレ達の方をみて聞いて来た。


 ここはリリの村の自警団じけいだんの訓練場。

 広く整地せいちされた地面に大きな倉庫と一つ見える中、げきを飛ばすギルムさんを見つけて近寄り挨拶を。

 一歩前に出て後ろのホムラを紹介し来た目的を言う。


「ホムラがこの町に住むことになったのでご挨拶に、と」

愁傷しゅうしょう心掛こころがけだな」

「これからよろしく頼む」

「ああ。こちらこそ頼む」


 二人ががっしりと握手しにこりと笑う。

 あれ? と思うも話は進む。


「結局の所ダリア嬢は彼女を認めたのかい? 」


 オレの隣にいるダリアに率直に聞くギルムさん。

 ダイレクトすぎやしないか、と思うもダリアが一歩前に出て口を開いた。


「認めないも何も元より彼女のことは、一友人として見ております」


 ( (……。嘘だぁ) )


 それだけはない。

 最初めっちゃ口論してたじゃないか。

 加えるのならばかなりの冷気を放っていた。

 正直、敵対していてその後和解わかいしたと言われた方が納得なっとくだ。


「ま、まぁ……ダリア嬢がそれでいいのならおれから言うことは何もあるまい。長い人生だが瞬間瞬間を大事に生きると言い」

「無論、そのつもりです」


 と、言いつつオレの腕を取りしがみつくダリア。

 当たってる! 当たってるから!!!


 木剣がぶつかり合う音が無くなったと思えばギルムさんの後ろからニヤニヤとした目線がこっちに飛んでいる。

 頼むから離れてくれ!


「な、仲良きことは良いことだな」

うらやましいぜ。ゼクトさん」

「本当だ。オレの嫁さんもこのくらい美人だと良いんだがな」

「お前の所はまだいいだろう。うちの嫁なんて年々尻尾しっぽの毛が減ってきて」

「「「……ご愁傷様しゅうしょうさま」」」


 全員の言葉が一人の獣人族の男性にあわれみの言葉を掛けた。


「奥さんに伝えておきますね」

「「「それだけはやめてくれ!!! 」」」

「ふふ、冗談ですよ」


 軽くあしらわれる男性陣に笑いながらそう言うダリアだが、本当に冗談なのか怪しい。

 彼らの明日が気になる所だがオレは知らない。助けない。助けられない。


「それはそうと今日は全員自警団にいるんですね」

「ああ。珍しく全員の休みが一致いっちしたようでな。十五人全員そろった。おれのように専業せんぎょうで自警団をしている奴以外が全員揃うのは珍しいんだが……お前さん。一戦やって行かないか? 」


 そう言い好戦的にこちらを見るギルムさん。

 同時に少し顔を青ざめさせる後ろの人達。


 この村の自警団は専業の者と本業ほんぎょうがある者に分かれている。

 専業の者は巡回じゅんかいでこの村や近辺を回っているのだが、本業がある——殆どが農家だが——ものは本業を優先ゆうせんしている状態だ。

 

 よって本業がある人との専業、もしくは現役冒険者の間で力の差があるのは当然なわけで、顔を青ざめさせるのも頷ける。


「今日は挨拶に来ただけなのでまた今度にします」

「……そうか。残念だ。せっかく全員揃っているというのに」


 本気で残念がるギルムさんとは真逆まぎゃく安堵あんどの息をついている自警団員。

 別に彼らが弱いというわけではない。ギルムさんが育てた自警団。弱いはずがないのだ。何回も訓練に参加しているからわかる。

 彼らは時折薬草を採りに行ったり、低位のモンスターをったりすることもちらほらあるくらいで、下手な町の衛兵えいへいよりも強い。


 ギルムさんが幾ら彼ら、そしてオレのために提案したとはいえやるわけにはいかない。

 彼らと一戦交えてたら疲労で明日も休まなければなくなるし、なによりホムラを案内する時間が無くなってしまう。

 ギルムさんには悪いが断らせてもらおう。


「では挨拶もすんだので」


 と、言いオレ達はその場を離れた。

 最後に「さっき訓練をしなくてもいいと思った奴。……訓練だ」という物騒な声が聞こえてきたが、きっと彼らなら生きて家に帰れるだろう。

 そう信じてサクサクとその場を離れた。


 次の場所へ行く途中、気になったことを小声でホムラに聞いてみた。


「よくバレなかったな」


 彼女は人形。ギルムさんと握手あくしゅをすると彼が違和感に気が付くはずなのだが気付く様子がなかった。

 何故だ?


「あぁ。貴君きくんと会った時は魔力切れで発動できなかったが、この体には温度調節コントロール・テンプ刻印こくいんされている。魔力を軽く流しただけで温度を調節できるんだ。今回は人肌ひとはだに合わせた」

「道理で」


 温度調節コントロール・テンプ。その名の通り温度を調節する魔法だ。

 確か中級魔法でそこまで魔力消費量も多くない。

 加えるのならば最近温度調節系の魔道具が出回ってきたため修得しゅうとくする人が少なくなっている魔法でもある。

 かくいうオレも覚えていない。戦闘特化とっかだからな。

 そう思いつつも歩いていると目の前に一軒の小さな家が見えてきた。


 ★


「……ゼクトの坊か」

「お世話になっています」

「……修理か? 」

「いえ。今日は違います」

「結婚か? 」

「違います! 新しい住人を紹介しようかと」


 そう言うと扉の中から顔をのぞかせるドワーフの男が興味なさげに「入れ」とぼそりと言った。

 うながされるままに家の中に入る。

 鉄の臭いがするこの家——というよりも工房は『ガンツ工房』。村にただ一つの鍛冶工房で鉄をあつか貴重きちょうな店だ。

 そして目の前を歩く髭もじゃで小さなドワーフ族の男はガンツその人である。


 彼について行くと低い位置にあるノブを回して前に進む。

 この家はドワーフ族であるガンツさんに合わせて作られているからすべてが小さい。


「……好きにしろ」


 そう言いながら一つの木製の椅子に座るガンツさん。

 こっちが窮屈きゅうくつなのを知っているからだろう。座る事を強要きょうようしない。

 ありがたく思いながらもいつものようにガンツさんの前に立ち、オレとダリアの真似をしてホムラが横に立った。

 そして彼女をさして紹介する。

 するとムスっとしたまま口を開いた。


「……ドワーフ? 」

「やっぱり見えないですよね」

「……有り得ない事ではない」

「そうなのですか? 」


 そう言うと軽く頷くガンツさん。


まれに、いる」


 マジか!!!


 横を見る。

 ホムラが僅かに「どうだ」と言っている気がするのは気のせいだろう。


「……鉄の臭いがするが……打っているのか? 」

生憎あいにく私には才能がなかった。逆にこっちの才能があったからこうして旅をしている」


 ホムラが剣のつかを軽く触ると、ガンツさんが顎鬚あごひげを軽くでて「なるほど」とだけ言った。

 え……これだけで理解したのか?!


「魔剣、か」

「そうだ。私が出ていく時に渡してくれたものだ」

「……愛されてるな」

「本当にそう思うよ」


 珍しくガンツさんが顔をゆるませながらホムラと話していたが、ある程度きりの良いところで話を切り上げオレ達は次の目的地へと向かった。

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