第十三話 おっさん、ホムラにリリの村を案内する 一 朝練

「んん~! 」


 朝、日が昇る前に目が覚めた。当然のごとく窓から見える外はまだ暗い。

 腕を上げて伸びをして体をほぐして「ギギギ」ときしむベットから降りて着替えを。


「……昨日はそのまま寝たんだっけか」


 そう呟きながら窓の方へ向かう。

 ギシギシと音を立てながら窓へ行くと木でできた小窓こまどを開けて風を入れる。

 するとふと何かに気が付く。


「? 何だ? いつもと違う感じが」


 気持ちのいい風が入ってくるのだが何かいつもと違うような気がする。

 しかし敵意のような刺々とげとげしいものではなくやわらかい感じだ。

 少し変化に戸惑とまどいながらも思い出した。


「ホムラがいるからか」


 長く赤い髪の彼女を思い出し、窓から顔を彼女がいる方向の方へ向けた。

 壁を見つつも「いつもと違う人がいるだけでここまで違うのか」と思う。

 人によるが男衆おとこしゅう、つまりギルムさんやエリック助祭と飲み明かした次の朝は酒臭い朝になるし、逆にダリアが来た時は襲われないように注意しつつ目にくまを作る朝となる。


 ホムラがいるとこういう朝になるのかと思いつつもそのうち慣れるだろうと考え、換気かんきが終わったことを確認して窓を閉じた。

 その足で寝室の壁際かべぎわに置いてある短剣を取って扉を開けて家の外にでた。


 ★


『お、あれはゼクトだな。何をしているんだ? 』


 宙に浮かぶホムラ精霊バージョンは訓練場で体を動かすゼクトを見つけた。

 彼女はあれからずっとこの家の周囲を探索していたのだがいつの間にか日が昇る時間になったらしい。


 ゼクトを発見した彼女はそれを見つつ「訓練か」と一人納得した。

 それと同時に自分も何か参加したいと考え、壁をすり抜けながら精霊人形エレメンタル・ドールの中に入った。

 

 人形の体に生気が戻ると少し動く。

 ホムラが体を調節しているようだ。

 体が順調に動くことを確認するとベットから立ち上げ、壁際かべぎわに置いていた長剣ロングソードを手に取り腰に装備した。


「私も少し手伝ってやろう」


 そう独りちて家を出た。


 ★


「ゼクト。おはよう」

「ん? ホムラか。おはよう」


 家の方向から声がする。

 暗くてよく見えないが声からするにホムラだろう。


「朝の訓練か? 」

「ああ。習慣だ」


 近くまでより彼女の姿が完全に見えるようになった。

 昨日つけていた長剣ロングソードを腰にし、赤いミニスカをはいている。


「毎日やるとはさすがだな。真面目を体現たいげんしたかのようだ」

「それはめているのか? 」


 目線を上げて言い返す。


「もちろん褒めている。そこでだ。私も手伝えないかなと思ってな」

「見ていたのか? 」


 ホムラが「ああ」というと腰の剣に手をやった。

 なるほど。それで長剣ロングソードが装備状態なんだな。

 にしてもどこから見ていた?

 あの部屋から直接こっちはのぞけないはずなんだが。


「それで一戦、どうだ? 」

「そうだな。じゃ、頼もうか」

「……言った私が言うのもなんだがこの後の冒険者としての仕事は大丈夫か? 」

「それなら大丈夫だ。今日は休み。と、言うよりも週に最低でも一日は休みを取ることにしている。疲れが残るからな」

「慎重だな」

「無理をすることは無い。金はそれなりに稼いでるし、何よりオレがリリの村にいるのはゆっくりと過ごすためだ」


 なるほど、という彼女を前に軽く微笑む。


「最初は武器なしでやろうか」

「オレは良いが……」

「流石にリーチに差があり過ぎる」


 そう言い目線を落として短剣ダガーを持つ手を見た。

 少しあなどられている気がしないでもないが、確かに短剣ダガー長剣ロングソードではリーチに差があり過ぎるな。

 これは、乗るか。


「よし。分かったそれでいこう」

「慣れてきたら長剣ロングソードを使っても? 」

「ま、オレが怪我をしない程度にな」

「本当に慎重というか、なんというか」


 少しあきれた表情をしながらも彼女が拳を前に構えた。

 遅れてオレも拳を構える。


「瞬動」


 一気に彼女の前まで移動し——


「重撃」


 重い一撃を胸部に放った。


 キィン! という音がし、受け止められたことを認識。

 わずかにバックアップで距離を取り「硬化」で強化した脚で回し蹴りを頭部に放つも、またもや受け止められて金属音がする。

 反撃が来る前に脚をおろして更に距離を取り構える。


「単なる人形と思っていたら痛い目を見るぞ? 」

「……どんな素材でできてんだ」

「鉄はもちろんの事様々な金属に加えてこのシャツ一つに関しても魔法糸や精霊糸のような特殊素材でできている」

「なにその歩く国宝」

「じゃぁ次はこっちだ」


 瞬間、彼女の姿が消えた。


 危機感知。


 腕を「硬化」で強化し、側頭部に置くと金属音が。

 すぐさま足を動かして的にならないように移動する。


 危機感知。


 移動先で感知が発動し、反射的に瞬動でそこから離れると拳を地面に叩きつけていた。


「おいおい。嘘だろ、殺す気か」

「なに。この程度では死なないだろうと思ってな。実際回避されている」


 砂ぼこりが舞う中、笑顔で彼女はそう言った。

 叩きつけられた場所を見るとそこは陥没かんぼつしている。

 本当に剣じゃなくてよかった。

 剣を持った状態でこの威力を発揮されたら今頃いまごろオレの腕は無くなっているな。

 これは出ししみは出来ないな。オレの身の安全のためにも。


「む? 」


 いぶかしめにこちらを見るホムラを放置し集中。


 体中に魔力と気を巡らせる。

 少量の魔力に多くの気。

 それぞれを馴染なじませ循環させた。


「……何やら面白い事をしているな。武技、ではなさそうだな。しかし魔法とも違う。異能か? 」

「いや。分類上は武技の一種だ。この技は人よりも魔力が少なく、武技のさいめぐまれなかったオレが冒険者業をして死なずにここまで生き残れた理由の一つでもある」


 完全に巡らせ、完了。


 体中に気と魔力が行き渡り、体が軽くなった。力もみなぎる。

 加えて武技: 硬化以上の硬さを持った体となった。


 これは中位武技と上位武技の間にあるような武技だ。正確に分類するならば気を活用かつようした武技という技術からは離れるのだが、マイナーなこの技は武技に分類されたまま。

 その昔行きまった時、本をあさりまくりやっとの思いで見つけた武技。

 ずっとつかってきたからそれなりに自身はあるのだが、彼女に対してはどうだろうか。


 集中を解かないままホムラを見ると余裕の表情から一転、少し緊張している。

 これを使ってまだ余裕でいられたらオレの立つがない。


魔闘まとう法。これがオレの武器の一つだ」


 そして最速の一撃をホムラにかました。

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