第十二話 おっさん、一日を終える 二

「本当に食べるのか? 」

「無論だ。にしてもいい匂いだな」

「そう言ってくれるとありがたいが……。匂いもわかるのか? 」

「分かるぞ。そして味もわかる。なにやら感知系の魔法を応用して……とか複雑なことを言っていたから構造はよくわからないがな」

「使っている本人がそれでいいのかよ」

「使えれればいい」


 そう言いながら目の前の食事に目を移した。

 オレが作った食事だ。


 内容は簡単。

 野菜のスープに黒パンとベーコン。

 スープの素材はこの村のもので黒パンはパン屋がこの村にあるからそこから買ってきた。

 ベーコンは王都から流れてきたもので、時折来る商人から買っているものだったりする。

 よってオレが作ったといえば簡単な野菜スープくらいなのだが、それを目新しい物を見るような目で見て、輝かせられると少しこそばゆい。


 少し恥ずかしく思いながらも食事の前に祈りの言葉を。


「「クレアーテ様の恵みに感謝して」」


 そしてフォークを手に取り食事に入った。


「ん~柔らかい! だが柔らかすぎないこの旨味うまみ! 」

「そ、そうか」


 オレも引くぐらいの興奮具合ぐあいでホムラが食事をとっている。

 何というか、この程度で「美味しい」と言われたら料理人が作った料理を食べたらどういう反応をするのか気になるな。


 本当に美味しそうに食べるな。

 スープにつけたパンを口に頬張ほおばりリスのようにふくらませどんどんと食べている。


「食べ物は逃げないからゆっくりと食べたらどうだ」

「むぐ、むぐぐぐぐ、むぐ」


 何を言っているのかわからない。

 呆れているとゴクリと全て飲み込んだ。


「ふぅ。食べた」

「え? 」


 その言葉と同時に彼女の皿を見た。

 そこには少し前まであった料理がすべてなくなっている。


「早いな」

「温かいうちに食べないとな」


 そうか、とうなずきながらもオレもすぐに食べ終わり、片付け、ホムラが移動した広間に向かった。


「美味しかった」


 オレが椅子に座ると赤く長い髪を軽くらしながら笑顔でそう言った。

 軽くほほきながら「それはよかった」という。


「だが素朴そぼくな食べ物だったと思うが」

「優しい味だった。今まで食べた食事は、どこかとがっていたからな」


 どんな食べ物だよ。


「しかし味と匂いは置いておくとしても、食べたものはどうなってるんだ? 」

「難しい事を言っていたからよくわからない。何やらアイテムバックの技術の応用がなにやらとか」

「ホムラもその場にいたんだろ? 魔法の勉強とかしなかったのか? 」

「している奴もいたが、私は基本的に魔法よりも精霊魔法を使うからな」


 精霊だから、精霊魔法を使うのか?

 少し首を傾げて彼女に聞いた。


「精霊は基本的に無条件で精霊魔法が使えるんだ。人とかになると加護を受けないと使えないがな。まぁ制限として自分の属性に応じたものしか使えないが、それでも魔力を使う必要もなければ呪文や魔法陣、魔法式を覚える必要もない。率先そっせんして魔法を覚えようとする精霊は極少数だと思うが」


 腕を組み胸を押し上げ、思い出すかのように上を向いてそう言った。

 確かに便利な方法があるのならばわざわざ覚えないといけない魔法を覚える必要はないな。

 少しひじをついてその姿をながめる。

 元気そうにしているが友人とはぐれたからだろうか。その顔は少しうれいをびている。

 早く友人とやらが来て彼女に元気が戻る事を祈るばかりである。


 ……。眼福がんぷくではあった。


 ★


「疲れた~」


 オレはみすぼらしいベットにダイブした。


 ここはオレの寝室でプライベート室でもある。

 広間にあるものよりもより簡素な机と椅子があり、少しばかしの本棚がある。

 これはこっちに移る時に買ったものだ。


 本が好きな人ならばそこに本を置くのかもしれないが結局買っただけ。

 今はそこになにもない。

 昔は何冊か、まだ現役バリバリだった頃に必死になって武技を覚えようとしていた時に買った本が何冊かあったのだが、それもこの村から出ていった教え子にあげてしまった。


 オレは基本的にこの村では冒険者業をしている。

 急用時には大工としても働くが、基本的には冒険者業だ。

 この村における冒険者の役割は他の村人が出来ない事の補填ほてんだ。


 よってあまりやる事がない。


 しかし全くないわけではない。

 時々外からも冒険者がやって来ることで誇張こちょうされた話を聞いて外に出たいと思っている子供が時折いる。

 ひまめるように冒険者志望の子供達が外で最低限身を護れるように指導者として、冒険者側で戦闘訓練を行っているのがオレだ。

 外に出ていった彼ら・彼女らにあげてしまったがためにオレの本棚は寂しい思いをしているわけなのだが……。


「そういや元気にしてるだろうか。いや、それよりも生きてるのか? 」


 ……。


 急に不安になってきた。


「と、言っても何かできる訳でもないんだが」


 育っていった皆に今の状態で勝てるかと言われれば厳しい。

 日に日におとろえていく肉体。

 そんな中、出会った不思議な人形。


「これからどうな……る、か……」


 今日あったことを思い出しているとどんどんと意識は沈み、そして次の日の朝を迎えていた。


 ★


『……。よし』


 ゼクトたくの客室。

 ベットの上に一人の女性、いや精霊人形エレメンタル・ドール『ホムラ』が横になっていた。

 しかしそこから生気せいきは見られない。


『流石に長い間入っているのは窮屈きゅうくつだな。こうして安心して外に出られる所があるというのはありがたいものだ』


 精霊人形エレメンタル・ドールの周りに——普通の人は視えないが——赤や青のような火をともした人のようなものが軽く呟いた。

 それはけており、周りに浮かぶ火の玉は周囲の道具を燃やしていない。


 『火の精霊』


 そこに浮かぶ彼女こそが『ホムラ』本体であり、そして人形を動かす原動力そのものである。


『ゼクトに出会えたのは本当によかった。うつわを置ける場所も提供してくれた。これならばしばらくの間人間達と遊ぶことが出来るだろ』


 ぐぐぐっと腕を上に伸ばしつつそう呟く。


 精霊という存在は基本的に自由気まま。加護を与えるのも気分次第。自由・オブ・自由で我が道を行く彼女達は、今刺激にえていた。

 よってホムラ達は器を得て外に出たのだが……。


『少し出てみるか』


 長らく器に入っていないといけない状況が逆にストレスとなり少し開放的になっていた。


 壁をすり抜け外に出る。

 月の光が彼女を透過し神秘しんぴ性をかもし出している。

 火の玉をお供に連れて透過した先、倉庫が目に入った。

 それをもすり抜け倉庫の中に。


『あまり面白そうではなかったのだが』


 そうぼやきながらも暇つぶしをするホムラ。

 睡眠をとらない彼女にとっては夜も昼も変わらない。


『ん? 何だこれは? 魔剣? 』


 倉庫の隅の方へ行くと、そこには乱雑に置かれた他の道具とは異なり、明らかに大事に保管されている剣が一本そこにあった。

 そしてホムラはすぐさまそこから魔力を感じ取る。


『何故これを装備していなかったんだ? 』


 今日あったばかりだがホムラはゼクトから慎重さを感じ取っていた。

 逆に短剣しか装備していなかったあの時の状況に違和感を持つ。


『ま、ゼクトにも何かあるのだろう』


 そう呟きながらすぐにそのことを忘れ精霊の状態で周りを探索し夜を明かしたホムラであった。

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