第54話 こっち見んな
「あー、栞ちゃん、もうちょい下。あと、右」
「んー この辺かな?」
「そうそこ。そのまま、んっ……うん、いい感じ」
「んふ。良かった♡」
「……あんたら、屋上でなに愉快な事してるんすか? 今どき二人羽織?」
「二人羽織じゃないわ。栞ちゃんが弁当作ってくれたんだけど、向き合って食べるのまだ無理って言うからさ? んぐんぐ」
「うふふっ」
「そんで後ろからアーンすか。また、余興の練習でもしてんのかと思ったっす」
「明里ちゃんも一緒に食べる? 部長、次はハンバーグいきますよー♡」
「あー。うん」
「じゃあ、わたしが誘導してあげるっす。先輩は大口開けてて下さい。栞ちゃん、もうちょい上っす。そうそう、そのまま突っ込んで」
「ここ? えいっ」
「ふんがっ、ちょっ、そこ、穴違うっ、はなっはなっ」
「あー、惜しい。もうちょい小さかったら鼻の穴にイン出来たんすけど」
「惜しい、じゃねぇわっ! ワザと誘導しやがって。ソースが入っちゃったぞ? ゲホッ」
「大丈夫ですか、部長? お茶いります?」
「栞ちゃん、もうちょい上っすよ」
「止めろって! 明里、マジふざけんなっ」
「ふん、こんなトコでバカップルやってるからっすよ」
◇
「ところで栞ちゃん。例のアレ、できたけどどーするっす?」
「アレ? ああ、アレね。うーん、どーしよーかなー?」
「アレってなんだ?」
「アレすっよ、アレ」
「あれか?」
「アレっす」
「なんだ、あれか」
「そーっす」
「……二人ともすごいねー。よくそれで伝わるんですね。以心伝心かな?」
「いんや、全然わかんないぞ?」
「わたしも、全然伝わってないってのはわかったっす」
「今の不毛な会話はなんだったんだろう……?」
「だからアレってなんだよ?」
「アレっすよ。栞ちゃん用のスライムスーツっす」
「そーいや、そんな話があったな」
「これでスーパー戦隊に一歩近づいたっすよ」
「マジで増やすつもりなん?」
「当然っすよ。今は先輩一人でスーパー戦隊って言うより、単なる変態っすけど」
「誰が変態だっつーの」
「二人なら初代プリ○ュアですねー」
「うーん、先輩の顔が幼女向けじゃないんでプリキ○アはムリでは」
「ああ、どっちかって言うと敵のエロい幹部かなー?」
「栞ちゃん、何気にひどいな」
◇
「結局、栞ちゃんはリモートになったか」
《ごめんなさい。部室はもうちょっと慣れてから……》
「ああ問題ないよ。また昼ご飯から慣れてけばいいし」
《はい、明日もお弁当作ってきますね♡》
「それなんすけど」
「どれだ?」
「先輩の顔が怖い問題っす」
「またどストレートに来たね?」
「要は先輩の顔が可愛くなればいいと思うんすよ」
《私、別に部長の顔が怖い訳じゃないけど、可愛くなるなら見たいですっ》
「はい、そこでコレ。ケモ耳セット〜!!」
《ウサ耳だー。いいかもー》
「……これを付けろと?」
「栞ちゃんのためっすよ?」
《わくわく♫》
「しゃーないなぁ。………………うーんと、こんな感じか?」
「…………あれ?」
《…………なんか、思ってたのと違いますねー?》
「なんだよ?」
「いや、普通は可愛くなるハズなんすけどね?」
《ねー? なんか、よけい妖艶さが増したよーな》
「あー!、バニーガールを連想させるからっすよ。顔がモロ水商売系なんすよね」
《そーだね、胸開き衣装に網タイツでピンヒールとか履いてそーだよねー。暗殺者がバニーガールに変装してパーティに潜り込みました、みたいな?》
「…………」
「ならこれっす。昭和のアイテム、瓶底メガネー!!」
《丸○君だー》
「そう、昔のギャグマンガの秀才キャラは、みんなこれを掛けていたとゆー眼鏡っす。さあ先輩、どぞ」
「………………こう?」
「ぶはっ」
《ぐふっ》
「……おまえらな……」
《こっ、こっち見ないでくださ……ぶはっ》
「うぐっ、は、腹いてぇっす、ぎゃはははは」
「………………」
「結局、どっちにしても栞ちゃん、まともに見れなかったすね、ぶはっ」
「…………」
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