第53話 空白の時間は
「あっ、良かったー。飲み物買ってきたっすよ」
「……何が良かったなんだ?」
「いやだって、扉開けたら真っ最中でしたってなると、流石に気まずいじゃないすか」
「…………」
「…………ああ、そうね」
「……あの、リアルな間を開けるの、止めてもらっていいすか?」
『ふんふん、いいんじゃないか? とりあえずお茶しよう』
◇
「鈴音先生、あの二人どう思います? ヤっちゃったんすかね?」
『ふふん、私としては彼女らがどんな行為に及ぼうが、どうでもいいのさ。ただ、あの萌君の顔を見てごらん? とろけるようないい顔をしてるだろ? あの表情を得られたって事が重要なのさ』
「なるほど。確かに魅力が跳ね上がってる感じすね。深いっす」
「なにコソコソ話してんだ? あの二人」
「仲良くなったみたいですね。あたしと真先輩みたいに。ふふっ」
◇
『それじゃ、後半いこうか。ここからは激しいポーズはないからね。むしろこう、優しい穏やかな雰囲気で』
「なるほど、ひとプレイ終わった感じすかね」
「…………」
『……そうそう、萌君を優しく抱き寄せて……』
『…………髪を撫でながら見つめ合って、何か囁いてる、みたいな……』
『…………そう、そこで優しい口づけを……』
◇
『よし、とりあえず今日のモデルはこの辺でOKだよ。多分、また追加でお願いする事になると思うけど、いいかい?』
「全然オッケーっす」
「いや、なんでお前が答えるんだ?」
「どうせ、先輩もオッケーなんでしょ?」
「まあ、そうだけども」
「良かった。嬉しいです、真先輩♡」
「おー、萌ちゃんのハートマークがまぶしいっすね」
「なんで見えるんだよ?」
「見えるんじゃなくて、感じるんす」
「お前はブルース・リーか?」
◇
「先輩、なかなか充実した時間でしたね」
「何故かお前の機嫌がいいのが不気味だ」
「わたしっすか? 随分勉強になったすからね。先輩と萌ちゃんのエロい百合マンガも楽しみだし」
「ポーズのモデルになっただけだろ? 別にアタシと萌ちゃんがマンガに登場する訳じゃないと思うぞ?」
「さあ、それはどうすかね?」
「涼音先生、何か言ってたの?」
「二人共イメージ通りって言ってたっす」
「ふうん、随分涼音先生と仲良くなったんだな」
「先輩と萌ちゃんほどじゃないっすよ。二人っきりの時、何かありました?」
「ないよ」
「即答がウソ臭いっすよ?」
「……役作り的な事はしたかな」
「ふうん、まあいいっす。取り敢えず栞ちゃんと由麻さんには黙っといてあげるっすよ」
「気ぃ回し過ぎなんだよ」
「なら言っていいんすか?」
「……面倒くさそうだから、黙っとくか」
「でしよ? 」
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