フォギーフロッグの怪事件 ~1930年のイギリスにおいて、露出狂、糞便、悪魔、宇宙船などは、街の人々へどのような影響を及ぼしたのか?その疑問に答えてくれる、とある女探偵の怪事件簿~
25,新人警官のミル・ベイカー巡査 ー前説ー
糞便の置かれた酒場
25,新人警官のミル・ベイカー巡査 ー前説ー
それはアリスが新聞を買いに外出をしていた時の出来事であった。
「いってぇ!! 」
アリスは街の通りを曲がったところで、とある人物とぶつかった。
「うわぁ!! 」
アリスとぶつかったその人物も、衝撃でふっとばされる。その人物は自転車に乗っており、それごと地面に倒れ込んでしまった。
「いって……すいません、大丈夫ですか? 」
立ち上がりながら、アリスが相手に問いかける。
問いかけられたその人物は慌てて立ち上がり、アリスに向かって頭を下げた。
「も、申し訳ございませんっ! こちらの不注意です! お、お怪我はありませんか? 」
その人物はアリスに向かって慌てて言った。
「……ああ、大丈夫だ」
アリスはそう言いながら、その人物のことを観察する。
その人物は、女性であり、スコットランドヤード警察の制服を着ていた。
彼女は、身長がとても低く、華奢な体型をしていた。頭の後ろで結われた金色の髪が特徴的で、肌の色はミルクのように白く、顔立ちはとても幼い。
そして、彼女の顔はとある小動物に酷似していた。
「……カワウソ? 」
アリスは首を傾げながら、頭に思い浮かんだ動物の名前をそのまま口にした。
「なっ……! だ、誰がカワウソだ! 」
その警察官は怒った表情でアリスに言う。
「お前、スコットランドヤードの警察官だよな? ……見ねぇ顔だが、新人なのか? 」
アリスが訝しげな顔でそう尋ねると、その警察官は姿勢を正し、自己紹介をした。
「はい。巡査のミル・ベイカーと申します。本年度から、このフォギーフロッグに配属されました。よろしくお願い致します」
ミル・ベイカーと名乗ったその女性警官は、そう言ってアリスにサッと右手を差し出す。
アリスは彼女の手を握りながら言った。
「ああ、よろしくな、カワウソ巡査」
「だから、誰がカワウソだ! 」
ミルは怒った表情でアリスに言う。アリスは面倒臭そうな顔をしながら、それに言葉を返す。
「誰って、お前以外にいないだろうが。それとも私に見えてないだけで、お前の隣にカワウソの亡霊でもいんのか? 」
「な、なんだ、お前! 初対面の相手に失礼だろうが! お前、一体何者なんだよ? 」
ミルはアリスをじとっとした目で睨みながら質問する。
アリスは得意げにその質問に答えた。
「私はアリス・レッドメインだ。ファミリーネームから察しがつくかもしれねぇが、私の兄はお前らの上司であるリチャード・レッドメイン警視。つまり、私はお前の上司の妹だ」
「なっ!? レ、レッドメイン警視の……妹!? 」
ミルは心底驚いたような顔で、大きな声を出す。
アリスは腕を組み、偉そうな態度で彼女に言う。
「ああ、そうさ。私の兄さんはスコットランドヤードのお偉いさんだ。だから、あんまり私に失礼なこと言わない方がいいぞ。でないと、リチャード兄さんに言いつけっからな! なーっはっはっは! 」
高笑いをするアリスに、ミルは悔しそうに言う。
「くそ……! こんなクソみたいな奴がレッドメイン警視の妹だなんて……! 」
「……おい、早速失礼なこと言うんじゃねぇよ」
アリスは呆れた顔で彼女に指摘した。
「ん……? ということは、ラドクリフ警部補が言っていた”探偵”というのは、お前のことか? 」
ミルは不満そうな顔でアリスに問う。
「ああ、私は探偵さ。それも、お前ら警察の仕事を奪っちまうような、飛びっ切り優秀な、な。警部補は私のことをなんて言ってた? 」
「ラドクリフ警部補は『この街には、変な事件ばかりを追っている、頭のおかしい探偵がいるから気を付けろ』と言っていた」
「……おい」
アリスはジトっとした目で、ミルを睨みながら言った。
そんなアリスを無視するかのように、ミルは倒れている自転車に手を伸ばし言った。
「じゃあ、私はそろそろパトロールに戻るから、お前も家に帰れ。ちゃんと前を見て歩くんだぞ? 」
ミルはそう言った後、自転車にまたがりその場を離れようとする。
「おう、がんばれよ、ミス・オッター(カワウソ)。事件現場で会ったら世話してやるよ」
後ろからアリスの声が聞こえてきた。
「だから、カワウソって言うな! 二度とお前なんかと会いたくないわ! 」
ミルは拳を振り上げてそう言った後、自転車を漕いで進みだした。
しかし、後に彼女らは『糞便の置かれた酒場事件』で再開することとなる……。
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