24,悪魔召喚倶楽部 ー終曲ー

 アリス達が悪魔召喚倶楽部の集会に参加した翌日。


「えっ…!?どうしてですか…!?」


 フォギーフロッグ23の家の前で、ラミー・コールソンが大声で問いかける。


 彼女の声に反応して、近くを歩いている人がこちらをチラッと見てきた。


 コールソン夫人の目の前には、少し落ち込んでいる様子のアリスがいる。


「勝手で申し訳ありませんが、今回の依頼は断らせていただきたいです…。」


 アリスは俯きながら、暗い口調でそう言った。


 コールソン夫人はとても困惑している様子であった。


「なぜですか!?昨日は、私の悩みに凄く真摯に向き合ってくださっていたのに…。お金ですか…?報酬が足りないようでしたら、もっと上乗せ致します…!」


 コールソン夫人は必死に食い下がる。


 それを聞いたアリスは少し残念そうであった。


「…お金の問題ではありません。こちらの身勝手な事情です。…本当に申し訳ございません。」


 アリスは静かに頭を下げた。彼女は何かを反省しているようだった。


「報酬はもちろんいりませんし、前金もお返し致します。」


 アリスはポケットから布の袋を取り出し、コールソン夫人に渡した。中身はもちろん、依頼の時に彼女が払ったのと同じ額のお金である。


「…そのお金で、旦那さんに誕生日プレゼントでも買ってあげてください。」


 アリスはそう言ってから玄関の扉を開き、家の中へ戻ろうとした。


 扉を閉める際に、コールソン夫人の顔が見えた。彼女は当惑してたが、どこか心当たりがあるような、そんな様子であった。


 やがて、扉は完全に閉まり切り、コールソン夫人の姿は見えなくなった。


 アリスは後ろで手を組み、俯きながら玄関扉へ軽くもたれ掛かった。


「…アリス、訪ねて来たのはコールソン夫人かい?」


 アリスの前方からコリンの声が聞こえてきた。


 彼女はゆっくりと顔を上げる。


 そこには、心配そうな顔でアリスのことを見つめるコリンがいた。


「…ああ。依頼を断らせてもらった。私には、達成できそうになかったからな…。あんだけ息巻いてた割に、蓋を開けたらこのざまさ…。不甲斐なくてしょうがねぇ…。」


 アリスは暗い口調でそう言った。


「そっか…。」


 彼女の言葉を聞いたコリンは、少し悲しそうな顔をして、静かにそう呟いた。


 しかし、少し間を置いた後、彼は優しく微笑みながらアリスに言った。


「じゃあ、また日を改めてコールソンさんに謝りに行かないとね。今度、一緒に行こう。」


 コリンの言葉を聞いたアリスは、俯いたまま上目遣いで彼の方を見る。


「…私のミスだ。謝罪には私1人で行く。コリン、お前が謝りに行く必要はねぇ。」


「ううん。僕はアリスの助手だよ?アリスのミスは僕のミスさ。」


 コリンはそのまま言葉を続ける。


「昨日、アリスとマチルダさんは居場所の話をしていただろう?だから僕も、自分の居場所について考えてみたんだ。…僕の居場所は、探偵である君の隣さ。もし、そこにいたいと願うのなら、きっちりと勤めを果たさないとね。」


 コリンはアリスの目の前まで歩いていき、少しだけ彼女の顔を下から覗き込んだ。


「あと、僕らの居場所はとても汚れていると思うんだ。探偵は人を疑う職業でしょ?アリスと僕が、探偵とその助手でいられるのは、僕らが人を疑うような性格の悪い人間だからさ。」


 彼はそう言って意地悪な笑みを浮かべた。


 そんなコリンの顔を見て、アリスは不思議そうな顔をしていた。


 だが、やがてニヤリと笑みを浮かべて得意げに言った。


「ああ、その通りさ、コリン。自分達の居場所を確保する為なら、人のことなんて疑いまくりだ。…最近、フェンスの上にいた(ぬるま湯につかってた)せいか忘れてたぜ。探偵は嫌われて然るべき職だってことをな。」


 アリスはコリンの肩にポンと手を置いた。


 アリスに元気が戻ったことがわかり、コリンは嬉しそうであった。


「よし、じゃあ部屋に戻るか。」


「うん。」


 アリスが階段に向かって歩き出す。それにコリンはついて行こうとした。


 すると、それを引き留めるかのように、ハスラー夫人の声が聞こえてきた。


「ちょっと、アリス。掃除を手伝ってくれる約束だったろ?手伝っとくれよ。」


 ハスラー夫人は、1階の部屋の扉から顔を覗かせ、アリスに言った。


 数秒の沈黙の後、アリスが答えた。


「すいません、ハスラー夫人。急遽、探偵としての仕事が入ったので、掃除はコリンが手伝います。」


 そう答えた彼女をジトっとした目で睨みながらコリンが言う。


「ちゃんと約束守りなよ、アリス…。」


 アリスは得意げな顔で返した。


「私は性格が悪いからな、約束くらい破るさ。」

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